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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第6章 それぞれの御旗を掲げて『ᚱᚨᛁᛉᛖ ᚦᛖ ᛒᚨᚾᚾᛖᚱ』
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第62話 風の煽動 ᚷᚨᛚᛖ ∬ ᛁᚾᚲᛁᛏᛖᛗᛖᚾᛏ

 己の身の丈より巨大で刃こぼれした二刀を風力の助力により軽々振るう豪傑(ごうけつ)レアット・アルベェラータ。


 大気すら読めない頭の足りない漢だが血沸(ちわ)肉躍(にくおど)る戦闘の最中、相手を倒したい一心のみで濃霧(のうむ)()き散らした。


 それに乗った形のアギドが思いついた作戦。

 空を飛べる駒(ハーピーのルチエノ)と、目に頼らずとも敵の位置を把握可能な駒(コボルトのカネラン)賢士(けんし)ルオラの監視役を(にな)わせた。


 さらに濃霧の中からレアットの武器に目方(重さ)の感触を変える呪文(スペル)枷の鎖(グラビティア)』を(ほどこ)す。


 そして誇大(こだい)(あお)り声を敢えて発し、可愛い子供達の相手に油断し切ったルオラを呼び込んだ。


 レアット、()()()()()が飛び込み、ルオラが白銀の女神(エディウス)から借り受けた白い神竜(シグノ)の首を捌いた(裁いた)


「ぐっ! ()()()()()()クソ餓鬼(ガキ)だわ!」


 シグノの血を全身に浴びたルオラが珍しく怒りに(ゆが)んだ顔を()()()()

 腕を剣に成した『心之剣(クオレスパーダ)』を扱いレアットの巨躯(きょく)なる剣とシグノを介さぬ直接対決で次なる詠唱(えいしょう)の時間稼ぎを試みた。


 キャシャーンッ!


「……重いっ!?」


「上等、上等! 可愛いとか俺様の(しょう)に合わねぇんだよッ! あ……(ワリ)(ワリ)い。何しろ加減が効かなくってよぉ。さらに破廉恥(スケベ)な格好にしちまったな」


 アギド先輩が勝手に賭けた(掛けた)術式なぞどこ吹く風、連撃を繰り出すレアットの(あざけ)(わら)い。


 このやたら(うるさ)い青年と剣を幾度(いくど)か交え(からだ)に感触を(きざ)んだ筈のルオラが交えた剣で()り負け、滑り落ちたレアットの刃が遊女の(ごと)白い(血塗れの)衣服を斬り破る。


 さらに皮一枚だがルオラの太腿(ふともも)をレアットの(なまくら)(かす)め遂に傷物と化した。


 これ迄大きな白い竜(シグノ)にレアットの放つ重みを任せ、ルオラ自身は受け流す事に専念すれば良かった。


 シグノが殺られた分は彼女の脳裏に計算が成されていた。されどアギドが付与した(エンチャントした)魔法の分は()()出来ていなかったのだ。


 その身を(さら)され屈辱(くつじょく)に満ちたかと思われたルオラが後方へ跳ねる。

 面前のレアットにこそ効かぬ天然の()()()()。だがアギドやミリア、アズール──第二次性徴期(せいちょうき)真っ盛りの子供等が(ほお)を染める(わず)かな(すき)を生んだ。


 ルオラはこんな状況すら狙った上で、あられもない姿形を(さら)して戦場に(おもむ)いた?

 そんな錯覚(さっかく)を抱かせる程、効果が絶大に発揮されたのだ。


 ──私を傷物に! そんな巫山戯(ふざけ)が赦されるのは()()()()だけ、もう遠慮はしない!


「デエオ・ラーマ! 戦之女神(エディウス神)よ! 地獄の番犬ケルベロスの(くさり)をもってかの者に潜む(罪悪)の鎖を具現化(ぐげんか)せよッ!」


 悔しさに(とら)われたルオラの忘我(ぼうが)──。妖艶(ようえん)()めた彼女の唇、血の口紅(ルージュ)(にじ)ますほど前歯で(したた)かに噛んだ。


「……! や、やんばい! あ、()()だけは駄目だぁ!」


 ずっと物陰(ものかげ)に潜んだまま──戦之女神(エディウス神)(たもと)を離れた司祭エターナ・アルベェラータの顔が凍りつき、大きなお団子頭を盛大に揺らす。


 それ程に賢士(けんし)ルオラの詠唱術は狂気の火種なのを彼女は痛い程に知っていた。


「……その身、自らの罪に縛られる運命を呪うがいいっ! フフッ、醜い肉塊に成り果てろこのクソ餓鬼(ガキ)! ──『魂之束縛(アニマカテナ)』!」


 何処まで詠唱なのか、レアットに向けた罵詈雑言(ばりぞうごん)であるのか判別不能なルオラの術が手で宙に描いた(いん)と共に完成をみた。


 魂之束縛(アニマカテナ)──この奇跡(裁き)を成せる賢士(けんし)極僅(ごくわず)か。


 然も本来ならば()()()が必須。術者自身が心の鎖(リミッター)を外し相手に投げつける術式が別に存在する。いきなり行使(こうし)出来るのはルオラただ独りだ。


 憤怒(ふんぬ)抱いたレアットの魂が()()()(しょ)される裁きを心持ち早く脳裏に描いたルオラの愉悦(ゆえつ)


