十四話 聖なる拳の目覚め
その頃、アンジェリーナは校舎裏に呼び出されていた。
彼女を囲うように数十人の生徒が立っている。殆どが男子生徒だった。
何なら校長もいた。
「あの……私に何か御用ですか?」
不思議そうにアンジェリーナが聞く。
代表格の男子生徒がペンを突きつけながら口を開いた。
「特待生アンジェリーナ、金なら幾らでもやる……いますぐこの学園を去りたまえ」
「は?」
意味の分からないことを言われアンジェリーナはポカンとした。
胸中には驚き以外に僅かな不快感も生じている。
「別にお金になんて困っていませんけど」
確かに大勢の生徒達と違いアンジェリーナの実家は裕福では無い。
平民の中でも質素な暮らしをしている方だろう。
けれどアンジェリーナは自らの暮しを貧しいと思ったことはない。
パン屋の両親はいつでもお腹いっぱい食べさせてくれた。
だからアンジェリーナは飢えを気にせず好きなだけ鍛錬に打ち込めたのだ。
「でも流石に聖マルタ学園に自費で通える程の余裕はないだろう?」
もう一人の男子生徒が手帳を取り出してそう告げた。
この二人、見覚えがある。ついでに校長にもだ。
(いえ……二人だけでなく、この場の男子生徒全員)
アンジェリーナはキッと視線を鋭くした。
小柄で可憐な少女だが気迫は相当なものだ。
男子生徒二人は肩をビクリと竦ませる。
しかしそれを恥じるように頬を赤らめ唇を噛んだ。
「く、悔しい……ゴリアテッサ様の覇気以外でこの身が震えるなんて」
「平民の分際で、そのような覇気を纏うなんて分不相応だと思わないのかい?」
「覇気を纏うことに身分なんて関係ありません、誰もが纏う権利がある筈です」
真っ直ぐな目をしてアンジェリーナは言う。
男子生徒達は明らかに怯んだ。
「ゴリアテッサ様が求めるのは拳を交える強者、それだけだわ」
「クッ……」
「高みにいる彼女には私も貴方達も同じ格下に過ぎない」
今は、まだ。
そう少しの悔しさをアンジェリーナは胸の内に封じた。
「それは私よりも長くあの方の側にいた貴方達の方が知っている筈……生徒会書記長!」
「……僕のことを知っていたのか」
「知っていたも何も」
驚いている相手にアンジェリーナは少し呆れる。
聖マルタ学園の生徒会の構成員は凡そ百人。
生徒会長一人に副会長が二名。
そして書記、会計、庶務にそれぞれ数十人が割り当てられていた。
「貴方は会計長ですよね」
「……フッ、その通りだよ」
手帳をパタンと閉じながら男子生徒は言った。
「そしてゴリアテッサ様の美男子ハーレムの一員でもあった」
「逆ハーレムの方が正しいぞ」
「いやどうでもいいです」
二人の会話にアンジェリーナは冷めた目で突っ込む。
同時にだから見覚えがあるのかと納得した。
この場にいる男子生徒達は全員生徒会の一員であり美男子ハーレムのメンバー。
(だから校長先生以外は全員美少年だったのね……)
バリエーション豊かな大量の美形生徒達。
けれどアンジェリーナの心はピクリとも震えなかった。
「なのに」
「君たちが来てから」
「ゴリアテッサ様は」
「俺たち」
「僕たち」
「私たちを」
「生徒会室で愛でてくれることが」
「無くなってしまったんだ!」
そう男子生徒達が口々に言う。
卒業式の別れの言葉みたいだなとアンジェリーナは思った。
そういえばと思い出す。
ゴリアテッサの義弟カインが少し前に言っていた。
以前のゴリアテッサは美少年を集めて退屈しのぎに芸などさせていたと。
「でも見かける度つまらなそうだったな……今は違うみたいだけどね」
その言葉と少し悔しそうな笑顔。
でも彼はこのようにアンジェリーナを追い出そうとしなかった。
そのわけをアンジェリーナは理解している。
「だから貴方たちはゴリアテッサ様から私と言う楽しみを奪うんですか?」
「なっ、寵愛気取りも大概にしたまえ!」
「そんなもの気取りません」
書記長の怒りの言葉をアンジェリーナはさらりと流す。
「私が欲しいのは庇護でも寵愛でも無い……孤独な彼女のお強敵だちになることです」
その上で出来れば唯一無二の存在になりたい。
強すぎる欲に内心苦笑いしながらアンジェリーナは構える。
「私を追い出したいなら、何よりゴリアテッサ様を楽しませたいのなら私を倒して見てください」
でなければ彼女を退屈から救うことなんてできませんから。
可憐な顔に強者の笑みを浮かべアンジェリーナが言う。
「貴方たちもゴリアテッサ様に選ばれたなら、そちらの芸も出来るのでしょう?」
挑発する言葉に書記長がペンを、そして会計長が手帳を構える。
その後ろに控えた男子生徒達もそれぞれの獲物を構えた。
「一斉にで大丈夫ですよ、それぐらい出来ないと私も自分に満足できませんし」
「フッ、面白い女だ……しかし」
「その油断を保健室で後悔することだね!!」
獰猛な笑みを整った顔に浮かべアンジェリーナと生徒会役員たちは拳をぶつけ合う。
お互い想う相手は同じ、それゆえにぶつかることは必至。
(それでも、私たちはわかりあえる筈……!!)
アンジェリーナの拳がいつしか僅かな光を放ち始める。
それが聖拳が覚醒した瞬間だと気づいた者はその場にいなかった。




