第5話 仕入れる価値があります
水曜日。
店員がバラの入ったバケツを運び込んだ。
バケツを置くと、そのまま売場へ戻っていった。
「本日の入荷です」
愛さんが告げた。
「本日は、バラ80本です」
ガーベラがバケツを見た。
「…………80人? 多くない?」
「閑散期としては多い入荷数です」
「やっぱり多いんだ」
「はい」
「なんでそんなに来たの?」
「今回の仕入条件では、数量を増やすことで単価が基準を大幅に下回りました」
「…………つまり、たくさん買うと安かったってこと?」
「はい」
バラが言った。
「俺たちが?」
「はい」
「……そうか」
店員がバラを取り出した。
使用予定のバラは、まず花束とアレンジメントに使われ、続いてカジュアルフラワー、ミニブーケにも入った。
作業を終えると、その場を離れた。
ガーベラが聞いた。
「今日、バラの仕事多くない?」
「30本程度は使用予定があります」
バラが聞いた。
「じゃあ、残りは?」
「50本程度は現時点で未定です」
ガーベラがバケツを見た。
「50人も?」
「はい」
「なんで連れてきたの?」
「今回の仕入条件によるものです」
「そこに戻るんだ」
「はい」
バラが言った。
「……まあ、仕事ならいい」
「残りも順次、商品に使用します」
「何に?」
「在庫状況および品質を考慮し、商品構成を調整します」
「品質?」
「はい」
ガーベラが聞いた。
「商品構成って?」
「必要に応じて追加します」
「80人呼んだから?」
「はい」
昼前。
売場に、バラを使った商品が増えていた。
ガーベラが売場を見た。
「これ、朝なかったよね?」
「はい」
「今日できたの?」
「はい」
「80人呼んだから?」
「はい」
ガーベラがバラを見た。
「仕事できたね」
「そうだな」
「おすすめ品です」
バラが聞いた。
「…………おすすめ品?」
「はい」
「…………まあ、おすすめならいい」
夕方。
売場には、まだバラが残っていた。
店員がガーベラを取り出した。
「あ、仕事」
ガーベラはカジュアルフラワーに入った。
木曜日。
昨日のバラが、まだ残っていた。
店員が売場の商品を確認した。
いくつかの商品を作り直し、バラの使用本数を増やした。
作業を終えると、その場を離れた。
「商品構成を変更しました」
バラが聞いた。
「…………何に?」
「バラの使用本数を増やしました」
「…………増やした?」
「はい」
「お買い得品です」
「………………お買い得品?」
「はい」
「………………」
しばらくして、店員が残っているバラを一本ずつ確認した。
何本かを分け、確認を終えると、その場を離れた。
「…………愛さん」
「はい」
「何か変わったのか?」
「開花が進んでいます」
「咲いたんだろ」
「はい」
「いいことじゃないのか?」
「切り花の商品管理上、開花状態は販売判断に影響します」
「………………」
午後。
店員がバラを確認し、値札POPを差し替えた。
確認を終えると、その場を離れた。
「お勤め品として販売します」
バラが聞いた。
「………………お勤め品?」
「はい」
「………………いくらだ」
「通常価格より20%引きです」
「……………………20%引き?」
「はい」
「……………………そうか」
金曜日。
店員が残ったバラを確認した。
値札POPを、もう一度差し替えた。
確認を終えると、その場を離れた。
「お値下げ品として販売します」
バラが聞いた。
「……………………まだ下がるのか」
「はい」
「……………………いくらだ」
「半額です」
「………………………………半額?」
「はい」
しばらくして、店員が新しい花の入ったバケツを運び込んだ。
バケツを置くと、その場を離れた。
新しく入荷したガーベラが、残っているバラを見た。
「なんか元気ないね」
水曜日入荷のバラが言った。
「………………………………別に」
「そう?」
「そうだ」
「何かあったの?」
「………………………………聞くな」
続いて、店員が新しいバラの入ったバケツを運び込んだ。
バケツを置くと、その場を離れた。
「本日の入荷です」
愛さんが告げた。
「バラです」
水曜日入荷のバラが、新しく入荷したバラを見た。
「……………………………………」
ガーベラがバケツを見た。
「バラ来たよ」
水曜日入荷のバラが言った。
「……………………………………見れば分かる」
「同じバラだね」
「分かってる」
「新しいね」
「……………………………………見れば分かる」
店員が、半額になったバラを売場から抜いた。
作業場へ運び、置いた。
そのまま売場へ戻っていった。
「ドライフラワーとして使用します」
水曜日入荷のバラが反応した。
「……………………………………ドライフラワー?」
「はい」
バラは、店内に吊られているドライフラワーを見た。
「……………………………………俺も?」
「はい」
ガーベラが聞いた。
「仕事なんだよね?」
「はい」
ガーベラがバラを見た。
「よかったね」
「……………………………………そうだな」
「乾燥後、状態を確認します」
水曜日入荷のバラが反応した。
「まだ何かあるのか」
「はい」
「何が」
「商品として使用可能か判断します」
「使えなかったら?」
「廃棄対象です」
「…………………………………………まだ下があるのか」
ガーベラが聞いた。
「でも、こんなに残って大丈夫なの?」
「はい」
「半額になってるよ?」
「はい」
「ドライになってるよ?」
「はい」
「それでも?」
「問題ありません」
水曜日入荷のバラが言った。
「…………問題ない?」
「はい」
「俺たち、80人来たんだぞ」
「はい」
「必要だったのは?」
「30本程度です」
「予備を含めたら?」
「40本程度です」
「…………じゃあ、残り40人は?」
「必要数を上回る仕入れです」
「…………必要じゃなかった?」
「はい」
「…………じゃあ、なんで連れてきたんだ」
「80本を仕入れた場合、損失を含めても利益となる可能性がありました」
「……………………俺たち、安くするために増えたのか」
「結果として、必要数を上回る仕入れになりました」
「…………半額になるのも?」
「想定範囲内です」
「…………ドライになるのも?」
「想定範囲内です」
水曜日入荷のバラから、花びらが一枚落ちた。
「…………俺たちが………………………………売れなくても?」
「問題ありません」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
落ちた花びらは、縁から乾き始めていた。
――仕入れる価値は、ありました。




