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第57話 お墓参り⑤ 幽霊にも特技がありました



 墓地案内所長。


 源蔵によって、キクに新しい役職が与えられた。


 もちろん、給料は出ない。


 そもそも、墓地案内所という建物すら存在しない。


「ところで、わしは何をするんじゃったかのう」

「案内係だ! さっき任命しただろう!」

「そうじゃったか」

「もう忘れたのかい!」


 美津代が呆れた。


「所長はキクで、案内係がもきっちゃんだねえ」


 なつが確認した。


「そうだ! これで墓地案内所の体制は万全だ!」

「……建物は」

「ない!」

「……給料は」

「ない!」

「……おう」


 キクは、それ以上聞くのをやめた。


 少し離れた墓石のそばに、富美子が浮かんでいた。


 目の前には、小さな女の子がしゃがみ込んでいる。


 両膝を抱え、顔を伏せて泣いていた。


「こんにちは。今日もいいお天気ねえ」


 女の子は答えなかった。


 富美子は、いつものように女の子に話しかけていた。


 何を話しかけても、返事はない。


 それでも、毎日ここへ来ていた。


 富美子の耳に、賑やかな声が届いた。


「案内係は何をするんじゃ?」

「墓地を案内するんだ!」

「誰をじゃ?」

「新しく来た者だ!」

「それなら、いつもやっとるのう」

「だから正式に任命したんだ!」

「給料は出るんか?」

「出ん!」

「それは残念じゃのう」


 美津代がため息をついた。


「さっきも同じ話をしてただろう!」


 なつが笑った。


 富美子も、つられて小さく笑った。


 四人が集まって、ああでもない、こうでもないと騒いでいる。


 なんだか、生きていた頃の町内会を思い出した。


 誰かが勝手に役職を決め、誰かが文句を言い、最後にはみんなで笑っていた。


 お祭りの準備も、踊りの練習も、いつもそんな調子だった。


「あら、懐かしいわねえ」


 富美子は、目の前の女の子を見た。


「そうだわ。おばあちゃん、昔は踊りが好きだったのよ」


 女の子は顔を伏せたままだった。


「久しぶりに踊ってみようかしら」


 富美子は両手をゆっくりと広げた。


 昔、町内会で習ったフラダンスを思い出す。


 右へ、左へ。


 波を描くように腕を動かした。


 そのとき。


 ふわりと、首に何かが触れた。


「あら?」


 花のレイだった。


 いつの間にか、腰にも鮮やかな布が巻かれている。


 ♪ ズンチャ、ズンチャチャ。


 ♪ ズンチャ、ズンチャチャ。


 どこからともなく音楽が流れ始めた。


「……おう?」


 キクが声を漏らした。


「何だい、この音は?」


 美津代が辺りを見回した。


「おい! 富美子の格好を見ろ!」


 源蔵が叫んだ。


 四人が一斉に振り返った。


「ちょっと、富美子! 何だい、その格好は!」

「あら?」


 富美子は自分の衣装を見下ろした。


「あらあら。いつの間に着替えたのかしら」

「自分でもわからないのかい!」

「ええ。不思議ねえ」


 なつが耳を澄ませた。


「あれ? ふうちゃんのお墓から聞こえるねえ」

「……墓から?」

「そうだよ。ふうちゃんのお墓だよ」

「あら、私のお墓から?」


 富美子も不思議そうに振り返った。


 ♪ ズンチャ、ズンチャチャ。


 ♪ ズンチャ、ズンチャチャ。


「……どうなってる」

「わしにもわからんのう」


 茂吉が首をかしげた。


 源蔵は腕を組んだ。


「ふむ。幽霊とは不思議なものだな!」

「あんただって幽霊だろう!」


 美津代が叫んだ。


 富美子は少し考えた。


「でも、せっかくだから踊りましょうか」

「踊るのかい!?」


 富美子はゆっくりと両手を広げた。


 右へ、左へ。


 波を描くように腕を揺らし、腰を動かす。


 墓石の間で、フラダンスが始まった。


 ♪ ズンチャ、ズンチャチャ。


 ♪ ズンチャ、ズンチャチャ。


 すると、女の子が顔を上げた。


