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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第7章 闇を背負いし覚悟 ーᚱᛖᛉᛟᛚᚠ ᛁᚾ ᛞᚨᚱᚲᚾᛖᛊー
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第72話 恋人達──LOVERSの正位置と裏腹 ♡ ᛚᛟᚠᛖᚱᛊ ≠

 暗黒神よ、必要悪に堕ちよ──。

 貴族バンデの思惑(おもわく)を一笑に()した暗黒神ヴァイロ・カノン・アルベェリア。


 我が故郷(ふるさと)カノンを護る為──。

 可愛い弟子達の安堵(あんど)が為──。


 そして何より今、肩を抱き寄せた同棲人。

 小さくとも自分に取っては太陽の(ごと)きリンネとの幸せを謳歌(おうか)する為──自分が闇へ堕ちる(影に回る)のは、元より覚悟の上であった。


 今さら脇からしゃしゃり出た亜人好きの風変わりな貴族(馬鹿)戯言(ざれごと)など、何処吹く風なのだ。バンデが連れて来た人ならざる者共も抱え込む?


「──とんだお笑い種だなバンデ。俺は暗黒神ヴァイロ()だ、亜人達(デミヒューマン)も全て(かこ)ってやる。だが争いに巻き込む以上、()()も命の保証は出来ない」


 ヴァイロ()──普段心(おだ)やかなヴァイロらしからぬ唯我独尊(ゆいがどくそん)賢士(けんし)ルオラに殺されたコボルト族のカネランの死に様を匂わす。


 抱かれたリンネが複雑な表情、緑色の髪を揺らす。自らを様付けするなど優しい彼には似合わない台詞。


 そして何より大好きなヴァイが闇落ちを覚悟するのなら、リンネ自身は無論の事。

 アギド、ミリア、アズール等少年少女も(わら)って辿り()()必然(輪廻)

 ヴァイロの(あお)る『命の保証』とは自分達をも指している。それが判らぬ(おろ)かな男ではない筈なのだ。


 サァァァァ……。


「──ッ!?」

「そしてバンデ。シアンの子供を人質にする極悪非道(ごくあくひどう)……以後、二度目はないと思え……!」


 確実に武器を手にしていなかった暗黒神(ヴァイロ)

 赤霧(あかぎり)をバンデの首元へ召喚(しょうかん)──大剣を瞬時に形作り薄皮1枚を割いた『紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)』が出現。小賢(こざか)しきバンデの冷汗を(まね)いた。


「め、滅相(めっそう)もない! シアン様の事情を探っていたら偶々(たまたま)知り得たに過ぎません……」


「フンッ……事情を探るぅ? それこそ余計な詮索(せんさく)だ」


 身じろぎひとつ出来ずに命()いをしたバンデの(あわ)れなる引き()った表情。人質に取るつもりはなかった、震えた声を発した弁解(べんかい)


 長い付き合いである異性の友達シアンの事柄を無断で調べたバンデに対し、ヴァイロはきつい(きゅう)()えたのだ。


「お、お止めくだ……さい!」


「ふぅ……()すんだヴァイ。私の()はとっくに晴れている」


 赤い歪な大剣(レッド・ミラージュ)が持ち主に握られていないにも関わらず、まるで意思を持った生き物が(ごと)く、ジワリッとバンデの首筋へ裁き(刀身)を突き立てた。

 乾き切った初老の男。汗だった体液から()(にじ)み始める。


 二人のやり取りに溜息(ためいき)(こぼ)したシアン・ノイン・ロッソ。バンデは所詮(しょせん)、小悪党の(いき)を出ない。


 もし本当に亡き夫ノインとの間に身籠(みごも)った自身の子宝へ手を出す真実の咎人(とがびと)へバンデが飛躍(ひやく)しようものなら、シアン自身が容赦せずに斬り捨てる。

 バンデにそんな(きも)()わった度胸など存在しない。だから小悪党に過ぎぬ──これが戦の天秤(測りにかける女)の出した評価であった。


 ヴァイロの愛刀である紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)が赤い霧へ帰り消え失せる。小皺(こじわ)の増えた細い(まぶた)を皿に変えたバンデ、全身の力が抜け椅子へズルリッと沈み込んだ。


「然しこれでいよいよ此処には居られなくなった……」


 シアンの顔に(わず)かだが暗い影が差す。欲に目が(くら)んだフォルデノ王国に用はない。されど夫との思い出が(つの)場所(自宅)『喫茶ノイン』のみが気掛かり。


「まぁ……俺に取っては護ってやる義理も無くなった。それに戦之女神(エディウス神)だって、俺が地元(カノン)へ引っ込めば、こんなお飾りなんかに用はないさ」


 脱いだテンガロンハットに指入れクルクル回すヴァイロの御遊戯(おゆうぎ)

