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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第6章 それぞれの御旗を掲げて『ᚱᚨᛁᛉᛖ ᚦᛖ ᛒᚨᚾᚾᛖᚱ』
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第56話 羨望と絶望 <ᛖᚾᚢᛁ × ᛞᛖᛊᛈᛟᛁᚱ>

 森の都ラファンの中心街ディオル──。

 今宵(こよい)は月明りが望めぬ新月。普段よりも静まり返った(とら)われの街並み。


 ウォォォォォォォン……!

 カンカンカンカンカンッ……!


「て、敵襲ぅぅッ!」


 狼狽(うろた)えたエディウス側の僧兵──。

 見張り小屋からけたたましい叫びと警報(アラーム)()き鳴らす。山林を切り拓いたこの街にも()()が供給されてた事実を照らし出した。


 バッ!

 照明が一斉に(とも)大胆不敵(だいたんふてき)な敵の影を映し出す。


「ば、馬鹿なッ!?」


 最高司祭グラリトオーレ・ガエリオ。

 寝巻きから司祭の装束(しょうぞく)へ着替える間すら惜しみ、宿舎扱いしていた町長の家から外へ飛び出す凛々(りり)しき所作(しょさ)


 前日の昼間、賢士(けんし)ルオラへ報告したフォルデノ王族の(おろ)かな(たくら)み。よもや日付が1日だけ変わった夜。星が(またた)く間に現実と化した。


 然も見える敵は(わず)か一騎──。

 暗黒神軍、総大将ヴァイロ・カノン・アルベェリアの次に(ひか)える最強の傭兵(ようへい)シアン・ノイン・ロッソが駆る飛竜(ワイバーン)


 紫色(にじ)んだ飛竜(ワイバーン)──騎乗しているシアンの色艶(気迫)が反映されたかの(ごと)艶やかさ(パーソナルカラー)に染まる。


 追い(すが)ろうと回る警告灯を振り切りながらディオルの上空を旋回(せんかい)し続け『寄らば燃やす』云わんばかりな火吹き(火炎の息)を散らした。


 ──(いく)ら戦の天秤(てんびん)とはいえ飛竜(ワイバーン)単騎で攻め込むとは? 偵察(ていさつ)か、(ある)いは陽動(ようどう)


「見張り役は一体何を(ほう)けていたの!? いきなり敵が現れた訳ではあるまい?」


 姿こそ寝起きだが最高司祭の品格(あふ)れたグラリトオーレの立ち振る舞い。戦之女神(エディウス神)様の御前(ごぜん)でアタフタしていた女性とは別人の声を(うな)らす。


「そ、それが……まるで幻が実体化したかの様に」


 すっかり(おび)えた(のど)を震わす見張りの兵達。我ながら意味の通らない発言だと知った上の愚行(ぐこう)(さら)した。


「ば、馬鹿な事を……?」


 顔を()せたまま戯言(たわごと)を吐いた僧兵。この場で刑罰を執行(しっこう)されそうな恐れをみせる。

 部下を指摘しながら天を仰いだ最高司祭──ある事に気づいた。


 ──厚い雲? 私が寝る前こんなに(よど)んでいたかしら?


 実際の処までは思い出せぬグラリトオーレの苛立(いらだ)ち。

 自分の脚元で(おび)え歯の根が合わない部下の無能加減を認めるしかないと思えた。


 シアンの駆る飛竜(ワイバーン)、あの曇に自らを潜伏(せんぷく)させる奇術(マジック)が如き不意を突いた進撃を果たした──他に思考が及ばなかった。


「エディウス様の尖兵(せんぺい)がこれしきのことで狼狽(うろた)えるなッ! 他にも潜んでいるに違いない! (くま)なく探せぇ!」


 長い黒髪が取り巻き乱れたグラリトオーレ。女性とは思えぬ(えぐ)一喝(いっかつ)。男が過半(かはん)を占める底辺なる僧兵達のどよめきを声音(こわね)ひとつで統率(とうそつ)した。


 ──既に居るのか……()()に?


