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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第6章 それぞれの御旗を掲げて『ᚱᚨᛁᛉᛖ ᚦᛖ ᛒᚨᚾᚾᛖᚱ』
73/88

第66話 無謀滾らす篝火の行方 ζ ᛒᛟᚾᚠᛁᚱᛖ ζ

 大気を操る16歳の青年レアット・アルベェラータ──。

 正確には大気の原理などまるで知らぬ。


 暗黒神ヴァイロ・カノン・アルベェリアから『大気ってのは空気……お前の周りにいつも在るコレだ』実に適当な指導を受けて以来、『周りに在るんなら、好きにやりたい放題じゃねぇか』酷い()()()()を下した。


 従って自身と(かたき)である戦之女神(エディウス神)の最高司祭グラリトオーレ・ガエリオの周りを全部毒──オゾンに変えた。地球の平穏(へいおん)に欠かせぬオゾン層だが、生物に取って最悪級の猛毒である。


 ()()()(ことわり)を全く知らぬレアットでも、無垢(むく)な少年の様に『俺と彼奴(アイツ)を取り巻く空気よ、毒に変われ』望んだ結果が引き()り出した()()


「『こ、これでは貴様とて死ぬぞッ!』」


 最高司祭の(からだ)を半分()()()した白銀の女神(エディウス)依り代の女(グラリトオーレ)、両方を恐怖のどん底に叩き落とした。

 オゾンの毒が臓器に回り吐血を()いられたエディウス(グラリトオーレ)。二人共々初の体験(怖気)生命(寿命)の危機に吐いた()()()()()()()


「へッ! そいつはどうだかな。アンタ達が仕掛けた『終わりな(すとらだ)き旅路(なんちゃら)』? それを喰らってまだペラペラ喋ってられる俺様。──既に計算外じゃねぇのッ!」


 女神相手に(つば)を飛ばす恐れ多き威嚇(いかく)を吹いたレアット。

 終わり(ストラーダ)なき旅路(・インフィニータ)がレアットの体組織を(くず)すと同時に、自らが成したオゾンの毒牙さえも承った(うけたまわった)


 苦悶(くもん)に顔(ゆが)めながらも、戦の女神とやり合えている自分を(たた)(わら)うレアットの脅威(喧嘩)

 黒髪が砂の(ごと)(くず)れ、自分から飲んだ毒に吐き気を催す(もよおす)。だが此処に立っていられる己に(ほこ)りを抱いた。『これぞ俺様のやりたかった()()だ』


 レアットの故郷、(ほろ)びの村は森深き山中に在る。(あわ)れな巻き添えを喰った小動物達が泡を吹いて続々倒れ落ちる叫喚(きょうかん)地獄。


「アアッ! ぐはッ!」

『た、()えろ! (こら)えるのだ! グラリトオーレ!』


 (くさ)り落ちた地面(腐葉土)に倒れ()いつくばる屈辱(くつじょく)(さら)したグラリトオーレ。着実に忍び寄る死への恐怖(鎮魂歌)

 グラリトオーレの躰を依り代(よりしろ)にしている戦之女神(エディウス神)。酷く狼狽(うろた)えた()()を見ながら畏怖(いふ)の念を抱いた。


 ──我に(ささ)げたグラリトオーレの躰が離れるのを感じるとはッ!?


 戦之女神(エディウス神)が普段()()()()()()()自身の肉体は死の恐怖をまるで知らない。


 なれど今、好きに憑依(ひょうい)しているこの身体は()()()()()。このままでは、憎たらしいにも程ある巫山戯(ふざけ)た男よりも、此方が先立つやも知れないのだ。


 ──こ、こんな無様(死に様)……冗談ではないッ!


