第7話 輪ゴムにも実績があります
作業台の上には、上面を大きく開けた輪ゴムの箱が置かれていた。
「今日もいっぱい束ねるよ!」
「本日の使用予定は、仏花、カジュアルフラワー、花束等です」
「私、働き者だからね!」
「使用頻度は高いです」
「働き者って言って」
「使用頻度は高いです」
「そこ大事なんだけどなあ」
店員が箱から輪ゴムを取り出した。
輪ゴムで花を束ねた。
「ほら、仕事!」
「はい」
「こうやって花を束ねるのが、私の仕事だからね!」
「はい」
「今日もいっぱい働くよ!」
作業台には、別の輪ゴムが入った袋も置かれていた。
「あれは?」
「#260の輪ゴムです」
「しゃーぷにひゃくろくじゅう?」
「はい」
「…………どこまで名前?」
「#260です」
「全部?」
「規格名です」
「じゃあ私は?」
「#16です」
「しゃーぷじゅうろく?」
「はい」
「…………長いね」
「#16です」
「じゅうろくちゃんでいい?」
「呼称は任意です」
「じゃあ、じゅうろくちゃん!」
店員が#260の輪ゴムに手を伸ばした。
その手が、隣の#16の箱に当たった。
箱が傾いた。
バサーッ。
輪ゴムが床に落ち、あちこちに散らばった。
「じゅうろくちゃあああん!!」
店員が床にしゃがんだ。
目につく輪ゴムを拾い、箱に戻した。
葉の上や茎の間に見えている輪ゴムも拾った。
散らばった輪ゴムの大半が箱に戻された。
「じゅうろくちゃん、戻ってきた!」
床は、葉と切った茎で覆われていた。
その間にも、輪ゴムが残っていた。
店員が、ほうきとちりとりを持ってきた。
「…………待って」
店員が床の葉と茎を掃いた。
「待って待って待って!」
残っていた輪ゴムも、葉と一緒にちりとりへ入った。
店員はちりとりの中から、見えている輪ゴムを何本か取り出した。
葉を少し動かし、さらに輪ゴムを拾った。
「じゅうろくちゃん!」
残った葉と茎が捨てられた。
「…………全部?」
「確認できる輪ゴムは回収されました」
「確認できないじゅうろくちゃんは?」
「確認できません」
「いるかもしれないじゃん!」
「確認できません」
「探してよ!」
店員がほうきとちりとりを片づけた。
「終わった!?」
「清掃は終了しました」
「救助は!?」
「終了しました」
「清掃じゃなくて救助だから!」
店員が作業台へ戻った。
#16の箱から輪ゴムを取り出した。
「あ、仕事!」
輪ゴムで花を束ねた。
「そう! これ!」
「使用されています」
「束ねるのが私の仕事だからね!」
「はい」
「伸ばされるのも仕事!」
「はい」
「いっぱい使われるのも仕事!」
「はい」
「でも、掃かれるのは仕事じゃない!」
「はい」
「捨てられるのも仕事じゃない!」
「はい」
「ちゃんと分かってるじゃん!」
店員が、輪ゴムで束ねられた花を手に取った。
輪ゴムを外そうと引くと、束ねた茎が締まった。
輪ゴムにハサミを入れた。
プツン。
「…………え?」
「輪ゴムを外しました」
「外してないよね?」
「切断して外しました」
「切ったよね!?」
「はい」
「なんで!?」
「花を一本ずつに分けるためです」
「外せばいいじゃん!」
「外すことで傷む可能性があります」
「私が?」
「いいえ」
「…………花が?」
「はい」
「だから私を切るの!?」
「はい」
「私が傷むじゃん!!」
「はい」
「はいじゃない!」
店員が、別の輪ゴムを外した。
「…………あ」
外した輪ゴムが作業台に置かれた。
「外せるじゃん!」
「はい」
「今のじゅうろくちゃん、切ってないよね!?」
「はい」
「私もそれがいい!」
「状態によります」
「何その差!」
店員が次の輪ゴムを外した。
「また外した!」
「はい」
「私も全部それがいい!」
店員が#16の箱から輪ゴムを取り出した。
「あ、また仕事!」
輪ゴムで花が束ねられた。
店員がもう一本取り出した。
「…………あれ?」
「はい」
「じゅうろくちゃん、少なくなってない?」
「在庫は減少しています」
「…………かなり?」
「次回の備品入荷は三日後です」
「三日?」
「はい」
「…………三日かあ」
箱の中には、輪ゴムが少し残っていた。
店員が伝票を作業台に置いた。
「何?」
「花束の予約が入りました」
「花束?」
「はい」
店員が、束ねてあったカジュアルフラワーを何束か作業台に集めた。
「これ使うの?」
「中の花を花束に使用します」
「あ、じゃあ仕事――」
店員がハサミを手に取った。
チョキ、プツン。
チョキ、プツン。
チョキ、プツン。
「…………え?」
束ねられていた花が、作業台の上に広がった。
さらに数束が集められた。
「待って」
チョキ、プツン。
チョキ、プツン。
チョキ、プツン。
「待って待って待って!」
切られた輪ゴムが、作業台の上に残った。
最後の一束から、輪ゴムが外された。
「あ」
外された輪ゴムが作業台に置かれた。
「…………切らなかった」
「はい」
店員が、集めた花を花束にまとめた。
外した輪ゴムを手に取った。
「あ」
花束の茎に輪ゴムがかけられた。
「…………仕事?」
「はい」
花束がバケツに入れられた。
チャプン。
作業台には、切られた輪ゴムが何本も残っていた。
「愛ちゃん」
「はい」
「他のじゅうろくちゃんは?」
「切断されました」
「…………全部?」
「いいえ」
「…………私だけ?」
「はい」
「じゃあ、じゃあ……じゅうろくちゃんは――――――」




