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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第6章 それぞれの御旗を掲げて『ᚱᚨᛁᛉᛖ ᚦᛖ ᛒᚨᚾᚾᛖᚱ』
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第65話 ᚱᛖᚲᛚᛖᛊᛊ χ 恋しさ滲んだ誠意(狂気)

 戦之女神(エディウス)軍から見せしめとして滅ぼされた村の出身レアット・アルベェラータが仇を狙う。

 目指すべき相手は白銀の女神(エディウス)自身だと思い込んでいた。村の仲間達を一斉に失ったのだ。天辺(てっぺん)()する神様の御業(裁き)だと信じた歴然(れきぜん)たる自明(じめい)()


 然し実際の処、最高司祭グラリトオーレが()()であった。

 その最高司祭(グラリン)(カラダ)()()()()戦之女神(エディウス神)が元来の持ち主であるグラリトオーレへ意識の過半を返した複雑怪奇(ふくざつかいき)なる争いの行方。


 戦の女神と大気を自由に扱う16歳の異能者に依る戦いの裏側──。

 滅びの村(レアットの故郷)が在る山肌の(ふもと)付近に位置する森の都ラファン。その中でも最も栄えた街ディオル。

 飛竜(ワイバーン)(またが)り此処まで降って来たアギド達。ヴァイロ・カノン・アルベェリアの弟子を中心にしたうら若き者共。


 山頂から振り下ろす夜風がやけに冷たく感じた。

 希望を喪失(そうしつ)した場所へ置き去りにされた気分だが、(むし)ろ彼等がレアットを戦場に置いて去るよう強制された何とも心(わび)しき事情が夜風を余分に染み入らせたかも知れない。


 偽りのエディウスに敗北を(きっ)したシアン・ノイン・ロッソの(あわ)れな姿を空からみつけた一行。

 シアンの異名(いみょう)()()()──その価値が大きく揺らいだ(さび)しさ。皆、思わず悲嘆(ひたん)暮れた(堕ちた)


「こ、こんらぁ(ひんど)い火傷だぁ! 一刻も早く治療しなきゃ!」


 背中の辺りを中心に大火傷(おおやけど)を負っていたシアンを慌てて(いや)しに掛かるエターナ・アルベェラータ。頭の大きなお団子二つを揺らしながら、いつもの(なま)り口調にて癒しの奇跡(生命之泉)の準備を進める。


 アギドやミリアが何とも複雑入り混じった顔色を浮かべ、その様子を黙って見つめ続けた。

 何しろシアンを倒した相手(女神)の力を借りる次第。エターナが此方側へ寝返り打った現状を容認しつつも、本来混ざる道理がない(味方)()

 回復の術を持たない暗黒神(ヴァイロ)弟子(子供)達──口惜しくとも頼るより他がないのだ。


「ま、待ってくれエターナ! シアンの容体も心配だがカネラン(コボルト)の方を先に診てくれないか?」


 今、シアンを失う訳には往かないカノン陣営。

 だが状態の過酷さを論じるのなら賢士(けんし)ルオラから『魂之束縛(アニマカテナ)』をその身に受けたカネランの状況が深刻だとアギドには思えた。


「あ、アギド様……()れは無理な話だぁ……」

「何故だッ! まさかとは思うが此奴が人間じゃないから(亜人族だから)なのか!?」


 困惑(こんわく)顔のエターナへ詰め寄るアギド──自分自身、ひと昔前なら迷わずシアンの治癒(ちゆ)を優先する己を知っていた。

 カネランと()()である鳥人間(ハーピー族)のルチエノが二人の絡みから青と赤の瞳(オッドアイズ)を意図して逸らした哀しき色合い(にじ)ます。


()んな()()言っ()ねぇッ! レアットの()()身体を張って護っ()()()ぁッ! ()()()に決まっ()るッ!」


 泣き()らした(歪み)を以てアギドの姿を(にら)み返したエターナの本音(無力感)慟哭(どうこく)と怒りが彼女の(なま)りを際立(きわだ)たせた。


「あ、アギド様……。エターナ様の云う通りで……す。自分の()はわ、私が一番よく……」


 身体から鎖を繰り出したままの満身創痍(まんしんそうい)──言葉を(にご)らせつつ『自分はもう手遅れ』足りぬ台詞を態度で示したカネラン。これまで自分を受け入れてくれた者達への意地()を伝えた。


