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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第6章 それぞれの御旗を掲げて『ᚱᚨᛁᛉᛖ ᚦᛖ ᛒᚨᚾᚾᛖᚱ』
74/88

第67話 燃え盛れ誠の矜持 Ϟ ᚠᛁᚱᛖ ᛊᛏᚨᚱᛏᛖᚱ Ϟ

 (いつわ)りのエディウスこと戦の女神が最高司祭グラリトオーレ・ガエリオ。

 周囲取り巻く空気を、猛毒のオゾンに書き換えた自決に近しい覚悟を以て、追い詰めた大気の使い手レアット・アルベェラータ。


 ()()()()()の意識が取り巻くレアットの故郷。

 グラリトオーレが戦之女神(エディウス神)から借りた力を元手に村ごと遺灰(いはい)すら残さず(めっ)した禁忌(きんき)の奇跡『終わり(ストラーダ)なき旅路(・インフィニータ)


 レアットはこれを全身に敢えて浴びながら、オゾンの毒も()き散らして術者グラリトオーレの集中力を切らしつつあった。


白銀の女神(エディウス)は、レヴァーラ・ガン・イルッゾの異能を使い、力を拓いた者を(からだ)と意識共々(うば)い取る』


 暗黒神ヴァイロ・カノン・アルベェリアが一番の徒(一番弟子)、アギドから話を聞いた戦の天秤(てんびん)シアン・ノイン・ロッソ。

 彼女には争いに勝利するべく何事にも揺れぬ戦の(おきて)と、女性らしき仲間を思いやる気分が同居していた。


「エディウスが他人を乗っ取れるのならば次に危ないのはレアッ……ト──? な、なんだアレは?」


 レアットの身を案じたシアンがラファンの山間中腹に見える決戦の舞台に紫色の瞳を見やる。

 異常な景色と戦の痕跡(こんせき)が流れていた。村を(おお)う樹々は枯れ果て、上空を舞った鳥達が打ち落とされたかの(ごと)く続々と落下していたのだ。


「アギドッ! ニイナから借りた『言の葉(風の便り)』をレアットはッ(持っているか)!」


 シアン絶叫(ぜっきょう)の問い掛けに首を振ったアギド。「渡そうとはした。──だが彼奴(アイツ)は受け取らなかった」爪が刺さり血が出る程に拳を握り締めた。


 ハイエルフのニイナにシアンが用意させた言の葉(風の便り)を使い、レアットへ連絡を取ろうと思ったシアン。アギドの応答を待たず、飛竜(ワイバーン)に飛び(すが)る。


「ま、待て()()()ッ! レアットは俺達に『邪魔だ』と云って追い出したッ!」


 レアットを助けに向かうシアンの無謀(むぼう)をアギドは荒げた言葉で止めに掛かった。

 レアットが猛毒(オゾン)を使う迄は読めなかったアギドであったが、自分達を邪魔者呼ばわりしたのは『巻き込みたくない』意味だと知れていた。


 聡明(そうめい)なシアンな事だ、現状を伝えれば今から助けに向かった処で無駄だと判ると踏んだのだ。されどシアンは、決して動くのを止めなかった。


「わ、判った。ならば俺も共に行くッ! 他はディオルの奪還(だっかん)放棄(ほうき)、此処から飛竜(ワイバーン)離脱(りだつ)しろッ!」


 仲間達を率いる(思いやる)アギド、自らは無駄死に数える在り様(矛盾な姿勢)を示す。自分の飛竜(ワイバーン)(またが)る準備を始めながら、同時にこの作戦の終わりを叫んだ。


「あ、アギドぉ……」

手前(テンメェ)…ミリアを泣かせたら承知(しょうち)しねぇぞッ!」


 例え一夜限りのゆきずりとはいえ、兄弟子アギドと愛を(はぐく)んだミリア。若さ(あふ)れる愛らしい顔が(くず)(ゆが)んだ。

 そんなミリアへ未だ(さび)しい片思いを寄せる隣に居たアズールが()()()()に向けて()えた。


「な、何だお前達今さら……!」


 突然降って湧いた連中(新手)相手に軽蔑(けいべつ)の視線を送り見下すシアン。


 何処からともなく(アリ)の様にシアン達の周囲へ(むら)がり始めた長き棒や槍を握った白の兵士達。戦之女神(エディウス神)(つか)える底辺の僧兵に違いなかった。


賢士(けんし)ルオラと最高司祭(グラリトオーレ)──さらに自分達が祈り(ささ)げる女神さえ先に出した後、今更現れるとは! 私達が血を求め暴れる()()を働く(さま)をそれほど喧伝(けんでん)したいか!」


 陽光(まず)しきカノン──元々ただの優秀な魔法剣士であるヴァイロは、世間的に住処(すみか)もろ共()()()()()()()()()


 そんな暗黒神(ヴァイロ)がディオルの要求を聞かず勝手に寄越(よこ)したシアン達も同様、ディオルの街を占領(せんりょう)した戦之女神(エディウス神)の連中よりも見た目通りの()に世間には映る。


 この僧兵達はそんな暗黒神(ヴァイロ)御使い(シアン)達の立場をさらに(おとし)めるべく今頃、姿を見せた次第。彼等へシアンは無遠慮なる糾弾(きゅうだん)(文句)を振るった。


「ロッカ・ムーロ! 暗黒神(ヴァイロ)の名の元に、いかなるモノも通さぬ強固な壁を──『白き月の護り手(フェルメザ)』!」

「──『爆炎(フィアンマ)』!」


 ズガガァァンッ!


