十五話 魅了の娘と過去の因縁
「チッ、話が違い過ぎる」
そう舌打ちをしながら一人の女子生徒が校舎裏から走って逃げる。
彼女は聖マルタ学園の生徒では無い。何なら学生ですらなくこの国の人間ですらない。
「アンジェリーナは失敗だった、なら次はあのマリアという女を……」
「おっと、どこに行くのかなお嬢さん」
彼女の前に二つの長身が立ち塞がる。
どちらも美男子だが眼鏡をかけていた。
「あんた達は……」
「へえ……俺たちのこともちゃんと知っていてくれてたんだ?」
そう嫌味っぽく笑う男子生徒は校内でも有名人だった。
常に女生徒に囲まれている軟派男、何より鉄薔薇女帝ゴリアテッサの義弟。
「カイン・アイアンローズね……」
「そうだよ僕は、あのゴリアテッサの唯一無二の弟さ」
女好きのする笑顔を浮かべながらもカインからは隠しきれない敵意と怒気発していた。
「そうだ、こいつはただの義弟だ」
「ハハッ、ただの教師が何か言ってる」
刺々しい会話をカインと交わした男。
それは最近イメージチェンジをしたと有名なジューダスという教師だった。
「校長の様子がおかしいと思い泳がせていたら、まんまと魅了の術にかかっていたとはね」
「彼にはペナルティとして義姉さんの最前出待ちを三ヶ月禁止しましょう」
「そんなことより……隣国の王子妃候補だった娘が、何故こんな場所で悪さをしようと思ったんだ?」
教師の言葉に自分の正体が完全に看破されていることを知る。
女生徒は二人を睨みつけた。
「確か義姉さんに半壊させられた国のチャーム・ミツギー男爵令嬢だったかな。ここに愛しの馬鹿王子はいないよ?」
「うるさいわね、そんなこと知ってるわよ!」
「ならばなぜ男子生徒やついでに校長を操ってアンジェリーナを学園から追放しようとした?」
ジューダスの言葉にチャームの瞳は揺らぐ。
その理由自体には納得していないからだ。
「それは……あの女への復讐よ」
「復讐?」
「ゴリアテッサがあの女に目をかけているのは有名な話だわ、なら略奪して隣国まで連れ去ってやろうと思ったのよ!」
「へえ……それは最初から君の計画?」
不思議そうにカインが言う。
チャームは質問の意味が分からず混乱した。
「何でそんな質問をするのよ」
「もし王子が考えたなら、奴は誑し込んで自分の戦力にする為にアンジェリーナを指定したのだろうな」
「たらし、こむ……?」
「追放されて傷ついたアンジェリーナを慰めて溺愛し、追放した者に復讐する……と見せかけてゴリアテッサ嬢と戦わせるつもりだろう」
「成程、復讐する為の名目と道具として彼女を狙ったんだね」
良かった、無条件で彼女が義姉さんの一番だと対外的に思われて無くて。
そんなカインの下らない言葉よりもチャームはジューダスの言葉に囚われていた。
「もし、それが本当ならどうして殿下は私にそう言ってくれなかったの……?」
「言ったら協力しないからだろう」
「どうせ君も誑し込まれた口だろう?その魅了の力を利用する為に」
カインの言葉にチャームは目を大きく見開く。
「違う、違うわ、私は、私だけは真実の愛だって……」
「君は俺の妹を次の標的にしようとしていたが、それは王子から指示されていたか?」
「え?いいえ……」
「別にゴリアテッサ嬢が気にかけているのはアンジェリーナだけではない、なのに彼女だけ指名したなら矢張りそういう意味だろう」
「そうだよ、別にあの娘が義姉さんの一番という訳では断じてないからね!!」
「君だって、その魅了の力が目当てで口説かれたのだろう……隣国で婚約破棄された令嬢は異能持ちではなかったようだからな」
「魔神呼び出してたのに!?」
そうカインがジューダスに突っ込む。
答えを告げたのはチャームだった。
「そうよ、あの女が魔神を呼び出せるなんて私も王子も気づかなかった、だからずっとあの人は悔しがって婚約破棄を後悔して……」
だから私は、捨てられたくなくて王子の命令を聞いたの。
そうポツリとチャームが言う。
「まあ作戦が成功しても失敗しても君は隣国が半壊した責任を負わされて捨てられ、最悪の場合家族も巻き添えで処刑されるだろうな」
このまま帰国すればだが。そう容赦なくジューダスが言う。
その傍らでカインが溜息を吐いた。
「あーあ、馬鹿な王子殿だ。よりにもよって義姉さんが一番嫌うことを二つもしちゃうなんて」
「彼女が嫌う事?」
「そう、一つは自分の物が奪われること……そしてもう一つは」
弱者を食い物にする弱者の存在だよ。
カインの呟きを鉄戦車の走轟音が掻き消した。