生命之泉(プリマベラ)は万能じゃねえんだ……活性化させる(細胞)が生()残っ()()ゃ身体がも()ねぇ」


 嗚咽(おえつ)漏らし訴えるエターナの悲壮(ひそう)(決意)。例え涙流したボロボロでも、拳を握り締め自分が一番成すべき事柄を()き違えたりしない面構(つらがま)えで押し通す。


 後は周囲に有無を言わさぬ仕草を以て、燃え尽きた()を思わすシアンの()けただれた背中に触れる。そして「良し」と(うなず)く。シアン魂の火種は、未だ(くすぶ)っていた。


 アギド、蒼い頭を下げ「済まない」心静めて深謝を送る。エターナとカネラン、この戦場に向かう最中にて知り合ったばかりの間柄(あいだがら)薄き二人だが、互いが持つべき戦意の形を(つらぬ)合って(繋がって)いた。


「……」


 満足げに独り()()を緩めたカネラン。『それで良い』人族に最期まで仕えると己に課した使命。やり尽くせた言葉(天命)に出来ない(を全う成せた)想いが(あふ)れた。


戦之女神(エディウス神)よ、この者にどうか貴女様の御慈悲(ごじひ)を。湧き出よ──『生命之泉(プリマベラ)』!」


 気合(真心)込めたエターナが唱えた詠唱(調べ)。シアンの奥底に未だ残ると信じた生への(あこが)れに手を差し()べる。


「うッ!」


 前のめりに倒れ気絶(きぜつ)していたシアンの寝顔が(ゆが)んだ。

 顔のみならず全身を(ふる)わす。エターナが渡した生への干渉(橋渡し)


 被術者(ひじゅつしゃ)(細胞)の残り火へ新たな()(精神)を送り届けた。後はシアンが生への渇望(かつぼう)を示す番、こればかりは他人(エターナ)に手助けの資格はないのだ。


 シアンの魂が一挙(いっきょ)に燃え(さか)り、一瞬苦痛の(ゆが)みが生じた。然し心安らぐ暖炉(だんろ)の温かみが彼女の(カラダ)を優しく包み込んだ。


「う、うぅ……え、エターナ? アギド? 皆も?」


 瞬間、(まゆ)(しか)めてから紫色の瞳を開いたシアンの活目(刮目)の様。周りを囲んだ優しさ(にじ)んだ少年少女達が(のぞ)き込む穏やかな顔、顔、顔。

 戦之女神(エディウス神)に敗北した()()なる自分。全く責めない感激(感謝)()


「……! み、皆。有難(ありがと)う」

 ──ノイン(亡き夫)……もう(まだ)暫く待ってて(黄泉には行けない)。私にはまだやり残した事が……ある。


 人の温かみが()み渡りシアンは貰い涙を浮かべた。高貴を己に(責任在る大人を)課した()──今だけは(紫色)(こだわ)(ほこ)りを敢えて捨てた。


 ◇◇


 滅びの村に残った女神と異能者の男──。

 最高司祭グラリトオーレ・ガエリオの半身を好きにしたエディウス。グラリトオーレが自らを(ささ)げた貢物(みつぎもの)を何故態々(わざわざ)半分返したのか。


『ククッ……レアットとやら。よくもまあ我がルオラ(一番弟子)に恥を()かせ、分身の竜(シグノ)を死に追いやったものだ』


 レアットの魂に何故か直接響いた最高司祭の中身(意志)──グラリトオーレ、詠唱の中途に混じる嘲弄(ちょうろう)憮然(ぶぜん)