 泣き声が止まっている。


 女の子は、踊る富美子をじっと見つめていた。


「あら?」


 富美子が気づいた。


「見てくれてるのねえ」


 女の子は答えなかった。


 ただ、じっと見ている。


「……泣きやんだな」

「そうだねえ」


 なつが小さく笑った。


 富美子は嬉しそうに両手を広げた。


「じゃあ、もう少し踊ってみましょうか」


 しばらく踊ったあと、富美子は手を下ろした。


 ピタッ。


 音楽も止まった。


「あら、止まるのねえ」

「……踊ると鳴るのか」

「そうみたいねえ」


 富美子は少し考えた。


「そうだわ。違う踊りも見せてあげましょうか」


 次の瞬間。


 花のレイと腰の布が消えた。


 代わりに、富美子の服がビビッドピンクのミニスカートに変わった。


 両手には、大きなポンポンが握られている。


「あら?」


 富美子は自分の格好を見下ろした。


「あらあら。ずいぶん派手になったわねえ」


「ちょっと、富美子!」


 美津代が目を丸くした。


「何だい、その短いスカートは!」

「あら、ちょっと恥ずかしいわねえ」

「年を考えな、年を!」

「そうねえ。もう少し長い方がいいかしら」

「そういう問題じゃないよ!」


 富美子は両手を見た。


「あら、ポンポンまであるわ」


「それもだよ! どこにしまってたんだい?」

「あら、私にもわからないのよ」

「わからないって、どういうことだい?」

「踊ろうと思ったら、勝手に出てきたの」

「勝手に!?」

「ええ。不思議ねえ」

「不思議ねえ、じゃないよ!」


 そのとき、富美子のお墓から軽快な音楽が流れ始めた。


 曲は、1982年にヒットした『Mickey』。


「あら、懐かしいわねえ。娘が小さい頃、一緒に踊ったのよ」


 富美子は嬉しそうに笑った。


「じゃあ、せっかくだから踊りましょうか」


 両手のポンポンを高く掲げる。


「がんばれー! がんばれー!」


 富美子はリズムに合わせて腕を振り上げた。


 右へ、左へ。


 ビビッドピンクのミニスカートを揺らしながら、軽やかに踊る。


「ちょっと恥ずかしいわねえ」


 そう言いながらも、動きはどんどん大きくなっていった。


「全然恥ずかしがってないじゃないか!」


 美津代が叫んだ。


 墓地の真ん中で、富美子のチアダンスが始まった。


 源蔵は目を丸くしていた。


「……衣装も音楽も勝手に出るのか」

「そうみたいねえ」


 なつも驚いた様子で見つめている。


「ふうちゃん、そんな特技があったんだねえ」

「あら、私も今日初めて知ったのよ」


 しばらく踊ったあと、富美子は両手を下ろした。


 音楽が止まり、ピンクの衣装とポンポンも消えた。


「あら、元に戻ったわねえ」


 富美子は少し考えた。


「じゃあ、もっと応援してみようかしら」


 今度は、富美子の額に白いハチマキが巻かれた。


 服装も黒い学ランに変わっている。


「ちょっと待ちな!」


 美津代が叫んだ。


「今度は学ランかい!」

「あら、似合うかしら」

「似合う似合わないの問題じゃないよ!」


 ♪ ドン! ドン! ドドン!


 富美子のお墓から勇ましい太鼓の音が響いた。


「フレー! フレー!」


 富美子は両腕を大きく振り上げた。


「フレー! フレー!」


 源蔵が目を輝かせた。


「おお! 応援団か!」

「ええ。元気が出るでしょう?」

「よし! 俺もやるぞ!」


 源蔵が富美子の隣に浮かんだ。


「フレー! フレー!」


 その瞬間。


 パッ。


 源蔵の服も黒い学ランに変わった。


 額には白いハチマキ。


 胸元には派手な応援団の紋章までついている。


「おおっ!」


 源蔵が自分の服を見下ろした。


「俺にも出たぞ!」

「ちょっと、源蔵! あんたまで何やってんだい!」

「見ろ! 俺にも能力があったんだ!」

「あら、源ちゃんもお揃いねえ」


 富美子は嬉しそうに笑った。


「さあ、一緒に応援しましょう」

「おう!」


 ♪ ドン! ドン! ドドン!


