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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第48話 迷宮入りした作戦と闇に閉ざされた大地

 不死鳥フェニックスと同化したシアンは、飛ぶというより地上スレスレをホバリングするような形で黒い刃の二刀流であるレイシャに挑む。


「フフッ……」


 それを見たレイシャが笑みを浮かべる。

 最早この争いでどうでもいい存在かと思われた洞窟の住人であるコボルト達。

 アギドの黒い雲の魔法にかかった彼等だ。しかも操るべき術者本人が既に不在なので不死アンデッドのようにフラリと歩いていた。

 彼等の影から鋭く黒いとげ幾本いくほんも伸びてそれがシアンに襲いかかる。レイシャはこれを狙ってほくそ笑んでいた。


 けれどもその棘達はシアンの身体に届いたと思いきや、まるで瞬時に消火された後に残る煙の如く消えてゆく。


「なっ!? 馬鹿なっ!」

「………」


 驚くレイシャを他所よそに全くにもかいさない態度のシアンである。

 そんな彼女の目前に果たして勇敢ゆうかんと言えるのか、賢士けんしの男が心の剣(クオレスパーダ)を構えて立ち塞がる。


「やめろっ! 無駄だっ!」

「実体剣を溶かすと言われる不死鳥だがこれならっ!」


 レイシャの制止を聞かず、両手に出していた心の剣を足先へと移動させて、巨大な剣山のように繰り出す。


「ほぅ……。すぐれているな、だが……」


 負傷しながらも機転きてんの利いた賢士の攻撃を、心無い言葉でたたえつつ、グルリと完全に回避する。

 槍にナイフが幾重いくえにも貼り付いた例のだいぶ変わった剣で、賢士を袈裟懸けさがけに両断した。


「クッソっ! めるなァァ!」

「よせ、こうなった私を止められるのはトリル……いや、エディウスと竜之牙ザナデルドラだけだ」


 完全に真正面から襲いかかるシアンに、黒い二刀で応対おうたいしようとしているレイシャ。シアンはそれを気にせず無造作むぞうさに最上段から叩き込む。


「これを受けるかっ、やるっ! だがこのままでは死ぬだけだ」

「グゥゥゥ……」


 レイシャの剣を溶解ようかいし、そのまま持ち主を斬り伏せるとシアンは思っていた。黒い刃の底力に少し驚く。


 諦めずにレイシャは燃えさかるシアンの背後が作った影で新たな刃を創造し、無数の棘を突き立てるが、これは徒労とろうに終わった。


 槍に貼り付いた燃えるナイフをレイシャの両肩に飛ばすシアン。剣を握ること叶わなくなり、ダラリと両手を下げるレイシャ。


「終わりだ」


 レイシャの心臓を槍で一突きにしようしたシアンであったが、レイシャが傷ついた足で精一杯せいいっぱい床を蹴りつける。

 洞窟の床を砕けさせ石を飛び散らせつつ、レイシャは後方へ逃走した。そのさらに後ろはひたすらに闇しかない。

 負傷した司祭を置き去りにレイシャは完全に姿をくらませた。


「フッ……逃がすとは。私もまだ甘い……。あ、ミリア、トドメを刺すのはよすんだ」

「えっ……」


 逃げてゆくレイシャを自嘲じちょうしながら目で追ったシアン。そしてすぐとなりで司祭の首をねる直前だったミリアを慌てて止める。


「そこの司祭、我々と取引をしないか? お前の命は保証する。代わりにこのエルフの少年を回復の奇跡とやらで治癒ちゆしてはくれまいか。その折れた脚では逃げられないであろう」

「わ、我に戦の女神(エディウス)への信仰しんこうを裏切れと言うのか!?」

「信仰にじゅんじて死ぬか……。だがお前自身の力は、迷える者を救うためにあるのではないのか? 一応言うがこちらにも回復の手段はある。そちらに頼れば確実というだけのことだ」


 口惜くちおしやといった視線を、シアンとエルフの少年に対し幾度いくども往復させる司祭。シアンはどちらでも構わぬといった冷たい態度を崩そうとはしない。


「判った……、応じよう。私が自身の足を治癒した後は……」

「言うまでもない。何処どこへなりと往くが良い……」


 こうしてシアン等の洞窟を侵攻して、空からのヴァイロ等と挟撃きょうげきをする作戦は完全に失われた。


 あらかじめ住人には予告済だったとはいえ、街を空襲した暗黒神(ヴァイロ)軍。結果だけがじ曲げられてフォルデノ王国に報じられた。

 最初にディオルの街を占拠せんきょしたのはエディウス軍だが、彼女等はほとんど街に危害きがいを加えなかった。

 これを裏事情無視で比較され、王国を襲ったバンデの連中と同様に批判ひはんされてしまう。

 挙句あげくの果てには避難ひなん用の地下通路を使い、ロッギオネを背後から突こうとした行為すら卑怯ひきょうだと非難される。

 作戦実行前にシアンが不安視ふあんしした通りの結果になってしまった。ルチエノやカネランなどはヴァイロ達に忠義を誓っていた。無論バンデにも。

 よって自らの身を引き裂きたいほどの罪の意識にさいなまれてしまう。


 暗黒神ヴァイロとその一味は、完全に敵視てきしされ不毛ふもう山岳さんがく地帯であるカノンに閉じこもるしかなくなった。

 そしてカノン自体が完全にその立場を喪失そうしつし、諸悪しょあく根源こんげん=カノンの図式が完全に成立した。


 ◇


「そ、そんな……。どうしてこんなことに……」

「クソォォォ! バンデ殿は我々の救世主ではなかったのかっ!」


 ここはカノン。ヴァイロのツリーハウスには当然全てを受け入れる訳にはいかないので、それぞれ空き家や雨風がしのげそうな場所に身をひそめていた。

 ルチエノが自分の手首を壊さんばかりの力で握りしめる。カネランは残った左腕をちつつあるテーブルに叩きつけ破壊してしまった。

 二人が今いる場所は店主がいなくなった元酒場。比較的広いし集まりやすいので利用している者が多い。


「あーっ、駄目だよ。壊しちゃあ……。に、しても荒れてるわね。まさかこんなこと有り得ないとでも思っていたの?」

「え、エルメタさん……。だってこんな……」

「ルチエノ泣かないの。人間に限らず知識を活かせる生き物なら心変わりだってある。考えてることが通じ合えない私達って、天気のように移り変わるものなのよ」

「そ、そんなの……か、悲しすぎます……」


 嗚咽おえつを漏らしているルチエノの背中をさするハーフエルフのエルメタ。異種間に生まれた彼女にとっては大したことではないのかも知れない。

 人間からもエルフからもけ者扱いされてきたのだ。


 そんな所へバタンッと音を立ててリンネがやってきた。ノックも扉の閉め加減もそこら辺は気を使わない。


「やっぱりここにいた。皆、表の広場に集合っ! ヴァイロとシアンから今後について話があるそうよっ!」


 そしてこれも相変わらず遠慮のない大きな声。しかしそんな彼女を立ち振る舞いを見ていると何故か救われたような気がしてならないのだ。

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