第51話 永遠の旅路
「な、何なのアレェェェェ!?」
「我等がロッギオネ神殿で怠惰を貪っていた間にこんな奴が………。フフフッ」
こちらはレアットの落雷にやられている側。エディウスと賢士ルオラが同じシグノに騎乗している。
周囲の取り巻きは次々とやられてゆく中、流石にエディウスは、シグノを巧みに操り回避している。
「あ………。あ、あれ。戦陣の中心にいた筈なのにいつの間にか先頭に移ってるあの頭の白い御方はエディウス様じゃないのっ?」
「アアッ!? 何だテメエ、敵の親玉に様って何なんだよっ! ………だがそうかよっ、アレがエディウスか。へッ!」
白髪で小柄ながらその美しい容姿と相反する大剣・竜の牙を握っているエディウスは、神々しくて非常に目立つ。
その神に仕えることを辞めたエターナにとっては恐怖の対象でしかない。
そしてエターナからの声を聞いたレアットは、最強の標的に舌なめずりする。
「喰らいやがれぇぇ!!」
「…………我が言之刃の風を心に吹き荒れる嵐に変えよっ! 『心之嵐』!」
両手の巨大剣で小さな円を描くように力強く回転させて、崖を降りたときの数倍はあろうかという二本の竜巻を生み出して、エディウス等の方へ向けたレアット。
それに対し既に途中まで詠唱を終えていたルオラは、自らの心中に吹き荒れる魂の嵐を生み出してぶつける。
本来なら言の刃で風を起こした後に使って嵐に変化させる奇跡なのだが、賢士最強のルオラは、それ抜きでやってみせる。
「相殺しただとっ!? 益々おもしれえじゃねえかっ!」
「る、ルオラ様の心之嵐と同等!? ………こ、これなら良い戦いが出来るかも………」
レアットはせっかく生み出した嵐を蹴散らされたのいうのに、むしろテンションを上げてゆく。
恐怖一辺倒だったエターナだが、その様子を見て少しだけ希望が湧いてきた。
(す、少しは私だって良いとこ見せないとっ!)
エターナはレアットのことを信じ、両目を閉じて意識を集中する。深呼吸して新鮮な酸素を身体にも心にも巡らせてゆく。
「ディッセオ・オーレ! 生命の泉、枯渇し、命の木枯れ果てる刻!その軌跡は終焉を告げる! さあ神への遺言を告げよ! 逝くがよい、終わりなき道へ!」
「あ、あの女は、まさかエターナっ!?」
閉じていた目をカッと見開き、指先で印を宙に描きつつ勇敢を声に載せるエターナ。
それを聞いたルオラが存在に気づく。らしくもなく顔が恐怖で引きつっている。
「『終わりなき旅路』!!」
「ま、まさか禁忌のそれをっ!? 最高司祭と同じ奇跡をあの小娘がっ!?」
エターナが宙に描いた印。エディウス等の騎乗するシグノの頭上に移動し、神々しい光を放ちながらその身体を全て覆う。
白く美しかった筈の竜の肌が一気に色褪せてゆき、さらにボロボロに全身が崩れてゆく。
この奇跡は戦の女神に仕えし司祭が、攻撃に転じることの出来る唯一の術。
生命の泉を遥かに凌駕する細胞分裂を促して、対象者の寿命を瞬きで終わらせる。
危険すぎて禁忌とされている奇跡なのだ。
当然騎馬を失ったエディウスとルオラは地面に投げ出された。
「ククッ! やってくれるっ!」
落下するエディウスが竜の牙を片手で地面に叩きつける。その反動で浮かび上がり地面に激突するのを防ぐ。
愛するルオラの手をギュッと握り、救出することも忘れない。
「おぃっ! テメエっ、やるじゃねえかっ!」
「そ、それより良い加減エターナって名前で呼びなさいよっ、この馬鹿レアットっ!」
素直にその結果を感心するレアット。そんな真っ直ぐな賞賛を受ける心の準備が出来てなかったエターナは、少し顔を染めながら文句を言った。
「ウラアァァァ!!」
レアットは次々と竜巻を繰り出してエディウスに浴びせてゆくが、竜之牙で両断されてしまう。
「アーハッハッハッ! 良いっ! 良いぞ貴様ァ!」
「アンタもなっ、エディウスさんよぉぉ!!」
互いに剣術で勝負している筈なのだが、何れの力も特殊過ぎて凡人には理解出来ない。
「レアット………相談があるの」
「おぅ、何だよ藪から棒にっ」
レアットの大きな背中に自分の背中を合わせるエターナ。
まるで背中は任せてという体なのだが、実際には背中に隠れたが正しい。
「ここから先、私は回復やサポート役に徹するべきなんだろうけど………それって必要?」
「アアッ!? よく分かんねえけど、要するに”後はヨロシク”ってことか? 良いぜっ、元々そのつもりだったんだ。あの白い奴殺っただけでお前は、良い仕事したぜっ!」
「わ、判った!」
やり取りが終わると物陰を探して一目散に逃げ込むエターナ。
彼女は戦線離脱……かと誰もが思いきや少し違った。
「戦の女神よ! その偉大なるお力で悪しき力を全て封じる奇跡の盾を!」
「なっ!? よ、良くもあの小娘~っ!」
物陰から突然巨大な光の矢のようなものが放たれる。
見た目通りの攻撃ではないが、ルオラだけでなくこの場にいる奇跡の御業を主力の攻撃としている全ての連中が、やられたと頭を抱えたくなる。
「逃げたんじゃねえのかっ? 一体何をやらかしたっ!?」
「絶対魔法防御……って難しいか。とにかくここら一帯暫くは奇跡も魔法も全部無効よっ! せいぜい頑張んなさいっ!」
(もっともアンタの攻撃自体が奇跡そのものだと思うけどね)
「なっ! ……ってそんな事も出来んのかよっ! うっしゃあァァァ! 最高の演出だぜっ!」
これまで以上のハイテンションで、ガッツポーズからエターナに向けて親指を立てる。
レアットにとって最高の舞台を作り上げた相手に向けられた最高の賛辞。
実は大体の司祭はこの奇跡を行使出来るので、それ自体は大したことではないのだが、使ったが最後。
自らの首を絞める行為なので余程条件が揃わない限り使わないのだ。
「うらあぁぁぁっ!!」
またも竜巻を生み出すレアットだが、何と自らその中に飛び込んでしまう。そしてそのまま宙へと舞い上がると、両腕を広げて巨大剣二刀流を左右のシグノと騎乗している連中の首を狙って叩き込んだ。
人間達はおろか白い竜ですらも、断末魔すら上げる間もなく首を落とされた。
「くうーっ! 能力で殺すのもいいがやっぱ生身を斬るのはたまんねえなっ! 感触がダンチだぜっ!」
「うっわーっ、えっぐ………。やっぱりアイツラファンがどうこうじゃなくて、暴れたくてきただけじゃないの」
ボタボタッとゴミのように降って来る首と死体を目の当たりにしながら、エターナは呟くのであった。