 喧騒(けんそう)最中(さなか)──黒い視界の頂き(頂点)()()()()()()()手を(くだ)()した例の(あわ)れな村跡を思わず見上げる。


 そして同時──昼時にフラリとまるで散歩の様に此処へ姿をみせた一番弟子ルオラ。

 決してただの気紛(きまぐ)れでなかったと思い知るグラリトオーレの戦慄(鳥肌)を呼んだ。


 ◇◇


 数刻前──。

 シアン・ノイン・ロッソが駆る飛竜(ワイバーン)先頭(皮切り)に10騎の飛竜と若輩(じゃくはい)だが一騎当千(いっきとうせん)なる者達が厚くもたれた雲の中へ飛び出した出陣。


 亡き夫ノインが残した異能──。

 身体能力や平衡感覚を極限まで引き出すシアンが飛竜で雲海の中、渦巻(うずま)く風を斬り裂く。境界線の力がシアンの竜を紫色に燃やす生きた篝火(かがりび)と化した。


 背後に数珠(じゅず)繋ぎで(つら)なるアギド達は、シアンと飛竜(ワイバーン)が生み出す空気の波に乗るだけで勝手に引かれた。


「この雲──あのレアットが全部これを?」


 蛮勇(ばんゆう)レアット・アルベェラータは大気の使い手だと事前に聞かされていたシアンだが、ほぼ快晴の夜空に分厚い雲海を呼んだレアットの異能に舌を巻く思いだ。


 然も当のレアットは、たった一騎。()()にて自身が飛行する方へ逆転の嵐を巻き、単騎で悠々(ゆうゆう)空で(あざけ)を浮かべた。


「速い速過ぎッ! 誰か止めてくんろぉぉッ!」


 レアットの背中に(すが)るは彼の同郷出身者で姓が偶然重なった回復役(ヒーラー)、エターナ・アルベェラータだ。


 ()くして先導こそシアン任せとはいえ、レアットが召喚した()()()()()の中を飛行した彼等(彼女等)。こうして奇術(マジック)(こな)した次第。


 後はシアンが単騎、ディオルの街並みの上空を猛禽類(もうきんるい)が如く旋回(せんかい)すれば目指すディオルの街並みが上から狙える村へ(すき)を突いた着陸を果たした。


「──なんて薄気味悪(うすきみわる)い村だ」


 戦之女神(エディウス神)軍がディオル制圧前、見せしめとして消した村。されど消した割に建物類がすべからく綺麗に残っていたのだ。


 なれど人の気配は全く以て感じられない。これがアギドに『薄気味悪い』と言わしめた結実。


「レアット……これは一体?」

「聞くな、知らねぇんだよ俺様も……。俺が帰って来たらこうだった。死体処か牛馬(家畜)一頭、(ちり)ひとつ残っちゃいねぇ」


 この村出身のレアットへアギド()()が疑問を投げるも苦虫を()(つぶ)した顔だけ返すに留まるレアットの難色。


 ミリアやアズール、コボルト族の長カネランやハーピー族のルチエノとて困り顔。故郷を失ったレアットの哀しみは余りあるが、それ以上に異端な有り様だと思えた。


 ガツンッ!


「もぅいいだろ……。ホレッ、下の街が敵の居るディオルだ。こんだけ楽で最高(晴れ)の舞台、他に在り得ねえだろうが……」


 巨大な(なまくら)二刀を村の地面へ突き立てたレアットの言い(よど)み。


 ──親父……帰って来たぜ。アンタの()()に最ッ高の(はな)を添えて()()からよ。


 ヴァサッヴァサッ……!


「──ッ!?」

「翼の音!? まさか!」


 敵地ディオルを見下ろす最高の配置。然も遠距離攻撃を得意とした魔導士(よう)する遊撃部隊。然もご丁寧(ていねい)に身を隠せる無傷の家が在る地図には未だ残りうる村。


 遠距離も近距離も自在なレアットや防御魔法を肉体強化へ転じた超近接格闘を得たミリアなど、最早敗北の要素が見当たらないと高括(たかくく)りした若者達を絶望へ叩き落とす白い羽根。


「うふふ……可愛い子供が()り取りみどり……残さず私が()()()()()


 白い神竜──自分達の駆る蜥蜴(トカゲ)に翼を生やした竜の出来損ないとまるで異なる()()()。白鳥の如き翼から決して鳥に(あら)ずな巨大過ぎる羽根を散らした。


 神竜シグノに乗り手ぐすねを引き、待ち受けていた攻撃特化の奇跡を扱う賢士(けんし)最上級(マスタークラス)。ルオラ・ロッギオネ・ルマンドが最上の笑みを子供達(獲物達)()()()()

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