十二話 悪役令嬢と二人の攻略対象
ゴリアテッサ・アイアンローズは廊下を一人歩いていた。
当然他の生徒や教員たちは彼女の為に道を空ける。
しかし鋼鉄の薔薇を目撃し歓声を上げようとした者たちはゴリアテッサの様子が尋常では無い事に気付いた。
いや、以前に戻ったというのが近いだろうか。
昔のゴリアテッサはその拳と権力を振るい学園に独裁を敷いていた。
今も表向きは変わらない。
しかし目的も無いまま鬱屈を巨体に溜め込んでいた当時とは違う。
今の生徒会長様は、強さだけでなく包容力も感じる。
それが今の生徒達大部分の感想だった。
けれど今日のゴリアテッサは再び鬱屈をその胸に燻らせている。
本来のヒロイン、アンジェリーナ。
彼女がこの学園から追放される。
そのことにゴリアテッサは苛立ち、そして苛立っていることに戸惑いを覚えていた。
彼女の権力と暴力を用いれば退学の企てを阻止するのは容易い。
しかし何故そこまでしてやらなければいけないのか。
アンジェリーナを花や猫のように愛でるだけの存在と思えば庇護に迷いはない。
けれど、その程度を自らで解決できない拳など真にゴリアテッサが求めているものなのか。
徒に甘やかせば心も拳も弱るだけだ。
そう仮面の下で煩悶するゴリアテッサの前に一人の学生服姿の剣士が立ち塞がる。
「そうだ、貴様は弱くなったゴリアテッサ・」
道を塞いだ銀髪の男子生徒は唐突に告げた。しかし次の瞬間その姿は消えていた。当然の事である。
代わりにその床に大きな穴が開いている。階下から生徒達の悲鳴が聞こえた。
「もう、シックルったらいわんこっちゃない」
中性的なアルトが騒乱の中で涼やかに響く。
土煙の向こうに小柄な影が見え隠れしていた。
やがて金の髪が柔らかそうな美少年が微笑みと共に現れる。
「……ゴルド・ワード第二王子」
「ゴルドだけで構わないですよ、ゴリアテッサおねえさま」
そう少女のような顔に愛らしい笑顔を浮かべゴルドは言う。
彼は聖拳に散る薔薇のメイン攻略対象の一人だった。
ゴルド・ワード。
女顔の美少年らしく乙女ゲーム内での彼の役割は囚われの姫だ。
権力と高みと美しさを求めるゴリアテッサは彼を国を牛耳る為の手段、そしてトロフィーとして手に入れようとする。
何故第一王子では無いのかというと、第一王子ロスト・ワードはゴリアテッサに暴言を吐き既に消されたからだ。
(まあ世界のどこかで生きてはいるだろうが……)
そうゴリアテッサは設定と己の過去の両方を思い出しながら元婚約者の弟を見つめた。
愛らしくはある。しかし伴侶にしたいとは微塵も思わない。
原作では彼を悪役令嬢であるゴリアテッサの支配から救う為アンジェリーナが戦いを挑むのが正史扱いだ。
結果ゴリアテッサが敗北し、墜落死する。
けれどそのメインストーリーは。
(サイドのカインやジューダスの半分ほどのシナリオボリュームで大不評だったな……)
聖拳に散る薔薇のメイン攻略対象は四人。
その中でもパッケージでセンターを張っていたキャラは二人。
しかしカインやジューダスのシナリオに注力し過ぎた為かその二人のシナリオはほぼ水レベルの薄味。
結果その節はレビューでめっちゃ叩かれたのであった。
一人はゴルド・ワード、そしてもう一人は。
「ゴルド様に近づくな、稀代の悪役令嬢め!」
「貴様が我に近づくな」
背後から剣で斬りかかって来る男子生徒にゴリアテッサは振り向きもしない。
右腕を軽く後ろに振るう。その風圧だけで男はふっ飛ばされ壁に激突した。
「うわっ」
「キャアッ!」
廊下にいた生徒たちがその光景に悲鳴を上げる。
中には風圧の余波でモヒカンが乱れ悲鳴を上げるチンピラもいた。
壁には男を中心にヒビが入っている。
しかし男は制服こそボロボロだったがほぼ無傷だった。
「ふん……噛ませ犬だけあって耐久だけはそこそこある」
「誰が噛ませ犬だっ!」
元気に青年剣士が吠える。
彼こそがもう一人のセンター。シックル・セイワン。
ゴルドの護衛剣士で聖拳に散る薔薇の攻略対象の一人。
そして女主人公であるアンジェリーナに対しとことん塩対応なことで有名な男だった。
―――――――
登場人物紹介
ゴルド・ワード
人気乙女ゲー「聖拳に散る薔薇」の攻略対象の一人。少女のような愛らしさで有名な第二王子です。
王子にしては気さくな性格で平民特待生である貴女のことも気にかけ色々アドバイスをしてくれます。
しかし彼とトクベツな関係になるには大変な障害があって……?
シックル・セイワン
人気乙女ゲー「聖拳に散る薔薇」の攻略対象の一人。銀の髪が凛々しいゴルドの護衛騎士です。
忠誠心の強い彼は平民の貴女とゴルド王子が仲良くなることを望みません。
平民女と貴女を呼び常に厳しい視線と言葉をかけてくる彼ですが、めげないで話しかけ続けると……?