「フレー! フレー!」

「フレー! フレー!」


 源蔵はますます張り切った。


「誰を応援してるんだい!」

「全員だ!」


 美津代が頭を抱えた。


 やがて、富美子が両手を下ろした。


 ピタッ。


 音楽が止まった。


 同時に、富美子と源蔵の学ランも消えた。


「……おお?」


 源蔵が自分の服を見下ろした。


「消えたぞ!」

「あら、本当ねえ」

「どういうことだ!」

「ふうちゃんが踊るのをやめたからじゃないかねえ」


 なつが首をかしげた。


「……巻き込まれたのか」


 キクがつぶやいた。


「何だと!?」

「……ふうちゃんの能力だ」

「俺の能力ではないのか!?」

「……おう」


 源蔵はしばらく考えた。


「……もう一度やってみるぞ!」


 両腕を大きく振り上げる。


「フレー! フレー!」


 何も起きなかった。


「……おかしいな」


 美津代が吹き出した。


「だから、あんたの能力じゃないんだよ!」


 富美子は不思議そうに笑った。


「あらあら。私、源ちゃんの服まで着替えさせちゃったのかしら」


 茂吉が自分の服を見下ろした。


「わしもできるかのう」


 両手を上げる。


「フレー! フレー!」


 何も起きなかった。


「……出んのう」

「だから、富美子の能力だって言ってるだろう!」


 美津代が叫んだ。


 女の子は、富美子をじっと見ていた。


 泣いてはいない。


 笑ってもいない。


 ただ、ひたすら見ている。


「あら、ずっと見てくれてるのねえ」


 富美子は嬉しそうに笑った。


「じゃあ、あっちの子にも見せてあげましょうか」


 富美子はふよふよと男の子に近づいた。


 男の子は墓石の間をぐるぐる歩き回っている。


「こんにちは。今日は賑やかにしてみたのよ」


 返事はなかった。


「それじゃあ、これならどうかしら」


 富美子の両手にマラカスが現れた。


「あら、今度はマラカスねえ」


 富美子のお墓から『おもちゃのチャチャチャ』が流れ始めた。


「あら、懐かしいわねえ」


 ♪ チャチャチャ!


