第50話 白い水平線に落ちる雷竜
ヴァイロがカノン領地ギリギリの場所で守りを固めると宣言して1週間後。
何故か二人の暗黒神軍の兵が、ラファンとその北にあるエディン自治区付近のアマン山中でひっそりと形を潜めている。
巨大剣二刀流のレアットと戦の女神の司祭エターナであった。
実はレアットが内緒で軍を離れてゆくところを、途中までこれまたコッソリエターナがつけていたのだ。
しかし途中で尾行がバレてしまった……。いや、嘘である。
どう考えても隠密行動が出来るとは思えないレアットをつけ回す自分に嫌気がさして、エターナの方から自ら明かしたのだ。
「何でテメエがついてきた!? 一体何が出来るってんだ、アァン!?」
「貴方が勝手に軍を抜けた理由を告げるのが先でしょう!?」
「そ、それはだな……」
(この女、ホントに苦手だ……。姉貴みたいについて来やがる……)
凄んでみたレアットだが、完全に跳ね返りを受けてしまい、思わず口籠ってしまう。
「俺……実はラファンの生まれだ」
「へぇっ? そうなんだ」
「ただの木こりになるのがやってらんねえって思って、噂が絶えないカノンに一人で移った……。って、何でテメエ相手にこんな話してんだァ!」
「良いから良いから……で?」
「……ったく。向こうの狙いはカノンにいるヴァイロだってんだから、ラファンを守る必要はねえって言い分だけどよォー。地元やられっぱなしは、納得いかねえんだっ!」
相変わらず前のめりで絡んでくるエターナに文句を言ってから、口惜しいと言わんばかりの顔で応えるレアット。
(へぇー……意外と可愛いとこあるんだー)
「ところで私もラファンの生まれよ。名前のアルベェラータといい不思議な縁よね」
「はあっ!?…………。いや、興味ねえな」
ニコニコ顔で子供をあやすような態度のエターナであったが、レアットの発言は彼女にとって予想外であった。
ラファンに行く途中にて例の400mはあると言われる断崖絶壁を降りる際、レアットは片腕で小さな子供でも扱うようにヒョイとエターナを抱えると、躊躇皆無で飛び降りる。
絶叫するエターナを笑い飛ばしながら、巨大剣を1本だけ地面に向かい手首だけでクルっと剣先を回す。
その先から竜巻を起こして上に降りると、そのままそれが消えるまで乗り続け、楽々と地面に降りるという離れ業をやってのけた。
そんな会話と道中が在りつつ二人は、エディウス軍が攻めてくるのを待っている訳だ。
名前も同じで出身まで………。でも親戚なのかは定かでない。
そんなまるで運命的な出会いを絵に描いたような二人だが、何れにも恋愛感情は今の所ありえない。
レアットは口の減らねえ妹みたいな奴だと思っているし、エターナは放っておけない弟だと、勝手に思い合っていた。
間もなく7日目の夜が明けようとしている。今夜の寝ずの当番はエターナである。
実際には、互いの就寝時間を半分に分けて、今頃は自分が寝ている番だった筈なのに、レアットが起きなかったのだ。
「クスッ……。何だろっ、可愛いんだよこの寝顔」
傷だらけのレアットを顔を指先でつつきながら笑う。こんな感じでエターナが起こそうとしなかったらしい。
「え…………」
東の果てが白いのは日の出だから……。そう思っていたエターナだが、実は違っていることに気づく。
だが、思い掛けない事態で飲み込むのに余計な時間を使ってしまった。
「レアット、起きてっ! 起きてぇぇ!!」
「……んあっ? るせえな……。何だぁ………」
大きなレアットの身体を必死に揺するエターナ。物凄く面倒臭い態度を露わにしつつノソリッと起き上がる。
「あ、あ、あ、アレを…………」
「アアンッ!? ……………………はっ?」
手をブルブル震わせながらエターナは東の水平線を指す。声も同様に震え上がっている。
一方眠い目を擦りながら、何とか焦点を合わせようするレアット。信じられない光景にようやく気づく。
「あ、あの無数の白い塊…………」
「あ、アレが全部向こうの竜だって言うのかよぉ!!」
悠々と高さにして100m程の所を飛んでくる白い塊。一見渡り鳥の群れのようで優雅にも見える。
なれど実際には戦の女神の美しき白い竜が群れをなしているのであった。
二人の両手両足の指をフル動員しても全く役に立ちそうにない。指でカウントするなら、せめてあと三人は欲しいが、もうそれすら滑稽に思える程だ。
ただとにかく慌てふためくエターナとは対照的に、あろうことかレアットは最高の笑顔で巨大剣を二刀で構える。
エターナ同様震えてはいるが、こっちは武者震いってやつだ。
「ど、ど、ど、どーすんのっ、あんなのっ!」
「はぁ? 最っ高じゃねえかよッ!! アヒャヒャヒャッ!! いー加減本気で暴れらんねえのに飽きてたとこだぜぇぇ!!」
「は………ハァ!? 馬鹿だと思ってたけどいよいよ頭のネジ外れたのぉ!?」
「うるっせえぇぇ!! 怖けりゃ毛布でも被ってそこでオネンネしてなァ!!」
最高のハイテンションで笑うわキレるわ忙しいレアット。空に剣を掲げる。
「俺様のタイキの力、見せてやんぜぇぇ!!」
「な、何? 雲なんかなかった筈なのに?」
晴天の明け方がやって来る筈の空に、黒い雲がどこからともなくやって来る。轟音と圧倒的な光を引き連れて。
「さあさあさあっ! 落ちやがれェェェェ!! 黒焦げにしてやんなァァァ!!」
「きゃあぁぁぁぁ!! 雷は嫌ぁぁ!!」
雲の中を東洋の竜の如き稲光が幾重にも走る。そして所構わず落雷が始まる。
「アヒャヒャヒャヒャッ!! シアン姉貴の言った通り低く飛んで来やがったっ、しかもあんな塊でっ!! ヴァイロォォォォ!! わりぃ、此奴等俺一人でぶっぱすっかも知んねえぜっ!!」
高らかな笑いが止まらないレアット。エディウス軍に次々と落ちた雷は、阿鼻叫喚を生む。100位いた筈のシグノと騎乗する連中の肉が焦げる嫌な匂いが周囲に漂う。
当然アマン山の樹々にも落雷し山火事を起こし始めるので、相手の地獄に構っている余裕はない。
「す、凄………。レアットってこんなに強かったの? …っていうか絶対暴れたくて来たのよね? 地元大事とかあんなの嘘だよっ!」
(でも………。だからと言ってこれであの人達が終わる訳がないのよね………)
正直味方も相手も稲妻も、全てが怖いエターナだが、小動物のように隠れている訳にはいかないことを覚悟しつつ、東の方角を睨みつけるのである。