 戦之女神(エディウス神)のさらに奥深くに居る()()。己に(つか)える女性の躰を借りた遊びが呼んだまさかな死へ繋がり()()序曲(じょきょく)

 身体を借り受けたこの女性が旅()けば、自分の魂は拠り所(よりどころ)を失う必然。恥辱(ちじょく)の巻き添えを喰らう。


「へッ! エディウス()が大層な慌てぶりだなッ!」


 最高司祭の躰に()()()()女神のことなど知る由ない筈の愚かなレアットが鼻血を(すす)破顔(はがん)一笑(いっしょう)。理屈通らぬ勝機(しょうき)を悟った。


 ──どうする? いっそこの男の身体と意識を()()()()()()()


 遂に()()()エディウスの本性──。だがグラリトオーレとレアット、何れも危うき揺れ動く命の火種(ひだね)(うつ)ろな者同士だ。


 しかし()()()(ろく)に働けぬ以上、他の(すべ)を知らなかった。グラリトオーレの身体と司祭の能力を以て成した終わり(ストラーダ)なき旅路(・インフィニータ)


 術に対する意識集中が成せず、レアットの振り撒いた()()()()に死を以て敗北しかけているのだ。今にも()()が終わりそうだ。


 ──いや! ()の欲するべきはカノンの暗黒神(ヴァイロ)! こんな所で妥協(だきょう)してたまるか!


 ()に取っては、白銀の少女(エディウス)の姿形でさえ、世を忍ぶ仮の器だ。

 カノンを守護するヴァイロに宣戦布告(せんせんふこく)(けしか)けた本音が(彼女)の心の中だけで話す孤独(こどく)(にじ)んだ独り芝居(声劇)


 ダンッ!


「……ッ!?」


「エディウスさんよぉ……こんなに弱っちろいとは思わなかった……ぜ。アンタ白の竜騎士なんだろ? だったら最後まで()()()()のが剣士の流儀(りゅうぎ)だろうが」


 ズタボロな身体を押して自身のより大きな(なまくら)を握り地面へ叩きつけたレアットの豪胆(ごうたん)。神様相手に純粋な剣での勝負を挑んだ(望んだ)


 ◇◇


 一方──裏切りの司祭エターナ・アルベェラータの祈りし奇跡『生命之泉(プリマベラ)』のお陰で九死に一生を得たシアン・ノイン・ロッソ。


 だが複雑な気分に駆られ、口紅要らずの自然な唇(ルージュ)()む。自分達の前で(くさり)に巻かれた無慚(むざん)(さら)したコボルト族の長カネラン。

 シアンが息を吹き返したのとほぼ同刻(どうこく)。まるで身代わりの死へ()ちたかの(ごと)天寿(てんじゅ)(まっと)うしたのだ。


「カネラン……お前」


 言い(よど)むシアンの手向(たむ)け。

 冷たくなったカネランの両目をエターナが静かに閉じさせ、アギドは両手を胸の上に合わせて置いた。


 賢士(けんし)ルオラがレアット目掛け繰り出した『魂之束縛(アニマカテナ)』身代わりに飛び出しカネランがその身に受けた。被術者の罪の重さがそのまま魂縛る(かせ)に成り得る狂気の術。


 されどカネランは最後の最期まで足掻(あが)き続け、自らを縛る(くさり)をなんと具現化(ぐげんか)。術者ルオラにそのまま跳ね返した。

 死中に(かつ)──死に(ぎわ)に異能を見出したかに思えたカネランであったが(とき)、既に遅し。彼の(心臓)は限界の拘束(こうそく)を受けていたのだ。


「り、立派な最期だったよ……」


 すすり泣く鳥人間(ハーピー族)の女性ルチエノ。蒼と赤の瞳(オッドアイズ)から絡め落とした涙の離別(りべつ)

