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幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第6章 それぞれの御旗を掲げて『ᚱᚨᛁᛉᛖ ᚦᛖ ᛒᚨᚾᚾᛖᚱ』
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第60話 冷徹なるᛝ自由の枷ᛝ =ᚠᛖᛏᛏᛖᚱ≄

 森の都ラファンの中心地ディオルの奪還(だっかん)作戦にてディオル側にシアン・ノイン・ロッソは、自分と空飛ぶ騎馬──飛竜(ワイバーン)単騎(たんき)を以て潜入を果たす。

 これに対し戦之女神(エディウス神)軍もたった独りの最高司祭グラリトオーレ・ガエリオと、蒼き光を(たば)ねた槍を得物にした存在を充てた。


 戦の天秤(てんびん)シアンは亡き夫ノインから受け継いだ境界線の異能を扱いグラリトオーレを圧倒。勝敗は決したかにみえた。


 然しグラリトオーレは己が()()した女神──エディウスを自らの(カラダ)降臨(こうりん)させた。シアン自身、戦之女神(エディウス神)1対1(サシ)で争うのはこれが初。


 何よりこのシアンが恐れを抱いている最大級の理由それは──他人であるグラリトオーレに自己の意識を落とし込めた白銀の女神(エディウス)の真実。

 以前暗黒神ヴァイロ・カノン・アルベェリアが推察(すいさつ)した『エディウスとは人に(あら)ず。そんなエディウス(偽りの人間)の影を依り代(よりしろ)錬成(れんせい)した白い神竜(シグノ)も同様』推論(すいろん)が正論にすり替わった帰結をそこにみた。


 グラリトオーレは如何(いか)にも外連味(けれんみ)帯びた、血と自分の(カラダ)媒介(ばいかい)にしたエディウス()()()()召喚(しょうかん)を果たしたかに見受けられる。


 ──がっ、これこそ偽りの可能性が大なり。恐らくエディウスの意識は、依り代になる事さえ望めば誰でも()()()。神聖じみた御業(みわざ)は見せ掛けに過ぎぬ可能性が非常に高いのだ。


 ◇◇


 一方、戦之女神(エディウス神)軍もう独りの(女傑)賢士(けんし)ルオラ・ロッギオネ・ルマンドを相手取る暗黒神(ヴァイロ)の弟子アギド達とカノンの義勇兵(ぎゆうへい)レアット・アルベェラータ等。


 大気使いレアットが繰り出した深い霧に身を隠して争う一見優位な展開。なれどその実、薄氷(はくひょう)を踏む思いを抱えた状況の中、闘争(とうそう)を繰り広げていた。


 賢士(けんし)の最上位ルオラの術──賢士(けんし)の扱う奇跡の御業(みわざ)は術者当人の心の在り様を元手にするものと、被術者(掛けた相手)の心に(たん)を発する術に分かれる。


 特に後者は酷く惨悽(さんたん)を極める。

 例えばルオラとの初戦に於いて自分達の(師匠)ヴァイロが秘めた不安を無理矢理引き出す阿鼻叫喚(あびきょうかん)()ちた『心澱の誘い(クオレ・ルタム)


 ルオラは現状自らの心の片隅(かたすみ)()(いばら)を刃に変えた『心之剣(クオレスパーダ)』や、人間の言葉は(とき)として刃に成り得る『言之刃(フォグラマ)』だけに留まっている。


 されど一度(ひとたび)相手の心に宿(やど)る罪の形を引き合いにする術式に切り替えたが最後。最悪ただの()()()()を以て(むくろ)に届き果てるのだ。


 悪い事柄(ことがら)は重なりゆくもの。

 音使いリンネは地元カノンの護りを抜けておらず不在。ルオラに取って()()と云うべきリンネの異能がひとつ『音の波(オンダ・ソノラ)』は彼女の術を全て無効化出来るのだ。


 従って(いく)ら奇声上げたレアットが大気に依るひと押しを借用した超巨大な鈍二刀(なまくらにとう)を振るったり、防御魔法を攻撃に転化したミリア・アルベェリアが拳を用いた処でルオラ当人は涼しい顔をしていられた。


 ──全く腹立たしい相手だ。ルオラの嗤い(能面)を先ず(くず)さねば何も始まらん!


 この闘争に於ける()()()なる指令官アギドの蒼き瞳から(あせ)りが消えぬのはそうした理由だ。


 唯一(ゆいいつ)与えた攻勢、ミリアが白い神竜(シグノ)の片翼を叩き落とした事。

 飛べなくなったシグノだが血塗(ちまみ)れになりながらも、神匂わす竜の火炎を吐き続ける脅威(きょうい)()()()()と化した。


 アギド等が連れた()()()()()的な飛竜(ワイバーン)では太刀打ちなど到底出来ぬ。

 境界線(ノイン)安定(バランス)を扱えるシアンだけが弱体なる飛竜(ワイバーン)でも相手出来るのだ。


「おぃ、アンタッ! ()()()()じゃないんなら下の奴(グラリトオーレ)と変われッ!」


 独り戦場の()()を一切飲まない異端な()()の使い手レアットが戦之女神(エディウス神)すら上手く言えずキレる(逆ギレ)

