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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第6章 それぞれの御旗を掲げて『ᚱᚨᛁᛉᛖ ᚦᛖ ᛒᚨᚾᚾᛖᚱ』
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第63話 戦場を去りし者と貪る女神へ”贈る”鎮魂歌 +ᚱᛖᚲᚹᛁᛖᛗ+

 戦の天秤(てんびん)シアン・ノイン・ロッソが熱き突貫(とっかん)に転じた乾坤一擲(けんこんいってき)

 自らの力に振り回された偽りの戦之女神(エディウス神)の足元目掛け、(つば)付きの手槍を突き刺した。


 敵の地面を突き(くず)す瞬間、敢えて緑色の瞳だけ横に()らした巧妙なる所作(フェイントモーション)。夜の暗闇に流れた翠色(すいしょく)の軌跡。

 効果の程──?

 そんな理屈は仕掛けた当人さえ知らぬ、恐らく無意識が成した反応、戦人の本性(サガ)なのだ。


 兎も角(ともかく)ただのか細き手槍を以て、グラリトオーレの(カラダ)に取り()いたエディウスの足場を(くだ)いたシアンの一閃(いっせん)

 間合い(リーチ)の長い光束(こうそく)の槍──例え槍が重さを持たぬ光で出来ていようとも脚の踏ん張りを失っては致命的欠損(ちめいてきけっそん)に思えた。


 異能(ノイン)を使った御業(みわざ)とはいえ、神の運命(さだめ)反旗(はんき)翻した(ひるがえした)紫色の女戦士が女神をたった独りで打ち破った?

 シアンの全身を(おお)っている紅色の気配(本気のRosso)が完全に消え、秒にも満たぬ時の狭間(はざま)。シアンの緊迫感(きんぱくかん)同刻(どうこく)に失せた。


 シアン・ノイン・ロッソ──最後の最期に()()損ねた。戦之女神(エディウス神)の足場を(うば)い去った後、倒れた(宿敵)へ致命の鉾先(ほこさき)を向ける判断は誤認。


 夫と幸福を()()()喫茶店ノインと家族(安息)()()()()()。一線を退(しりぞ)いた(とき)の流れは残酷。戦場を裏切った(離れた)彼女に下した鎮魂歌(レクイエム)


 ──い、居ない!? え、エディウスは何処だ?


「ぐわぁッ!?」


 敵の姿を見失ったシアンの背中に夜空から落ちた焼ける一閃(いっせん)

 最高司祭(グラリトオーレ)の姿形で宙から放った蒼の熱線。先程まで飛竜(ワイバーン)に乗り夜空を飛んでいたシアンを狙った攻勢と同じ物。たった一振りだけで勝敗を決した。


「フフッ……シアン・ノイン・ロッソ。実に心地良き緊迫(きんぱく)(あふ)れた戦いであったよ、個の力だけならばカノンのヴァイロ(暗黒神)を確実に(しの)いでいた」


 宙で静止した(あざけ)を浮かべる偽りのエディウス。彼女は白い神竜(シグノ)に頼らずとも己の力だけで空が舞える。

 自らに潜む護りの女神(ファウナ神)呪文(スペル)重力解放(ヴァレディステラ)』を行使しただけに過ぎぬ。余りにも簡単な事柄だった。


「グッ……ふ、不覚」


 境界線(ノイン)の異能を使い果たした上、全身を焼かれたシアンの意識が薄れ往く。同時に彼女は悟った。戦之女神(エディウス神)、初めから本気では無かったのだ。


 然し意識を喪失(そうしつ)したシアンが()に落ちなかった一点(慈悲)──白銀の女神(エディウス)は、自分に致命傷(トドメ)(さば)きを与えなかった。

 彼女の一番弟子、賢士(けんし)ルオラ・ロッギオネ・ルマンドが争っている()()()()に向かい、笑いだけを残し飛び去ったのである。


 ──シアン・ノイン・ロッソ……。また()()()()、次こそ互いに慈悲(じひ)を捨て去った本気の力でな。


 人間の意識と変わらぬ気紛(きまぐ)れ──現人神(あらひとがみ)らしい理由なき()()に過ぎなかった。


 ◇◇


 最高司祭の姿を()()()()()飛翔(ひしょう)する先で暗黒神(ヴァイロ)の弟子や契約した亜人族(デミヒューマン)対峙(たいじ)した賢士(けんし)ルオラ。


 怒り任せに放った無慈悲な賢士(けんし)奇跡の術式──『魂之束縛(アニマカテナ)』をレアットの身代わりに受けたコボルト族の(おさ)カネランが苦しみ(もだ)え続けられている()()()


 ──な、何故? どうしてコボルト(ごと)き化物が未だに死なないのよ!?


 被術者(ひじゅつしゃ)(いだ)く罪の意識に応じて醜いヒキガエルの様に心臓から(つぶ)され肉片を飛び散らす魂之束縛(アニマカテナ)


 あのコボルト(カネラン)、これ迄の生涯(しょうがい)にて積み重ねた罪の意識が皆無?

