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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第6章 それぞれの御旗を掲げて『ᚱᚨᛁᛉᛖ ᚦᛖ ᛒᚨᚾᚾᛖᚱ』
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第58話 怨嗟の刃 ᛏ- ᛗᚨᛚᛁᚲᛖ -ᛏ

 森の都ラファンの中心地ディオルの街並みを取り戻す争い──。


 戦の天秤(てんびん)シアン・ノイン・ロッソに単騎ディオル側の抑えを任せ、レアットの生まれ故郷から攻勢を狙ったアギド達。


 よもやな賢士(けんし)ルオラの恐怖に満ちた待ち伏せを受け、どうにか自分達だけでやり抜くべく若さにかまけた全力を試すもルオラに傷ひとつ負わせられない。


 敢えて子供達の()()に身を委ねる悦楽(えつらく)(ひた)っていたルオラ。そろそろ攻撃に転じようとした処、(いく)ら振り払っても消えぬ深い霧に包まれ独り苛立(いらだ)つ。


「これはただの霧じゃないわね……」


 白い神竜(シグノ)の羽ばたきで起こした極地的暴風。消失した(そば)からルオラを再び包み込む人の異能(レアット)が成した霧。

 然も可愛い子供達(アギド達)は霧を呼び込む詠唱を行使(こうし)した気配はなかった。


「デエオ・ラーマ、戦之女神(エディウス神)よ、我が魂に潜む()()()(ささ)ぐ! 斬り裂け! ──『言之刃(フォグラマ)』!」


 ズガッ! ズガズガズガズガッ!


 賢士(けんし)が扱う中では初歩と云うべき言葉の刃を濃霧へ散らしたルオラの様子見。

 可愛げある悲鳴など一欠片(ひとかけら)も届かず地面に刺さった(むな)しさしか返らなかった。


 とっくに行方を(くら)ましたと思われた若さ(あふ)れた()()()()()


 ブンッ! キィンッ!


「フフッ……どれだけ霧に(まぎ)れようが君の殺気と大剣が起こす風だけは隠しようがなくって……!?」


「腕を剣にしやがった!? 知った事かァッ!」


 レアットの巨大な鈍二刀(なまくらにとう)が再びルオラへ断頭(だんとう)の刃を落とすがルオラは笑みを(たた)えたまま容易(ようい)心之剣(クオレスパーダ)で受け流した。


 独り「チィッ!」と本気の怒りをみせたレアット。術で具現化した剣の刃先を滑り落ち、まるで鉄製同士の火花を散らした。

 然し振り下ろしたレアットの刃から何か異なる殺意が飛び立つ。気づいたルオラの色艶(いろつや)帯びた声音から(にご)りを生み出す。


 ──馬鹿な? あの女(ルオラ)、初めから詠唱を終えていた? ……だが!


 霧の中、身を隠したまま仲間達へアギドが指示を出す。賢士(けんし)の奇跡、心之剣(クオレスパーダ)の詠唱をいつ終えたのか認識出来ないアギドを走り抜けた戦慄(せんりつ)


 それに例え殺気(レアット)の居所が事前に知れようとも、あの巫山戯(ふざけ)た刃を悠々(ゆうゆう)受け止めたルオラの見事な胆力(たんりょく)

 濃霧の中、例え目に映らずとも手に取る(ごと)くルオラの動きが知れたアギドの感覚。


 ルオラは絶大なる竜を(わず)かに退かせ、レアットから受けた決死の刃を受け留めたのだ。答えだけ語れば難題とは云い難い。然し体現(たいげん)するのは容易(たやす)くないのだ。


「──火蜥蜴(サラマンダー)よ、その身を()がせ! ──『(ロペラ)』!」


 なんとレアットの(なまくら)(またが)り飛び出したるは紅の爆炎魔導士アズール。

 中途迄詠唱し終えた呪文(スペル)──連鎖(れんさ)し続ける発破(はっぱ)をルオラの面前へ寄越(よこ)した。


 白い濃霧に紅の粉塵(ふんじん)が混ざり合う牽制(けんせい)射撃(攻撃)

 ()()ではないと瞬時に(さと)れるルオラだが挙動(きょどう)は乱された。今更甚(いまさらはなは)だしき話──レアットの巨大剣は2()()在るのだ。


 ズバッ!


 防御魔法白い月の護り手(フェルメザ)を転化させた手刀を振るうミリアも、レアットの二刀目から飛び立っていた。

 ルオラが(にら)んだ通りの()()──神竜(シグノ)の翼、根元を斬り裂き白鳥の様な翼が吹いた()に染まりゆく。


 (弟分)でも蒼色(兄弟子)でもなき灰色(真ん中)がポニテを揺らす()()()を決めた。


「ぐっ! よくもやってくれた!」


 遂にルオラの顔を歪めたアギド達に依る真の連携。


 詠唱必須の賢士(けんし)ルオラは独りきり──シグノの護りを頼りつつ術を仕掛ける必然。

 ならば彼女の()()()を真っ先に()ぎ取り(地面)へ落とせ。暗黒神(ヴァイロ)の一番弟子が(さず)けた作戦であった。


「ウォォォッ!! アンタが女神(エディウス)か!?」


 そんな最中──独り作戦不要の(云う事聞かぬ)漢レアットの二刀が三度(みたび)火を噴く()()()。彼はあくまで己の地を()くのだ。

 参謀役(アギド)とて敢えて無法者(レアット)赦す(泳がす)。作戦と云う名の(かせ)など渡さぬ方が、この男の最大火力を生み出す(ことわり)を知っていた。


 (故郷)の仇、レアットが忘我(ぼうが)しながら()()()()を込めた()()()()届ける。彼の本命はあくまで白銀の女神(敵の親玉)