 彼が望む()()の相手はあくまで総大将エディウスのみ。ディオル側を護る最高司祭にその総大将が乗り移った今。不利も優位すらガン無視した雄叫(おたけ)びをルオラにぶつけた。


「あら、あらあらぁ? 随分(ずいぶん)と私も嫌われたものねぇ。そんなに()()()()がお望みぃ?」


 白い霧中からキレた台詞を吐かれたルオラ超安定の笑顔交えた返答。

 ()レアットさえ所詮(しょせん)16歳の少年扱い出来る大人女性のゆとり。冷静な舌戦(ぜつせん)を使い常に優位を(たも)とうとするシアンとは一味違う口達者ぶりだ。


「こんなやたら()()()()()()した女の相手なんかしてられっかよォォッ!」


 神の御使(みつか)いとは到底思えぬ破廉恥(ハレンチ)極めたルオラの服装をなじるレアット。

 徹底して空気を読まないレアットの重鈍(じゅうどん)なる一閃(いっせん)が霧中から現れルオラを襲うも、地上を歩む巨大な白くて主人に従順(じゅうじゅん)な盾に転じたシグノが邪魔した。


「……」


 冷や汗垂らしながらも独り戦局を推し(はか)るアギド。

 冷静さを必死に取り(つくろ)う。こうしたどちらへ()()(かたむ)いているのか判断し辛い戦いこそ先に()()を出した方が負けるのだ。


 実際ルオラは戦局を図る局面に於いてシアンに(おと)っていた。深い霧の最中、敵の攻撃がやたらと届く不自然に気づくべき状況。逆説──これぞアギド側の生命線だと云えた。


暗黒神(ヴァイロ)の名に於いて命ず! 火蜥蜴(サラマンダー)よ、その身を()がせ! ──『(ロペラ)』!」


 此処で誰もが()()()()()()()()の詠唱がやはり濃霧の中から響いた。


 爆炎をこよなく愛するアズールの(ロペラ)

 但し普段と異なる術の変遷(へんせん)。深い霧を()いた矮小(わいしょう)だが続けた発破(はっぱ)が直線を描きルオラを強襲。まるで機関銃を立て続けに撃った赤の軌跡。


 ──一々煩(いちいちうるさ)いのよあの子の(爆炎)


 ルオラ、またもや己の神竜(シグノ)を前面に押し出しこれを防ぐ。


 然し自分へ近寄る音に少し苛立(いらだ)ちを感じた。

 さらにこの攻撃も寸分(すんぶん)(たが)わず自分を狙い()ました一撃。例え()()()(ごと)き扱いであろうとも、いい加減注意(アラート)を向けるべきであった。


 なれどレアットが自然に(考えなしに)仕掛けた深い霧にルオラが囲まれて以来、誰がこの戦局から消え失せたか脳裏へ回せたかと云えばこれは難題(なんだい)かも知れなかった。


 ()()()()()黒い翼が背中に在り、夜空から戦局を俯瞰(ふかん)で見られる美しき亜人族(ハーピー)、ルチエノの存在(オッドアイズ)を。


 さらにもう独りの亜人族(デミヒューマン)──。

 ()()()()()より明らかに鼻の利く犬族(コボルト)。人族でも女子供ですらない者は、濃霧が掛かる以前──ルオラの興味枠から完璧に外れていたのだ。


 夜空からの()()、地上に潜む臭気(しゅうき)()()。実の処、子供(だま)しも(はなは)だしき落とし穴。己の力を過信しないシアンであれば決して()()はしなかった。


 そして今度こそ最後の()()()──。

 白い()()が出現した途端(とたん)、その身を完全に(くら)ました危険過ぎる少女。ルオラと等しくエディウス()敬愛(けいあい)していた裏切り者の司祭エターナ・アルベェラータ。


 愛くるしい女性が()()()のルオラが()()(つか)めぬ天性の()()。同じ司祭グラリトオーレの様な槍の扱いなぞ全く知らない()()()

 されど暗黒神(ヴァイロ)()()()しか知らぬアギド達に取って唯一の切り札(回復役)Joker(奥の手)は最後まで切らぬのだ。


「ペソ・クアンティア、暗黒神(ヴァイロ)の名の元に、全ての物の拘束(こうそく)具現化(ぐげんか)せよ──『枷の鎖(グラビティア)』」


 アギド少年──アズールが造った爆音(連撃)間隙(かんげき)()隠蔽(いんぺい)の詠唱。

 重量を増幅した様に感じさせるアギド独自の呪文(オリジナルスペル)。元来、己が扱う武器(エストック)の軽さを(おぎな)うべく自らを被術者(ひじゅつしゃ)にする。

 

 この呪文(スペル)をこの中で最も不要に思える()()()()()()()を扱う者に敢えて()()()

 蒼い仕掛(Trap)が徐々にルオラの自由自適(じゆうじてき)な笑みを浸食(しんしょく)し始めた。

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