 そんな馬鹿げた話、意志を持った生物である以上、絶対に在り得ないのだ。


「──うがぁぁぁッ!」


 (心臓)()きむしるカネランの絶叫──一転、犬族(コボルト)の身体から解き放たれたのは、なんと()。あろうことか術者ルオラへ跳ね返った。


「なっ!? な、何これぇッ!?」


 レアットの(なまくら)に依って衣服を斬り破られたルオラを縛りあげた仰天の様(底辺の羞恥)

 一体何が起きたのかまるで理解出来ない周囲の者共。されどアギド側に取っては、降って湧いた千載一遇(せんざいいちぐう)。この機を(のが)す訳にはゆかないのだ。


暗黒神(ヴァイロ)の神竜ノヴァンよ、全てを()がすその息を我に与えよ! ──『爆炎(フィアンマ)』!」


 爆炎の魔導士アズール咄嗟(とっさ)の詠唱。爆炎(フィアンマ)はヴァイロの呪文(スペル)史上、屈指(くっし)の短い詠唱術だ。そして何よりアズールが最も手慣れた呪文。例え意識がぶれていようが果たせた。


 スガァァンッ!


「アァァァッ!」


 鎖で拘束(こうそく)されたルオラの背後で炸裂したアズールが唱えた爆炎(フィアンマ)。背中から(はじ)かれのたうつ。そして未だ解かれぬ(くさり)、死にぞこないの()(から)めた屈辱(皮肉)


 さらにルオラを襲う戦慄(せんりつ)(ちまた)

 アズールが造ったルオラの(すき)

 鎖で全身を拘束(こうそく)されたまま自分達の方へ弓形(ゆみなり)の姿で飛び込んで来た処を防御魔法(フェルメザ)で強化したミリアの慈悲(じひ)無き拳。(したた)かに地面を蹴って飛び上がり、そのまま引力(重さ)を載せた。


 ルオラを護ってくれた白い竜(シグノ)はレアットの爆発的な一閃(いっせん)で滅びへ転じた。ルオラの美しくも(やわ)(ほお)を狙い()ましたミリアが振り下ろした拳。ルオラ、まさしく風前(ふうぜん)灯火(ともしび)


「ミリアァッ! 止せぇッ、危険だッ!」

「──ッ!?」


 ミリア最高の形を突然邪魔したアギドの悲鳴に近しい叫び。

 重力任せのミリア、驚きつつも今さら止められぬ進撃。一体何が『危険』なのか、判断の(いとま)さえ彼女には与えられなかった。


 ガキンッ!


「……!」

「へへッ……!」


 鈍器(どんき)同士が相対した生々しい音が森深き(ほろ)びの村に木霊(こだま)する。

 蒼い宝玉突き出した杖と勝手に邪魔した()()()鈍。


 最高司祭(グラリトオーレ)の杖を突き出した偽りのエディウスが既に此処まで辿り着いた。蒼の宝玉から光束(こうそく)の槍を何故か出し()しんだ。簡単な話、()()()()()を斬れなかったエディウスの甘さだ。


 対する邪魔者、それこそ犬か狼の様に新たな戦いの火種を()ぎつけたレアット。鈍の巨大剣、刃の側面を()()()()障壁(しょうへき)に転じた。


 相手が可愛らしい少女だったので思わず手緩(てぬる)い加減を下したエディウスの苛立(いらだ)ち。

 そんな心持ちなぞ全く知らないレアット、自身が(こな)せた仕事に満悦(まんえつ)の笑みを浮かべた。 


「え、エディ……」

「ルオラ、此処は退()くのだ。我に全てを任せるがいい」


 兎に角(とにかく)ルオラの面前に浮いて飛び出した偽りのエディウス(グラリトオーレの姿形)。ルオラを声ひとつで制した(にじ)む神格。

 普段ルオラとの()遊びに()()を抱く白銀の少女(エディウス)が大人女性の大層(あわ)れな変わり果てた姿を直視出来ない不謹慎(ふきんしん)を戦場に持ち込んだ。


「アンタが()()()()だな? 俺様はレアット、()()が滅ぼした村の生き残りだ」


 一方、重力制御の術式なんぞ知らない筈のレアットが自身の足元に巻かせた風へ乗り、此方も空中に静止しながら、己の()で女神を差して(にら)みを効かせた。

 ()()()()()()()すら言い表せぬ漢が示した大気の異能。当人は一切意識などしていない発現(はつげん)


「アギド()()、ミリアの()()()()。皆この場から離れろ! 此奴(えでうす)は村の(かたき)! だから俺様が倒すッ!」


 ()えたレアットの仇打ち宣言──。この女(最高司祭)こそ村人達を無慈悲(むじひ)の内に()()()相手だと身勝手にも決めつけた。


「フッ! 笑止だな、貴様(ごと)馬鹿(脳筋)相手にこの女神が斬れるのか?」


 仮初(かりそめ)の身体に(とも)した自分の碧眼(へきがん)を以て見下したエディウス。されど愚かしいこの男が告げた台詞は()()()()()()()()。『面白い』と肌で知れた。


「だ、だがレアッ……ト!」

「邪魔だって言ってんだ俺様はッ! エターナを連れてシアン()()()()()()()()()!」


 この場にレアット独りだけ置いて去るのに心残りが在る必然を訴えたアギド()()


 だがレアット──戦の女神(エディウス神)の司祭級、エターナ・アルベェラータを一刻も早く、傷ついたシアンの元へ送る様、()()()()(にら)んだまま怒気(どき)を荒げた。

挿絵(By みてみん)

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