 家族(村民)(うば)われたレアットの燃え上がる怒り──(あかつき)に染まる狂奔(きょうほん)を望んだ。


 ◇◇


 一方、戦之女神(エディウス神)軍の混乱を狙ったシアンの単独行動。まさかな最高司祭グラリトオーレ・ガエリオとの対峙(1対1)余儀(よぎ)なくされた。


 ブォンッ! ブォン!


 風切るグラリトオーレの槍──。

 飛竜(ワイバーン)に乗り(わず)かに宙へ浮いたシアンへ向かい、青く輝いた光束(こうそく)鉾先(ほこさき)。風切る突きを、丁寧(ていねい)幾度(いくど)も見舞う。


 ──速い! 光を(たば)ねた槍は流石に()()。然し振り抜く勢いがやけに()()


 グラリトオーレが()()()槍衾(やりぶすま)を創る。たった独りで幾重(いくえ)にも重ね置く。


 飛竜(ワイバーン)を操り鮮やかに(かわ)すシアンの千両役者ぶり。

 だが、彼女自慢の紫色の短髪が時折(ときおり)散り()()。耳元で囁く(を斬る)戦慄(旋律)

 得物(武器)の軽量さと使い手が発生させる質感に心の中のみで()()を語った。


 然しあくまで光を束ねて成した槍なのだ。態々(わざわざ)握った手を動かさなくとも、形状だけを伸ばし切れば勝手に届く筈。

 敵に対する敬意の現れ? はたまた直接己の手を以て殺めたい野心の体現(たいげん)なのか。

 いずれにせよ未だ本領発揮(ほんりょうはっき)でないのは火を見るよりも明らかだ。


「そちらからは掛かって来ないのか! 戦の天秤(てんびん)とは口だけ達者(たっしゃ)な訳ではあるまい!」


 高めの声にも関わらず神格通った凛々(りり)しき最高司祭の()叫び、陽の落ちたラファンの山林部に響き渡る()()()()()()


 ボゥゥッ!

 まるでグラリトオーレの煽りが火付け役になった様な飛竜(ワイバーン)の火吹きが最高司祭が白く(なま)めかしい脚を踏ん張る足下の草花を焼き尽くす。


 グラリトオーレは僅かに(ひる)み、戦之女神(エディウス神)に忠誠を誓った自らの不信(不振)へ立腹した。


「最高司祭殿は思いの外、好戦的だな。流石に戦を(かか)げる女神の忠臣(ちゅうしん)といった処か」


 飛竜(ワイバーン)火吹き(ブレス)と言葉による扇動(せんどう)を合わせ重ねたシアンの狡猾(こうかつ)

 緑の瞳が紫に燃え揺らぐ。無論、手をこまねいている訳ではない。


 対レイシャ戦の時にも用いた亡き夫(ノイン)から継いだ境界線の能力。敵方グラリトオーレの体温等が検知出来うる最も冷静極めた状態。


 ──全く気負(きお)った様子が……それにあの光束の槍、温度が尋常(じんじょう)じゃない。


 精密な機械の様にシアンがグラリトオーレの戦力を計測してゆく。己の手槍を()()()()光の槍と交えようものなら、溶解する結実がみえた。


 ──あの槍自体の性能なのか、(ある)いはグラリトオーレの能力が成せる御業(みわざ)か?


 心だけ天を仰ぐシアン。レイシャの時と同様──またしても自分の底力だけ使った処で()()()勝敗が知れた。


 ──ノイン……また()()を借りる()。私はまだ()()へは()()()()


 (胸内)に願いを掛けた女性の本質。声音も気質とて男を打ち負かすシアンが真心込めた大層稀有(けう)な女性言葉──心音(心の声)だけで密やかに(つぶや)く。


 ボッ!


「……!」


 紫だったシアンの瞳が本気の赤に転じた。(つば)の付いた手槍が紫色に染め上がる。


 瞬時、グラリトオーレの顔つきが色を変えた。さっき迄の敵とは別物へ転身したのに気づいた(けわ)しさ。


「此処から戦の天秤(てんびん)──私の真価をお見せしよう。さて、準備はいいかな?」


 紫色帯びた槍を天へ突き出し何やら芝居じみた態度。シアン(冷静さ)ノイン(境界線)ロッソ(盛る魂)が戦火の最中、哀しみ乗り越えた笑みを(こぼ)した。

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