 財力どころかヴァイロ達にかける信頼すら喪失(そうしつ)したフォルデノ王国。『お飾りの国が自活出来るのなら精々(せいぜい)(はげ)めよ』これが彼の本音。


 されど唯一の(わび)しさは、シアンと同じく喫茶ノインの珈琲(落着き)なのだ。『王国に戦火は飛び火しないさ』女店主(シアン)と自分自身へ言い聞かせた。


 以後──黒を背負う軍勢は、フォルデノ王国を負われる形で撤退。貴族バンデも居場所を(うば)われ、カノンへ()()びる運びとなった。


 ◇◇


 一方、ヴァイロ陣営に取っては未だ消息不明であるレアット・ウィニゲスタ(アルベェラータ)を囲っている戦之女神(エディウス神)陣営。


 (ほとん)ど男子禁制と云えた白銀の女神(エディウス神)(まつ)る神殿にて三食昼寝付の同居生活──。

 無論仕事も奉仕活動すら求められないレアット。愛らしい白の少女を心底(した)う女性陣の苛立(いらだ)ちを買っていた。


「──全くもぅ……エディーが全っ然遊んでくれない! あんな筋肉ダルマの何処が良いってのよッ!」


 森の都ラファンの中心地ディオルでの戦闘にて負った傷はすっかり癒えた賢士(けんし)ルオラ・ロッギオネ・ルマンドが今宵(こよい)妖艶(ようえん)な姿と香りを(ただよ)わせつつ告げた文句。


 恋しいエディーを毎晩独占し切った禁断の花園(百合)を楽しんでいたルオラなのだ。

 ()()横恋慕(よこれんぼ)ならまだしも、よもやな(けが)れた男。然もイケてる優男でもなかった。せっせと女を(みが)いた化粧が(むな)しく夜の(とばり)に沈みそうだ。


「あの男が酷い傷を負ったにも関わらず、何の癒し(回復術)も受けずに自然治癒(ちゆ)したのが気になるらしい……です」


 戦之女神(エディウス神)の側近──とは名ばかりの危い遊び友達。エディーの誘いに応じた修道騎士総長レイシャ・グエディエルも浮かない顔を、遊び仲間の先輩ルオラへ返す。


 クルッ……ギロリッ!


「──ッ?」


 ルオラが不意にレイシャへ向かい勢いよく振り返り、(はじ)けた女の躰にてグッと詰め寄る。

 レイシャ、大先輩ルオラが(たた)えた紫水晶の様な瞳に捕縛(ほばく)され、未だ18歳の若さに(あふ)れた汗を()らした。


「そぅ! そうなのよぉ……。あの異性嫌いなエディが男を狙う理由はひとつしかない。で、でもそれは絶対考えたく(想像したく)ないわ!」


 身の丈も胸の谷間も大き過ぎるルオラに攻め立てられる全身鎧(フルメイル)姿のレイシャ。どれだけ強靭(きょうじん)な鎧と盾に自分の身を包んだ処で、このルオラには敵わないと思えた不思議。


 ガシャ……!


「か、考えたく……ないとは?」


 及び腰のレイシャがどうにか(しぼ)り出したルオラへの質問。後退りした鎧が上げた悲鳴。

 このまま(しばら)くの間、戦之女神(エディウス神)がルオラ先輩の()()()をサボろうものなら、自身が身代わりの生贄(遊び相手)にされかねない。騎士が裸の様な女に感じた奇妙な戦慄(せんりつ)


「……可愛い私達の女の子(エディー)筋肉ダルマ(余所者レアット)に取って代わる()()よ!」


 (わず)かにタメを帯びた後、汚物でも吐き出しそうなルオラ。顔の(ゆが)みをレイシャへほぼゼロ距離で突き付けた。


「は、ハァ!? (おっしゃ)っている意味が判りません?」


 レイシャは戦之女神(エディウス神)から『我と秘密を共有せよ』と甘い(いざな)いこそ受けたが未だに秘密の種を明かされてはいないのだ。


 ──戦之女神(エディウス)様があの男と入れ替わる!?


 レイシャに取っては全く以て寝耳に水、背筋に飛び込んだ氷の(ごと)き話に思えた。


 幼気(いたいけ)なる様相と、喜悦(きえつ)(めぐ)んで下さる白銀の少女(エディウス)

 もし脳筋男(レアット)なんぞに転生でも果たすものなら、御仕(おつか)えしたき誓約(せいやく)喪失(そうしつ)すると恐怖した。


「本当に冗談じゃないのよ! あのファウナ・デル・フォレスタか、漆黒の男(ヴァイロ)以外決して赦されないわ!」


「え……?」


 泥酔(でいすい)し切っている様に吐くルオラの()()()発言。

 琥珀色(こはくいろ)の瞳を持ち得たレイシャの瞠目(どうもく)を呼び込む。

 大先輩ルオラ──戦之女神(エディウス神)余所者(レアット)に入れ替わる話を持ち出したかと思えば、次は護りの女神(ファウナ神)と、()暗黒神(ヴァイロ)を持ち込んだ。

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