第6話 ガーベラには価値があります
2025年7月。
記録的な暑さが続いていた。
店員が、ピンクのガーベラが入ったバケツを運び込んだ。
バケツを置くと、その場を離れた。
「本日の入荷です」
ピンクのガーベラが周囲を見た。
「今日の仕事、何?」
「花束、アレンジメント、カジュアルフラワー、ミニブーケ等に使用します」
「いっぱいあるね」
「はい」
「私、何でもできる?」
「用途は広いです」
「かわいいから?」
「用途が広いためです」
「でも、かわいい?」
「その判断は行いません」
「私はかわいい♡」
しばらくして。
「本日は、ガーベラの使用を優先します」
「私から?」
「はい」
「かわいいから?」
「夏季の品質管理です」
「品質管理?」
「ガーベラの状態を、できるだけ良く保つためです」
「私をかわいくする?」
「状態を保ちます」
「かわいいまま?」
「その表現であれば、おおむね合っています」
「じゃあ私から使うの?」
「はい」
開店後。
店員がガーベラの入ったバケツを持ち上げた。
冷房の風が直接当たらない位置へ移動し、その場を離れた。
「ここにいるの?」
「はい」
「どうして?」
「冷房の風が強く当たっていたためです」
「冷たい風、駄目?」
「強い風が直接当たる環境には注意が必要です」
「…………?」
「冷房の風が強く当たり続けないようにします」
「ここならいい?」
「はい」
「ここなら、かわいくいられる?」
「状態は保ちやすくなります」
「じゃあ、ここ♡」
昼前。
店員が一本のガーベラを取り出した。
「あ、仕事」
ガーベラを使い、カジュアルフラワーを作った。
輪ゴムで束ね、セロハンをかけて売場へ並べた。
店員はその場を離れた。
「どう?」
「商品として問題ありません」
「じゃあ完璧♡」
「いいえ」
「え?」
「ラップ後は、蒸れや過度な締め付けにも注意が必要です」
「…………?」
「暑くなりすぎたり、強く締めすぎたりしないようにします」
「ぎゅってするの、駄目?」
「強すぎる場合は、はい」
「優しくぎゅってする?」
「必要な範囲で束ねます」
「他は?」
「水下がり、腐敗、カビ、花弁の乾燥等にも注意が必要です」
「いっぱいあるね」
「はい」
「私、難しい?」
「管理には注意が必要です」
「じゃあ、お願い♡」
返答はなかった。
午後。
店員がカジュアルフラワーの状態を確認した。
ラップの中を確認し、置く位置を少し変えた。
店員はその場を離れた。
「また見たね」
「はい」
「私のこと、気になる?」
「商品の状態を確認しています」
「…………?」
「悪くなっていないか見ています」
「私、悪くなるの?」
「環境や状態によっては、その可能性があります」
「じゃあ見ててね」
「確認は行います」
「いっぱい見てね♡」
返答はなかった。
翌朝。
店員がカジュアルフラワーの状態を確認した。
花を確認した。
茎を確認した。
ラップの中を確認すると、その場を離れた。
「今日も見たね」
「はい」
「昨日も見たね」
「はい」
「私、人気者だね♡」
「品質管理です」
「私をかわいいままにするやつ?」
「おおむね合っています」
「私、天才♡」
夕方。
店員が再びカジュアルフラワーの状態を確認した。
ガーベラの花弁を確認した。
「また私?」
「はい」
「人気者♡」
店員はカジュアルフラワーを売場から下げ、その場を離れた。
「あれ?」
売場には戻されなかった。
「花弁に乾燥が見られます」
「乾燥?」
「はい」
「細くなった?」
「はい」
「丸い私のほうがかわいかった?」
「そのような変化も含まれます」
「…………?」
「前より、花の形が変わっています」
「丸くない?」
「はい」
「戻る?」
「いいえ」
「じゃあ、このまま?」
「さらに変わります」
「もっと変わる?」
「はい」
「かわいくは?」
「なりません」
店員がセロハンを外した。
状態を確認し、束を組み直すと、その場を離れた。
「何してるの?」
「販売方法を変更します」
「どうして?」
「一本あたりの商品価値が低下しているためです」
「…………?」
「一本だけでは、前より価値が低くなっています」
「私?」
「はい」
「低くなった?」
「はい」
ガーベラはしばらく考えた。
「背?」
「それも低くなっています」
「じゃあ合ってる?」
「商品価値の話です」
「かわいくないから?」
「商品状態が低下しているためです」
ガーベラはもう一度考えた。
「…………私、足りない?」
「一本では不足します」
「どうするの?」
「本数を増やして販売します」
「私、増えるの?」
「はい」
店員がガーベラを増やし、束を整えた。
セロハンをかけ、値札POPを付けた。
売場へ戻すと、その場を離れた。
「増えた」
「はい」
「いっぱいになったね」
「はい」
「これで売るの?」
「はい」
「足りた?」
「はい」
「じゃあ、私たちいっぱい必要なんだ♡」
増えたガーベラの横には、昨日と同じ価格の値札POPが貼られていた。
――ガーベラには、価値がありました。




