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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第53話 黒い思惑

「エディーッ!! お願いだから返事してぇぇ!!」

「いけませんよルオラ! 内臓を痛めて可能性があるのです!」


 山中に取り残されていたエディウスの周囲にいつの間にやら、最高司祭グラリトオーレや最強の賢士けんしルオラ等が囲っている。


 泣きながら訴えるルオラに対し、不本意ながら数人の司祭の力で押さえつけさせるグラリトオーレ。


「うっ………。こ、これは………?」

「あ、目覚めたぁぁ!! よ、良かったぁぁ!!」


「私の声が届きますかエディウス様? グラリトオーレでございます。敵の男は詳細不明でございますが、急に輝いて消えてしまいました」


「そ、そうか……。お前達はどうやって……?」


「私の黒い刃が作る影の中に取り込んだのよ。咄嗟とっさの判断だったし、そもそも攻撃以外でこの力を使ったことなかったからホントにけだったけどさ」


 ゆっくりと目を開けるエディウスに、ルオラをはじめとした周囲の歓声かんせいき起こる。


 そんな中、一人冷静に状況を説明しようとするグラリトオーレ。レイシャが頭の後ろで手を組んで得意げに応じる。


「しっかし危なかったわあ。影の中と言っても所詮しょせんただの異空間。()()()? とかいう毒がないのは良いけど、そもそも酸素も何もない所だから、ギリ延命えんめいって感じ? アイツ消えてホッとしたわ」


「な、成程なるほど……。とにかく息災そくさいで良かった」


「聞いてよエディー、レイシャに何でエディーは取り込まないんだ? …って聞いたらさ、あんな馬鹿そうな男にられる訳ないって……酷くないっ!?」


「皆さんどうか静まり下さいっ! 奇跡の盾(スクード)の効力が消えるまでエディウス様に生命の泉(プリマベラ)が使えないから、絶対安静にするより他ないのですよっ!」


 いつも影が薄くなおつコミュ障のようにおどおどした態度でしか話せないグラリトオーレが、力強い口調で周囲をいさめる。


 ド正論なので皆、口を閉じてしたがうしかない。


「さあエディウス様。少しでも眠って自己回復につとめて下さいませ……」

「す、スマンな。そうさせて貰おう」


 グラリトオーレは泥まみれになったエディウスの衣服の内、外せるものは慎重に脱着だっちゃくして、無理そうなものは泥をきつつ落としてゆく。


 今はそれしか出来ない自らの無能さに苦悩しながらだ。

 エディウスは笑みを返礼へんれいとして寄越よこすと、目を閉じてあっという間に寝息を立てた。


 レアット・アルベェラータ、あの男一人に現存げんぞん100騎だった量産型レプリカ白い竜(シグノ)39騎を亡きものにされ、賢士32名、司祭29名、修道騎士48名も犠牲となった。


 いずれも総兵力の1/3ほどを失ったことになる。


 一番下っ端の僧兵そうへいに至っては、半分以上にあたる112名がかえらぬ者となった。


 総勢500人程だったエディウス軍は、300人位に減少した。


 さらにエディウスがこれまでずっと乗騎じょうきしてきた最初の(ファースト)白い竜(シグノ)すら、エターナによる終わりなき旅路ストラーダ・インフィニータの前に消されてしまった。


 オリジナルのシグノが消えた以上、レプリカを生産するのは困難である。


 なれどエディウスの中で共に眠っている者にとっては、蚊に刺されたこと程に、どうでも良きことなのだ。


 ◇


 再びヴァイロ軍が駐留ちゅうりゅうしている場所に戻そう。唯一の司祭であるエターナ自身もオゾンの酸化に相当やられている模様もよう


 この場は一応医者の体であるハーフエルフのエルメタが二人をている。


「こりゃ酷いよ。二人共良く生きてたもんだ……」

「そんなに酷いの?」


竜の嬢ちゃん(リンネ)、金属ってびるでしょう? 生き物の身体だって同じなんだ。内臓の至る所がボロボロだよ。特にこの男の子(レアット)は生きているのが不思議な位だ」


