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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第6章 それぞれの御旗を掲げて『ᚱᚨᛁᛉᛖ ᚦᛖ ᛒᚨᚾᚾᛖᚱ』
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第57話 異彩と偉才 ᛖᚲᚲᛖᚾᛏᚱᛁᚲ ✠ ᛈᚱᛟᛞᛁᚷᛁ ⚚

 ラファンの中心地ディオルを解放すべくこの街を見下ろせる場所に存在する全滅した山間の村。

 レアット・アルベェラータの故郷に降り立ったアギドやレアット達一行。


 建造物は綺麗に残っている奇妙な村跡に首を(かし)げた一行。出身者レアットですら、この現状が意味する答えを知らなかった。


 (ろう)せずしてディオル攻略の足掛かりを(つか)めたと思われた矢先。

 白い神竜(シグノ)とそれを駆る最上位の賢士(けんし)ルオラ・ロッギオネ・ルマンドが手ぐすね引いて待ち構えていた。


 ディオル側へ単騎煽動(たんきせんどう)に出向いたシアン・ノイン・ロッソと亜人族(デミヒューマン)以外、成人以下のさぞ可愛らしい早熟(そうじゅく)()()を見つめるルオラの目が自然に細くなる(ほくそ笑む)


 ──ルオラ……独り(単騎)なのか?


 剣を交えた経験のあるアギド──。

 詠唱必須な賢士(けんし)神竜(シグノ)(またが)っているとはいえ独り切り。不利な状況を自ら望んだ形だが、それがかえってアギドに不気味さを()()()()


「喰らいやがれぇッ!」


 ズガァァンッ!

 レアットの振り抜いた鈍二刀(なまくらにとう)異能(怒り)で起こした竜巻に身体を預け、ルオラより高い位置から無造作(むぞうさ)に振り抜いた()()


 ルオラは首裏(うなじ)に感じた殺気を妖しい微笑を(たた)えたゆとりを秘め、白い神竜(シグノ)毎、純白のドレスを羽織る踊り子(バレリーナ)の様に(あざ)やかに(かわ)した。


「嗚呼……なんてひりつく(心地良い)緊張。ゾクゾクしちゃう、もっともっと私を楽しませて頂戴(ちょうだい)


「……その息を我に与えよ! ──『爆炎(フィアンマ)』!」


 レアットが怒りに身を委ねた剣閃(けんせん)態々(わざわざ)紙一重(かみひとえ)(かわ)したルオラが顔を赤らめた吐息と腰くねらす歓喜の(よろこ)び。


 続けざまを狙った爆炎の魔導士アズールの爆炎呪文(フィアンマ)。なれどこれはシグノが吐いた炎の息(ブレス)相殺(そうさい)する。


「……いかなるモノも通さぬ強固な壁を我に与えよ! ──『白い月の護り手(フェルメザ)』」


 申し合わせた訳ではないのだがアズールに続き、詠唱を重ね時間を(ちぢ)めたミリア。

 (防御)(攻撃)に転じさせ、シグノの白鳥の(ごと)き翼を狙い、命(きら)めく白い手刀を振るう。されど、これも難なく避けられた。


 ──いかん! まるで連携がなっちゃいない!


 レアットの一閃(いっせん)から連続したアズールとミリアの魔道。いずれも綺麗に繋がった様に誰もが思える攻勢。いや、むしろ余分に()()()()()と心で独り舌打つアギド。


 詠唱術の弱点を(おぎな)うため連携を絶やす事なく続けるのは基本中の基本。

 賢士(けんし)ルオラを相手取った争い、これは初回ではない。そもそも敵とて味方が居れば同様の動きをするのが必然なのだ。


 悩める()()()()()のアギド。

 何しろルオラがひとたび攻勢に転じれば()()の術式が想像容易(たやす)い。

 本音の処、未知数であるレアットの爆発力に勝手な期待を(いだ)いていた。


 ──ふぅ……やっぱり活きの好い子供相手は燃えるわ。特に灰色の()! 是が非でも私の()()にしたい。それから黒い翼の鳥族(ハーピー)も捨てがたいわね。


 この()に及んで()()()()()()余念(よねん)がないルオラの視線。流石己が女神(エディウス)()()と成す女。


 魔法仕込みの無手を扱い襲撃してきたミリアと、鳥人間(ハーピー族)にしとくのが惜しい赤と青の瞳(オッドアイズ)のルチエノへ、()()わせる視線──(くま)なく流す悦楽(えつらく)に酔いしれひと呼吸すら惜しんで飲んだ。