 普段は少女の姿を抱きながらも、神格帯びた低い声を放ち聞く(観る)者共をひれ()せさせるエディウス。借りたグラリトオーレの黒髪をかき上げた。


『貴様はどうせ死ぬのだから冥土(めいど)の土産に教えてやろうぞ。これよりこのグラリトオーレが成す奇跡は、我に完全なる忠誠を誓った司祭に、戦之女神(エディウス神)が力を分け与えて初めて果たせる禁呪(きんじゅ)なのだ』


「……ッ!」


 立ち姿こそ生真面目な最高司祭からレアット(憐れな男)に発せられた神の()()()

 何も応じぬレアット、自身と等しき人間にしか見えない者が神を語る愚か相手に強かに噛んだ歯軋りだけを返答代わりに寄越(よこ)した。


「……さあ神への遺言(ゆいごん)を告げよ! ()くがよい、終わり無き道へ! ──『終わりな(ストラーダ・)き旅路(インフィニータ)』!」


 血に染めた()()指先を用い、夜空に描き切った(いん)が遂にレアットに向かい牙を()いた。

 『終わりな(ストラーダ・)き旅路(インフィニータ)』──それはつい今しがたエターナがシアンに施した細胞分裂強化の奇跡『生命之泉(プリマベラ)』と対成す究極の形(アルティメット)


 被術者()の細胞分裂を永久に回し切り、魂の拠り所を(うば)い去る。

 急速に依り代を喪失(そうしつ)した()()は自身の死を自覚する暇さえ与えらず、黄泉路(よみじ)に旅立つ救世(ぐせ)すら(ゆる)さない。これぞ滅びの村に遺体がひとつとして残らなかった秘密の答えだ。


「へッ……!」

「『なッ……!? な、何故立っていられる?』」


 まるで活火山の火口に投げ込まれたかの(ごと)灼熱(しゃくねつ)地獄を全身に()()()レアット──それでもなお(わら)った。

 レアットの対峙(たいじ)が未だ続く不可能に狼狽(うろた)えたエディウス(グラリトオーレ)、二人の声音(意識)が入り混じった。


戦之女神(エディウス神)の司祭が起こす奇跡は神に祈りを(ささ)げた神聖術(しんせいじゅつ)……アギド()()から教えて貰った。()()だろうが()()だろうが術に集中出来なきゃ効果は半減だよなぁ……違うかぁ?」


 大気(タイキ)すら(ろく)に語れなかったレアットの口が流暢(りゅうちょう)に滑り転がる。


 全く以て解せないエディウス(グラリトオーレ)が初めて見せた焦燥(しょうそう)

 ()()()終わりな(ストラーダ・)き旅路(インフィニータ)に全精力を(かたむ)けている──そのつもりであった。


 ポトリッ……!


「『小鳥の死骸(しがい)? 何故こんなにも(くず)れているッ!?』」


 エディウス(グラリトオーレ)の目前に落ちた小鳥の遺体。余りに無残で(むご)たらしい姿を(さら)した。


「『カハッ! 血ぃ!? ……ま、まさか貴様、自決するつもりか!』」


 口から吐き出した物を受け止めた(てのひら)を見つめたエディウス(グラリトオーレ)茫然自失(ぼうぜんじっしつ)。斬られも(なぐ)られた訳でもないのだ。


「へへッ……お、()()()って云うらしいぜ……俺様が()いた毒とアンタ等が仕掛けた術。何方(どちら)()()()()()?」


 レアット、己が(けしか)けた大気(空気)を自由に扱う異能と敵方が仕掛けた術を両天秤(りょうてんびん)()()、苦しみながらも()()()()くなき()()

 神様相手に無謀(むぼう)に思える()()()()()()(いど)んだ。

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