「そう……なんだ」


 簡易的に増設した天幕てんまくの中でレアットとエターナの様子を見ているエルメタとリンネ。

 リンネは腫物はれものに触る慎重さで、レアットとエターナの手に優しく触れる。


「何してんの?」

「音による麻酔ますい効果……。この間、貴女にシアンを診せる前にもほどこしたやつよ」


「へぇー……。そんなことも出来るのか。大したもんだねえ」

「そんな大層たいそうなもんじゃない。私の力はどれもこれもまやかしばかりよ……」


 素直に感心するエルメタに対し、冷やかな態度で応じるリンネ。エルメタは「そういうもんかねえ……」と付け足しつつ、森の精霊(ドリュエル)による回復術を緩々《ゆるゆる》と行い始めた。


 ◇


「ヴァイロ……。お前はバンデという男の行いをどう見る?」

「どうって……?」


 ヴァイロ、シアン、そして黒き竜(ノヴァン)達は、断崖絶壁だんがいぜっぺきのさらに上に在る小さな岩山に登頂とうちょうしてラファン側の様子をうかがっていた。


 40km以上離れた場所に戦の痕跡こんせきが充分過ぎるほど視界に映る。黒く焼け焦げた山肌は広く、未だくすぶっている場所すらある。


 現在の関心事と言えば間違いなくそこにいる筈のエディウス軍なのだが、シアンが今更感いまさらかんしかない事柄ことがらを質問するから、ヴァイロは返答に苦慮くりょしている。


「私はお前とあの男(バンデ)に風の精霊を付けさせてもらった」

「…………??」


「悪いが私は、何より友人に預けている我が子の元に帰ることを人生の最重要事項としている。よって素行そこうの気になる者へ風の精霊を付与エンチャントすることでその行動を監視させて貰った」


「ハハハッ…………。信用ないのな俺って」


 悪いがと言っている割に口調に謝罪しゃざいの色が伺えないシアンに対し、ヴァイロは苦笑しつつ、もみあげの辺りを指で引っくしかない。


「まあお前の行動は大抵予想の範疇はんちゅうだ。問題はバンデの方だよ。アレの行動すら私はお前が初めて会談かいだんを交わしていた時から把握はあくしていた」


「ちょっと待て……。では……」


「そう言うことだ。もし彼があやしい行動を起こせば即座そくざに私は感知出来る筈だった……。それにも関わらず恐らくはエディウス側に通じていたことも、ましてや砦における勝手な決起すら判らなかった」


 バンデの奇怪きっかいな行動に気づけなかったもシアンは謝るつもりがないようだ。とにかく事実だけを淡々《たんたん》とべる。


「全ては万能ではないというただそれだけのことだ。人間やハイエルフとて間違い(エラー)を起こすし、その意識も実にうつろで危ういものだ」


 人間達の会話にさも上位種のような傲慢ごうまんさで割って入るノヴァンである。


黒き竜(ノヴァン)殿、確かに貴殿きでんの能力は個の人間を超越ちょうえつしているが、その魂はこの男(ヴァイロ)から創られしモノでは?」

「………フンッ」


 それに対して氷の表情をくずすことなく、目で制しながら答えるシアン。


 単純な怒りより余程迫力がある。面白くないと言わんばかりに、黒い竜は大きく鼻を鳴らす。


「まあ気づけなかったのは、こちらの落ち度と片付けて貰って構わない。私が気になるのはあの男の真の目的だ。今アレはフォルデノ王国に幽閉ゆうへいされている。当然の帰結きけつだ」


 シアンの言葉に逐一ちくいち相槌あいづちを打ちながら、腕組みするヴァイロ。

 意地の悪い話だが、シアンとて正直答えを期待していた訳ではなかった。


「…………これは俺独断(どくだん)の何の根拠こんきょもない意見だ。けれどもこれしかない………とも思う」


「「ほぅ?」」


 何やら面倒臭そうに口を開く我等が暗黒神に、女戦士と黒い竜は驚きつつ目を見張るのである。

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