 己を成した天性の美学がさらなる()()()を探究し尽くしたく彷徨(さまよ)うが故、生娘ばかりを追い求めるのか。


「例の音使い(リンネ)が居ないのも好都合──ん……? こ、これは!?」


 そんな罪深いルオラの視界を邪魔する白く深い影。

 突拍子(とっぴょうし)ない濃霧(のうむ)が敵味方構わず周囲を(さえぎ)り始めた。

 不意の転機(天気)に不快感をきたすルオラの苛立(いらだ)ち。シグノの羽ばたきを用い吹き飛ばすのを試みるも晴れた(そば)から再び曇りゆく。


 攻め込んだ側は誰の仕業(しわざ)か自ずと知れた。

 誰も魔法を使ってなどいないのだ。山間部の目まぐるしき天候変化を大気の(チート)使い手が呼び込んだ。


 ◇◇


 たった一騎の飛竜(ワイバーン)を用いディオルを強奪(ごうだつ)した戦之女神(エディウス神)軍の(おとり)を自らに課したシアン・ノイン・ロッソの瞠目(どうもく)


 敵の頭領──白銀の女神(エディウス神)は見当たらぬディオルの街側から瞳(きら)めかせ子供達を襲う地獄を見やる底辺。


「──白い神竜(シグノ)があんな場所に潜んで? 私達は敵に()められた!?」


 敵地を見下ろす村が無人──なんの気兼(きが)ねもなく此処(この村)占拠(せんきょ)した上で遠距離魔法中心に依る攻勢を仕掛ける手筈だった暗黒神(ヴァイロ)側のアテが外れた。


 ディオルの街並みには絶つ事が(むな)しいと思える僧兵や司祭級ばかり。何よりこの街に元来住まう人々が居るのだ。下手に手を出せばシアンが逆賊(ぎゃくぞく)呼ばわりされかねない。


 ──ならば!


 騎乗している飛竜(ワイバーン)共々身を(ひるがえ)し、対ルオラ戦へ向かおうとした矢先。


 これ迄知らぬ殺気に(くい)を打たれたシアン。自分の動きを止めるべく故意にぶつけた殺意。自分が背負わねばならぬ違う覚悟に腹を(くく)った。


「戦の天秤(てんびん)シアン・ノイン・ロッソ! 我は戦之女神(エディウス神)が最高司祭グラリトオーレ・ガエリオである! 貴女程の秀才が無知な王族の口車に耳を(かたむ)けるとは!」


 叩き起こされた寝巻(寝起き)から外で堂々着替えた純白の司祭服。服装だけで推察(すいさつ)する愚昧(ぐまい)なる者ならば駆け出しの司祭と見紛(みまが)う可能性。


 然し相反する存在感を引き出す太腿(ふともも)から黒ストッキングを吊るす(あやう)いガーダーベルト。

 そして何より術不要で相手を縛れる背から(あふ)れ出す無尽蔵(むじんぞう)気配(オーラ)

 十字を切った杖の先──宝玉から解き放たれる刃なき光で成した長槍を握り絞め、地上からシアンを指した(刺した)(みなぎ)る闘志。

 

 ──グラリトオーレ……出来る! アレはただの司祭ではない!


 数々の戦を潜り抜けた者ならば決して無視出来ぬ存在感を感じ取ったシアン。司祭の最上級と向き合わねば己が先に消される狂気(きょうき)──否応(いやおう)なしに気づかされた。


 ヴァサッ……。


 シアン、緊張の面持ち(くず)さず飛竜(ワイバーン)(またが)る制空権をかなぐり捨て、地上と()れ違うギリギリまで降下した。


 悠々(ゆうゆう)夜空を舞う(おろ)かを続けようものなら、最高司祭の握りし光束(こうそく)の槍がシアン自身を軽く蹴散(けち)らし、子供達が潜む山間部すら(つらぬ)誇大(こだい)(さば)きの葬送(想像)を抱かせたのだ。


 ──然しレイシャ(修道騎士)の次は女性の最高司祭(グラリトオーレ)……何とも()()()()()()か。


 またしても我ながら馬鹿を思う(呪う)シアン──天賦(てんぶ)の才が魂揺さぶらずに要られなかった。自らも鍔の付いた異形な手槍を引き抜き構える。


「グラリトオーレ殿、司祭でありながら随分と仰々(ぎょうぎょう)しい得物(ぶき)をお持ちだ」


 低空とは云えど未だ飛竜(ワイバーン)(またが)り、(わず)かばかりの優勢(高さ)を以て手槍で()()()煽りを欠かさぬシアンの舌戦(ぜつせん)


 ズサッ……。


「馬鹿にしないで貰いたいもの……槍の扱いなら我等司祭は僧兵の(はる)か上を()かねば大恥を()くのです」


 杖を槍に転じた異形を構えたグラリトオーレ、シアンの指摘に小耳すら貸さぬ殺意を返した。両脚を大きく広げ、地上を()う様相──馬上槍(ランス)扱う騎士さえ制した。


「成程……大変失礼した。最高司祭殿、これは楽しめそうだ」


 レイシャと幾度(いくど)も剣を交えたシアン──若輩(じゃくはい)ならではの圧力とはまるで異なる()()放つ相手に思わず心震えた。

 挿絵(By みてみん)

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