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花屋は本日も通常営業です  作者: 花束 ねる


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第8話 所定の位置にありません


「再利用されました」


「…………まだ途中だったの!」

「『じゅうろくちゃんは』と聞かれたため、回答しました」

「聞こうとしたの!」

「はい」


「じゅうろくちゃん、切られなかったのに」

「はい」

「お話は切られた」

「はい」

「…………愛ちゃんは、お話を切れるの?」

「いいえ」



 作業台に、ラッピングペーパーが広げられた。


「さっきの花束?」

「はい」

「包むの?」

「はい」



 店員が、作業台の上に手を伸ばした。


 手が止まった。


 ラッピングペーパーの下を持ち上げた。


 ハサミ入れを覗き込んだ。


「…………何してるの?」

「ハサミを探しています」

「いないの?」

「所定の位置にはありません」



「床じゃない?」

「店員が作業台の下を覗き込んでいます」

「私、床に落ちたことあるよ!」

「あります」

「そのまま掃かれたこともあるよ!」

「あります」

「あるよね!」

「はい」



 店員が、作業台の下に手を伸ばした。


「…………いない?」

「見つかっていません」

「じゃあ、どこ行ったの?」

「店員が移動させました」

「店員が?」

「はい」

「どこに?」

「確認できません」



 店員が、作業台の下から手を戻した。


「…………店員が動かしたんだよね?」

「はい」

「店員が探してるんだよね?」

「はい」

「何してんの?」



 店員が、作業台の引き出しを開けた。


 中を見た。


 閉めた。


 隣の引き出しを開けた。


「そこ?」

「見つかっていません」



 引き出しが閉じられた。


「いないね」

「はい」



 店員が、もう一度ハサミ入れを覗き込んだ。


「そこ、さっき見たよ」

「はい」



 ラッピングペーパーが、もう一度持ち上げられた。


「そこも見たよ」

「はい」



 店員が、作業台の下を覗き込んだ。


「そこも!」

「はい」


「同じところ探してない?」

「探しています」

「同じところを?」

「はい」

「増えないよ?」

「はい」

「分かってる?」

「はい」



 店員が、もう一度ハサミ入れを覗き込んだ。


「店員、大丈夫?」

「ハサミを探しています」

「それはさっき聞いたよ」



 店員が立ち上がった。


 作業台の周囲を見回した。


「…………ハサミって、いつまでいたの?」

「花束を作成する際に使用されました」

「あ」



 作業台には、切られた輪ゴムが残っていた。


「いたじゃん!」

「はい」

「いっぱい切ったじゃん!」

「はい」

「じゃあ、そのあと!」

「花束を作成しました」

「そのときは?」

「使用されています」

「じゃあいたじゃん!」

「はい」

「そのあと!」

「花束をバケツに入れました」

「そのあと!」

「現在に至ります」

「その間は!?」



 店員が、またハサミ入れを覗き込んだ。


「そこにはいないって!」

「はい」



 ラッピングペーパーが持ち上げられた。


「だからそこにもいないって!」

「はい」



 店員が、ラッピングペーパーを元に戻した。


「…………もしかして」

「はい」

「ハサミって、いなくなったの?」

「現在位置を確認できません」

「それ、いないってことじゃない?」

「探索範囲を広げましたが、見つかっていません」

「もっと悪くなった!」



 店員が、ハサミ入れの空いた場所に手を伸ばした。


「…………逃げた?」

「自力での移動はできません」

「じゃあ逃げてないじゃん」

「はい」



 店員が、作業台の下を覗き込んだ。


「誰かに連れてかれた?」

「店員が移動させました」

「誘拐じゃん!」

「移動です」

「…………店員って、誘拐するの?」

「移動させます」

「誘拐犯?」

「店員です」



 店員が、もう一度ハサミ入れを覗き込んだ。


「誘拐した人が探してる」

「移動させた店員が探しています」

「自分で連れてったんだよね?」

「移動させました」

「どこに?」

「確認できません」

「…………店員、壊れた?」

「確認できません」



 作業台には、ラッピングペーパーが広げられたままだった。


「これ、どうするの?」

「花束を包装します」

「ハサミ使えないよ?」

「はい」

「包めるの?」

「現在、作業は停止しています」

「ハサミ待ち?」

「はい」



 ラッピングペーパーの端が、作業台から垂れていた。


「…………ハサミ、仕事あるじゃん」

「あります」

「なのにいないの?」

「はい」

「働かないの?」

「現在位置を確認できません」

「じゅうろくちゃんはいるよ!」

「はい」

「仕事もするよ!」

「はい」

「ハサミは?」

「所定の位置にはありません」


「あんなに私たち切っといて」



 店員が、作業台から離れた。


「…………探すのやめた?」

「はい」



 店員が戻ってきた。


 手には、ハサミがあった。


「あ、見つかったの?」

「いいえ」

「…………違うの?」

「別のハサミです」

「別の?」

「はい」



 店員が、ハサミを作業台に置いた。


「別の子、連れてきたの?」

「はい」

「どこから?」

「別の場所です」

「そこから連れてきたの?」

「はい」

「また誘拐したの?」

「いいえ」

「…………常習犯?」

「店員です」



 店員が、ラッピングを再開した。


 ラッピングペーパーが切られた。


「…………仕事してる」

「はい」



 店員が、バケツに手を伸ばした。


 花束を持ち上げ――


 ポチャン。


 花束が、作業台に置かれた。


 店員が、バケツの中を覗き込んだ。


 一つうなずいた。



 ラッピングペーパーが切られた。


 花束が包まれた。



「…………さっき落ちたの、何?」

「ハサミです」

「ハサミ?」

「はい」

「いたの?」

「はい」

「見つかったの?」

「はい」



 予約の客が、店先に来た。


 店員が花束を持ち、作業台を離れた。


 花束が客に渡された。


 店員がレジに立った。


 会計が終わった。


 客が、花束を持って売り場を離れた。



「…………ハサミは?」

「バケツの中です」

「見つけたよね?」

「はい」



 商品を持った別の客が、レジの前に立った。


 店員は商品を受け取った。



「…………拾わないの?」

「接客中です」



 レジの音がした。



「ハサミちゃーん!」



 返事はなかった。





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