 黒に沈む(むな)しさをオレンジの瞳から噴いたミリアが夜空を見上げ胸張り、防御魔法(フェルメザ)を自身の肉体強化に活かす宣言。

 アズールは呪文(スペル)詠唱(えいしょう)をミリアが成した詠唱の裏側で()き消し、爆炎(フィアンマ)を僧兵達の真ん中で炸裂(さくれつ)させた。

 

 ダァンッ!


 ミリアが地面を(したた)かに蹴って飛び上がり、アズールの生じた爆風に自らの(からだ)を乗せた大飛翔(ジャンプ)。右脚に白き月の護り手(フェルメザ)を通し、巫山戯(ふざけ)た僧兵共へ蹴り降ろした。


 ブゥンッ! ズダダダッ!


 夜空を黒い翼羽ばたかせ舞った美麗(びれい)鳥人間(ハーピー族)のルチエノが羽根を硬化(こうか)させ、地面へ降り注いだ。夜の闇に(まぎ)れ、刺さる音しか木霊(こだま)せぬ脅威(きょうい)


 ミリア、アズール──そして同族の仲間(デミヒューマン)を失ったルチエノ。最早我慢(がまん)の限界点突破、ディオルの罪なき住民を巻き沿えにし()ねない()()を遂に(おか)したのだ。


「ミリア、アズ、ルチエノまで……!」


 もう決して時計の針戻せぬ(後悔赦されない)罪の証を見たシアンだが、レアットを救うのが己に課した使命。それに自分とて同じ事を成したと思えた。

 腐った雑兵(ぞうひょう)共の相手は頼もしき()()をみせてくれた仲間達へ任せたシアンが滅びの村に向かうべく夜空を見上げた瞬間だった。


 ヴァサッ、ヴァサ……。

 巨大な漆黒(しっこく)の翼を広げた黒き神竜(ノヴァン)

 背に騎乗したテンガロンハットを(かぶ)魔導士(ヴァイロ)の姿が現れた。後ろには内縁の妻に等しい(永久の愛を誓い合った)リンネも連れ()う。本来護るべき故郷(神殿)を捨てた覚悟の体現(たいげん)を世間に示した。


「遅い……遅すぎるぞ()()()。──さぁゆくぞアギド!」


 昔の友人、()()()()()()シアン。

 (わず)かだが不覚にも胸込み上げるものを感じながら、自身の飛竜(ワイバーン)に着いて来るようアギドへ指示を送った。


「ラファン──いや300年前は、エトナと呼ばれた森の末裔(まつえい)達よ聞こえるかッ! 俺はヴァイロ・カノン・アルベェリア! この(世界)をこよなく愛したファウナ・デル・フォレスタより魔道を承った(契約した)()()()だ!」

 

 夜空へ飛び出すシアンと()れ違う瞬間──赤い目で合図を送ったヴァイロ。この(世界)をシアンに代わって預かり受けた意志を無言で伝えた。


 戦火に(まみ)れたディオルの街並みへ空から飛ばしたヴァイロの()


護りの女神(ファウナ神)の意思を継いだ貴方達なら判る筈! 真実の()()()何方(どちら)であるかをッ! かの場所(滅んだ村)で戦っている気高き者(レアット)に後れを取っていいのですかッ!」


 愛刀『紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)』で山の中腹を指す。あくまで心優しき()()()()()()()であるヴァイロ。


 ラファンの人々──ファウナ(敬愛する女神)から受けた血の運命(矜持)を訴えた煽動(せんどう)

 その影は、まさしく現人神(あらひとがみ)そのもの。()()に徹した()()()()の本心を動かし()()()へ変えた。


 バァンッ!

 ブンッ!

 ダンッ!

 ダダダダダッ!

 

 またもや異なる戦人達の()き鳴らす音が深夜に静まりかえっていたディオルの街に響き渡る。


 閉じ(こも)った家の扉を開け放った(度胸)──。

 森人達が生活の(かて)(つか)む為に本来握る木こりの(おの)を振るう(決心)──。

 怒号(どごう)発しながら戦之女神(エディウス)軍へ走り込んだ足音(覚悟)──。


 そして何より余所者(ヴァイロ)より、自分達が敬愛(けいあい)する女神(ファウナ)の存在をちらつかされ(あお)られた怒りの轟音(ごうおん)

 我慢に我慢を重ねた誇り高き森人達の怒りが遂に爆発したのだ。無血にて街を明け渡した連中の決起(血気)を思い知った戦之女神(エディウス)軍の雑兵達(余り者)は恐怖した。


 飛竜(ワイバーン)に飛び乗り、無謀無策なるレアット救出に向かったシアンとアギド。

 これまでシアンは境界線(ノイン)の力を思う存分空間認知(バランス感覚)へ注ぐ事で、小さき飛竜(ワイバーン)を戦闘機の様に操っていた。


 だが戦之女神(エディウス神)との戦闘にて、頼みの異能を使い切ったのだ。時間をかければ戻るかも知れないが今は満身創痍(まんしんそうい)を体現した形。風に揺られた木の葉の様に危うく飛ぶしか出来なかった。

 

「──レアットッ!」

「な、何だこれは!?」


 どうにか戦場へ辿(たど)り着き、上空から(おが)んだ光景に愕然(がくぜん)とした両者の瞠目(どうもく)

 村そのものを飲み込んだ漆黒(しっこく)の穴だけが(むな)しく開いていた。レアットの姿はおろか、偽りの(最高司祭)エディウス(グラリトオーレ)さえ影も形も見失った。


『幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 "ᚺᛖᚱᛟᛁᚲ ᛊᚨᚷᚨ" —Saga "Vairo" et "Edius"—』 Chapter 6 End.

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