第64話 六等星の(取るに足らぬ)輝き ж ᛈᚨᛚᛏᚱᛁ ж
賢士ルオラ・ロッギオネ・ルマンドまさかの敗北と撤退。
敬愛と個の焦がれを惜しみなく注ぐ白銀の少女が取り憑いた最高司祭の面前。苦渋を舐める姿を晒した。
ルオラの身代わり──本命エディウスが遂にアギド達の前に立ちはだかる。
刃こぼれした巨大剣を大気の風を以て悠々扱うレアット・アルベェラータ。よもやな1対1を望んだ。
言い出したら決して聞かぬ馬鹿レアットの申し出をアギドは渋々受け入れる。
自分達の師匠ヴァイロ・カノン・アルベェリアに匹敵するほど強靭なシアン・ノイン・ロッソが敗北した相手にたった独りで立ち向かう無謀。
確かにシアンへの救護は急を要する上、ルオラの術式『魂之束縛』をその身に受けたコボルト族の長カネランは未だ死の淵を彷徨う。
それらが折り重なろうとも、ヴァイロに頼まれたレアットを放る事など到底容認出来る申し出ではないのだ。
それにも関わらず『判った、死ぬなよ』と冷たい一言。自分達を此処まで運んだ飛竜に跨り、レアットだけを滅びの村へ残して飛び去るアギド陣営。
──何をするか迄は読めなかった……がっ、俺達が居ては出来ない大博打らしい。
相手の心持ちを読めるアギド、冷徹な15歳の少年が掻いた冷や汗。レアットに潜む決死の覚悟を匂わせた。
ガシンッ!
「さあさあ邪魔は消えたぜ喧嘩だ喧嘩ァッ! えでうすさんよぉ! 俺様はアンタと喧嘩がしたかったッ!」
鈍巨大剣二刀を夜空に翳してぶつけ打ち鳴らしたレアットの狂喜。
「ククッ……下らぬ。例え貴様が空気を自由に扱える異能があろうともこの我が馬鹿に敗北するものか」
血に塗れた最高司祭の姿でレアットを嘲るエディウスの細めた蒼い瞳。
グラリトオーレから継いだ青い宝玉が輝く杖先から青い炎を燃え滾る様相で掃き出し、光束の鉾先として固定した。
加えて何の前触れもなく気軽な顔立ちを変えず、その槍をレアットの鼻面へ向け繰り出す。執拗いが実体持たぬ光の槍、レアットが己の武器を交えられる道理がない。
ビュウゥゥ……!
「へッ!」
「ほぅ……!」
レアットの全身を取り巻いた嵐。エディウスが何気なく突いた光束の槍を風で打ち払い笑う。
笑い飛ばされた戦之女神が少々驚いた感嘆の息を吐いた。
「そよ風で我の槍を伏せたか……。成程……少しは遊べそうだな」
光束の槍を握り闇夜へ上がった最高司祭。護りの女神から借用した重力制御。目に映らぬ神の座を彷彿させた。
ヴァンッ!
「……!」
実体のない光束の槍を大気の力に頼り消したレアットの次なる一手。音速思わす風切りの音が鳴り響く。
どれだけ彼の得物が鬼気迫る重さに溢れようがエディウスの扱う槍と交わる事など叶わぬ願い。
それでも構わず振るった己の背丈より長い鈍二刀。今度は自分の剣の周囲に豪風を纏わせ白銀の少女を目掛け振り抜いた。
避ける以外の選択肢が得られなかった戦の女神。ただの男が放った渾身が神格を打ち払った。
「オラオラッ! 本気出せやエディウス神。アンタがこの村をぶっ潰したんだろうが」
次はレアットが己の肩を巨大剣で叩く余裕面を見せつける。
しっかり『エディウス神』と呼称した煽り。えでうすもたいきすら読めない阿呆ではなかったと相手に思い知らせた。
「フッ! 中々どうして面白き者よ。レアット・アルベェラータ、貴様の村を滅ぼしたのは我ではなくこの身体の方だ」
「何ぃ!? 訳判んねぇぞ?」
自身の細身な躰が持つものより明らかにふくよかな胸を平手で軽く叩いた中身。
レアットの姓も名も呼ぶ少しは存在意義を認めたエディの発言。
意味の判らぬ真実を伝えられ面食らったレアット。増した勢いをたった一言の内に止められ悔しがった。
思考より身体が先立つ衝動性が著しいと思われがちな彼だが単細胞だと馬鹿には出来ぬのだ。
身体が資本の人間は得てして考える以前に答えが動作に活かせる獣。本来脳筋とはそうした類の者共だ。
「ククッ、言葉通りだよ。この村をやったのは、このグラリトオーレ自身の力だ。我が最高司祭よ、お前に半身だけ返そうぞ」
口角上げたエディウスが敵前にて大胆不敵にも両目を瞑った。この蛮族は寝込みを襲う礼儀知らずではないと決めつけた。
カッ!
再び瞳を開いた血に塗れた最高司祭──右目が戦之女神の青。左だけ御身を捧げたグラリトオーレの瞳に還り咲いていたのだ。
『グラリトオーレよ……我の力を思う存分この者に振るうがよい。先に逝った連中と等しき道へお前が誘うのだ』
「はッ! 戦之女神の御心のままに……」
グラリトオーレ・ガエリオ──。
エディウス・ディオ・ビアンコ──。
折り重なった二人の意識、確かにレアットには見えた。
「へッ! アンタか俺様の親父や仲間達を殺ったのは……望む処だッ!」
「憐れな男……せめて父親共々永遠を彷徨え」
現状が判らずとも何故か怯えを知らぬレアット──寧ろ真なる仇をみつけた運命に希望を浮かべた。
殺された過去を振り返る無駄な生き様など彼には似合わない。等星にすら数えられない星に返った奴等の分も自身が煌めいてみせるだけだ。
一方シアン相手に全く引けを取らなかったグラリトオーレの揺るぎない品性。戦之女神に己が躰を魂毎預ける程の盲愛。
されど形はどうあれ人間としての真は通っていた。戦之女神の云う通り、彼女が独りですべからく村人達を消した揺るがぬ強さを誇る。
スーッ……。
先にグラリトオーレが動いた。右手の人差し指を上げ、蒼い光を以て夜の帳に印を描き始めた。
「ディッセオ・オーレ! 生命の泉枯渇し、生命の木枯れ果てる刻!」
詠唱と云うより詩にも似た言葉を紡ぐグラリトオーレの堂々たる態度。ラファン山中に響き渡った。
「……」
然し未だ手を出さないレアットの不可思議匂わす心構え。怒りに任せた天剣を何故仇へ叩きつけないのだろうか。
「その軌跡は終焉を告げる……」
構わず詠唱を続ける戦之女神の最高司祭。自らが描いた青がその身を包み込んだ。
司祭が成す御業は奇跡──人の道を閉じ逝く妖しき奇跡とは果たして?
レアットとグラリトオーレ以外、血の気が失せた廃村。通りすがりの小鳥がポトリッと不気味に落ちる波紋を浮き上がらせた。