 フォルデノ王国の異端(いたん)なる貴族、人間より亜人族(デミヒューマン)に心底愛(かたむ)けるバンデに依って見出された()()なのだ。


 身長2m──群れる()()より孤高(ここう)狼男(ワーウルフ)が似合いの勇壮(ゆうそう)なる者の見事な最期であった。


暗黒神(ヴァイロ)の名において命ず! 火蜥蜴(サラマンダー)よ、その身を()がせ! ──『(ロペラ)』!」


 歯を食い縛り、魔法の炎を借りて葬送(そうそう)の送り火と成した爆炎の魔導士アズール。

 火葬(かそう)には強過ぎる発破(はっぱ)だが此処は敵地(アウェイ)戦之女神(エディウス神)の手の者にあらぬ反意を抱かれては(たま)ったものではないのだ。


()(くせ)して格好つけやがって……!」


 火をこよなく愛するアズール、この場ばかりは自身が()いた火種に()やむ遺憾(いかん)態度(舌打ち)寄越(よこ)した。


「カネラン……済まなかった。もう誰も貴方と従う者共を悪くは云わせない」


 加担(かたん)した側を勝利へ導く天秤(てんびん)シアン。自分と死人同然であったカネランの何方(どちら)をエターナの(いや)しに(みちび)くか揺れた始終(しじゅう)を知り抜く。


 (ほま)れ高き戦()の死だ。だから決して涙は見せぬシアン。

 燃え尽き灰へ転化果たし、星空に昇る()を相手に、戦で(けが)れた右手の人差し指、中指、親指の先を合わせ十字を切る祈りを(ささ)げた。


「ア……ギド。エディウス(グラリトオーレ)、私にトドメを刺さ……なかった」


 空に上がり星に至れたと思いたい無骨(ぶこつ)だった犬族(コボルト)の戦士へ()せる想いを少し名残り惜しんでから切り、アギドにらしくない呟き(途切れ途切れな)声を掛けたシアン。


「いっそ殺して欲しかった……そういう()じゃなさそうだな」


「何故……だと思う?」


 いつも勝気で女らしさを表に出さないシアンをみれた。ちょっぴり得した気分に(ひた)るアギドの流し目(微笑み)

 我ながら意味のない事柄を気にして、少年に態々(わざわざ)(たず)ねる大人女性の揺れる想像。


「貴女の考えてる通りじゃないかな。()()も意識は人……気紛(きまぐ)れがあってもいいと思う。──ってそうした答え(普通)は求めてない様ですね」


「……少し変わったかアギド? 君はもっと合理的な物の見方をするのだと思っていた」


 シアンは自分の胸(虚ろな命)に手を充てる。アギドの答えは半分くらい自分が望んだものだ。


「どうかな……何しろ僕等は、まだ若いんで」


 ()やさぬ笑顔を()達に向けたアギド。特に変わる切欠を与えて(教えて)くれたミリアへ青い(若い)瞳孔(どうこう)(かたむ)けた。


「ふふっ……違いない。歳を重ねると余分な疑り(思考)が増える」


「年は関係ないと思いますよ。──俺に貴女が聞きたい事を答えます。所詮(しょせん)は子供の浅知恵だけど」


 若い思考に片寄りがちだった生真面目な少年が、(やわら)らかさを持ち得たのを喜び、シアン自身も死したカネランに悪いと知りながらも釣られ(ほころ)ぶ。


 ()()()()気分を引き出したシアンを置き去りに普段の自分へ帰るアギド、真剣な眼差し。


「ファウナ・デル・フォレスタは戦之女神(エディウス神)の中に居る。そして恐らくレヴァーラ・ガン・イルッゾも」


護りの女神(ファウナ神)とアドノスの創設者。然しどうやって?」


 暗い顔に戻されたシアン。『どうやって?』の思いが尽きない。それはこれ迄の経緯(いきさつ)から漏れた結果論に過ぎないのだ。


「エディウス・ディオ・ビアンコは、恐らくレヴァーラの異能を扱い、他人の力を意識(身体)毎、自分のものに出来る。シアン……貴女の異能(ノイン)だって狙われてるかも知れない」


「……!」


 視線だけでなく身体の向けをシアンへ変えたアギドの()()

 瞠目(どうもく)するシアン、(ようや)く想像通りの答えを引き出せた。


「だからこそ150年前に死した筈のファウナ神を内に飼って(秘めて)いられる。然も二人だけじゃないかも知れない。あらゆる異能者達の力を根こそぎ借り(狩り)ながら生きて来られた」


 仮説だが確信に近しいアギドの推論(すいろん)

 シアンは山間(やまあい)()()レアットの故郷へ危い気分を向けた。

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