 なんと在り得ぬ邪魔が割って入る──。


 ルオラの好きな(あい)らしい生き物とは真逆。

 身長2mを超えた狼男(ワーウルフ)彷彿(ほうふつ)させるコボルト族の長カネランがレアットの身代わりに為るべく魂之束縛(アニマカテナ)をその身に受けたのだ。


「「なッ!?」」


 術者(ルオラ)と狙われた被術者(レアット)──同時に瞠目(どうもく)の叫びを上げた。

 魂之束縛(アニマカテナ)詠唱(えいしょう)に刻まれた『(罪悪)の鎖を具現化』これは飾り(ハッタリ)ではない。


 ルオラを怒りに震わせたレアット──彼は恐らく巨大な得物(えもの)を扱い数多(あまた)罪悪(殺戮)を成したと思えた。

 依ってルオラ怒りの留飲(りゅういん)が存分下がる拘束(こうそく)の鎖が(おが)めるものと彼女は信じていた。


「ぐ、ぐおぉぉぉ……」

「おぃ()、何勝手に邪魔してやがる!」


 軍服の胸を押さえ苦しみに(もだ)えるカネラン。

 自らの命を救いつつある()()へ向かい『犬』と怒気(どき)荒げたレアット。

 彼は喧嘩(けんか)が三度の飯より好物、さりとて他人の命を無駄に削れる罪人ではなかった。


「し、シアン殿に頼まれたので……す。ヴァイロ(暗黒神)の子供達を宜しく頼む……ぐっ!」

「知った事かよォッ! 犬っころが変な根性見せてんじゃねぇ!」


 苦痛に足掻(あが)きながらも亜人族(デミヒューマン)の誇りを捨てぬカネランが()()(にじ)ます震えた台詞。


 実は心根(こころね)(おだ)やかな青年レアット。自分より大きなカネランの肩を(つか)み揺さぶる。言葉に(悲哀)が入り混じった。


「……!?」


 そんなやり取りを脇から見ていたルオラの喫驚(きっきょう)呼び込む。

 敵のコボルト、最初の賢士(けんし)ルエラから放った生粋(きっすい)魂之束縛(アニマカテナ)


 その身に受けたにも関わらず未だ苦しみ藻掻(もが)く時間が残存(ざんぞん)している現実が在り得なかった。


 ◇◇


 戦の天秤(てんびん)シアン・ノイン・ロッソ──人並み外れた彼女が恐れ入るほど激しき槍の突きを見舞う司祭姿のエディウス。


 冷や汗を胸の谷間に落としながら紙一重(かみひとえ)にて(かわ)しきる俊敏(しゅんびん)(あざ)やかなるシアンの動き。


 ──まだだ、まだ()()()()


光束(こうそく)の槍、まるで当たらないな! (いくさ)(かか)げた女神など恐るるに足らんッ!」


「ほぅ……女狐(めぎつね)がよく()()()。よかろう、ではくれてやる」


 偽りの女神(エディウス)がシアンから(うけたまわ)ったよもやな『もっと寄越(よこ)せ』的な煽動(せんどう)。一体何が足らぬのというのか。


 グラリトオーレが(ささ)げた姿()()を以て浮かべた冷笑──。

 白銀の女神(エディウス)と等しき凍った青に変わった瞳の色を(ほそ)めた。


 より蒼の輝きを増したエディウスが握る光束(こうそく)の槍。光を(まと)いさらなる加速度を増した神格(裁き)槍衾(やりぶすま)

 蒼き光が流れ音速を超えた錯覚(さっかく)──音の波風(ソニックブーム)を思わす。


 抱いた恐怖を抑えたシアン、亡き夫(ノイン)が残した境界線(紫色の力)を超えた真骨頂(Rosso)を使い切る覚悟を固めた。


 ▷▷──『シアン、ルオラにどうにか一太刀浴びせた。此方を気にせずやってくれ』


 寸刻(すんこく)前、シアンは風の頼りが寄越(よこ)したアギドのこんな声色(強がり)を聞いていた。


 この場に於ける争い、シアンの生きた懐刀(ふところがたな)ハイエルフの子供ニイナとレイチは、フォルデノ王国の山林に張り(めぐ)らせた陣を守護する留守番役を負わせた。


 ニイナから借用した風の精霊術『言の葉(風の頼り)』を帯びた木の葉がアギドの報告を仲介(ちゅうかい)したのだ。


 ──あのルオラ相手に? 流石(さすが)暗黒神(ヴァイロ)の弟子達。中々やるものだ。


 頼もしき小さな()()。本気を出して()まわしき戦の女神とやり合う──シアンの腹はこうして決まった。


 ドガンッ!


「じ、地震?」


 シアンとの闘争に己の全精力を(かたむ)けた偽りのエディウス。不意に揺れた地面、(わず)かに足元をすくわれ動きを止めた。


 シアンの空飛ぶ騎馬──飛竜(ワイバーン)がエディウスの背後に回り強かに地面へ降り立つ随分(ずいぶん)巫山戯(ふざけ)た落とし所。


「そこッ!」


 ダンッ! 

 ディオルの街並みを包む石畳(いしだたみ)を全力で踏み蹴ったシアンが手槍を突き出した野性味(あふ)れた形。地を()う低空で飛び掛る全身全霊。赤い熱気(ロッソの本気)が夜景に尾を引いた。


「このエディウスを()めて貰っては困…る!?」


 ()ぐさま光束(こうそく)の槍を構え直して迎え撃とうと動いたエディウス仰天(ぎょうてん)。何故か踏ん張りきれずに仮初(かりそめ)(からだ)が揺らいだ。


 答えは戦之女神(エディウス神)が散々踏み鳴らした足元──石畳(いしだたみ)の地面が微少(びしょう)に波打ったが故、腰を落とす下半身の踏ん張りが封じられた。


 ジグザグには進まぬ(フェイントを用いぬ)シアンの猪突猛進(ちょとつもうしん)。だがエディウスの降りたグラリトオーレの躰を(じか)に狙わず、波打った地面に渾身(こんしん)の槍を叩き込んだ。

 挿絵(By みてみん)

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