 富美子はマラカスを振りながら、楽しそうに歌い始めた。


 シャカシャカ。


 シャカシャカ。


 富美子は軽やかに腰を動かした。


 男の子は歩き続けている。


 富美子の横を通り過ぎ、墓石を回り、また戻ってくる。


「あら、今日も忙しいのねえ」


 シャカシャカ。


 富美子は男の子に合わせて身体の向きを変えた。


 男の子が右へ行けば右へ。


 左へ行けば左へ。


 やがて、富美子はマラカスを振りながら別の墓石へ移動した。


 すると、男の子もついてきた。


 ただし、富美子の周りをぐるぐる歩きながらだった。


「あら?」


 富美子が振り返った。


「ついてきてるわねえ」


 男の子は返事をせず、富美子の周りを歩き続けた。


 そのとき、富美子は自分の後ろに小さな女の子がいることに気づいた。


 さっきまで墓石のそばにしゃがみ込んでいた女の子だった。


 泣いてはいない。


 ただ、富美子をじっと見上げている。


「あら、あなたも来てくれたのねえ」


 女の子は答えなかった。


 富美子が移動すると、女の子も少し遅れてついてきた。


 富美子は嬉しそうに笑った。


「じゃあ、みんなであっちにも行ってみましょうか」


 今度は、二十代くらいの青年のところへ向かった。


 青年は墓石のそばに立ち、何かをぶつぶつつぶやいている。


「こんにちは。今日はお祭りみたいにしてみましょうか」


 富美子の手からマラカスが消えた。


 代わりに、花笠が現れた。


「あら、今度は花笠ねえ」


 富美子は自分の手元を見つめた。


 富美子のお墓から『花笠音頭』が流れ始めた。


「懐かしいわねえ。昔、踊ったことがあるのよ」


 富美子は花笠を手に、軽やかに踊り始めた。


 笠を上げ、身体をひねり、足を運ぶ。


 そのとき。


 女の子の服が、色鮮やかな浴衣に変わった。


 頭には、小さな花笠が載っている。


 男の子も法被姿になり、額には鉢巻きが巻かれた。


「あら?」


 富美子が目を丸くした。


「あらあら。二人とも、お祭りの格好になったわねえ」


 女の子は、富美子をじっと見つめている。


 男の子は、法被姿のまま富美子の周りをぐるぐる歩き続けた。


 富美子は嬉しそうに笑った。


「みんなでお祭りねえ」


 富美子は花笠を掲げ、踊り続けた。


 青年は相変わらず、ぶつぶつと何かをつぶやいていた。


 富美子は踊りを終えた。


 音楽が止まった。


 同時に、女の子の浴衣も、男の子の法被も消えた。


「あら、戻っちゃったわねえ」


 富美子が皆のところへ戻ろうとした。


 女の子が、その後ろをついてきた。


 男の子も、富美子の周りをぐるぐる歩きながら移動している。


 富美子が振り返った。


「あら、あなたたちも一緒に来るのねえ」


 そのとき。


「ちょっと、富美子! もう一人いるよ!」


 美津代の声が聞こえた。


 富美子が振り返ると、いつの間にか青年もついてきていた。


 ぶつぶつと何かをつぶやいている。


「あらあら」


 富美子は三人を見渡した。


「賑やかになったわねえ」


 富美子がキクのいる墓石の近くへ戻ると、三人もついてきた。


 キクは、富美子の手元を見た。


「……それ、全部出せるのか」

「何が?」

「……踊りの道具だ」

「あら、どうなのかしら。踊ろうと思うと、勝手に出てくるのよねえ」

「……おう」


 美津代が腕を組んだ。


「じゃあ、扇子は?」

「扇子?」


 富美子は扇子を持って踊るところを思い浮かべた。


 パッ。


 手に扇子が現れた。


「あら、出たわねえ」

「本当に出たよ!」


「じゃあ、鈴は?」

「鈴ねえ」


 リンリン。


 今度は両手に鈴が現れた。


「あら、これも出るのねえ」

「何なんだい、その能力は!」


「リボンはどうだ?」

「リボン?」


 富美子は長いリボンを振る姿を思い浮かべた。


 すると、手から色鮮やかなリボンが伸びた。


「あらあら、すごいわねえ」


 富美子は自分の手元を眺め、感心している。


「自分の能力だろう!」

「そうなのよねえ。不思議だわ」


「……おう」


 キクは、もはや驚くのをやめた。


 源蔵が腕を組んだ。


「ふむ。なかなか便利な能力だな!」

「便利で済む問題なのかい、これ」


 美津代が呆れたように言った。


「何でも出せるんだろう?」


 富美子は首をかしげた。


「あら、何でも出せるのかしら」


 茂吉が首をかしげた。


「わしも何か出せるんかのう」

「試してみろ!」


 茂吉は両手を前に出した。


 しばらく待った。


 何も起きなかった。


「……出んのう」

「何を出そうとしたんだ?」

「何じゃったかのう」

「忘れるな!」


 美津代が吹き出した。


 富美子は楽しそうに笑っている。


「あら、もきっちゃんも踊ってみる?」

「何をじゃ?」

「何でもいいのよ」

「そうかのう」


 茂吉は少し考えた。


「……何をするんじゃったかのう」

「踊るんだ!」


 源蔵が叫んだ。


 富美子が、ふと昔のお祭りを思い出した。


「あら、そういえば、こんな踊りもあったわねえ」


 富美子が両手を広げると、祭りの衣装に変わった。


「また変わったよ!」


 美津代が叫んだ。


「あら、本当ねえ」


 ♪ ドンドン、ドンドン。


 ♪ ドン、ドン、ドン!


 富美子のお墓から『村祭』が流れ始めた。


「あら、お祭りねえ」


 富美子が踊り始めた。


 ♪ ドンドン、ドンドン。


 ♪ ドン、ドン、ドン!


 その瞬間。


 墓地にいた幽霊たちの衣装が、一斉に変わった。


 源蔵は法被にねじりハチマキ。


 茂吉も法被姿になり、腰には帯が巻かれている。


 美津代は鮮やかな浴衣姿。


 なつも花柄の浴衣に変わっていた。


「ちょっと! あたしらの服まで変わってるじゃないか!」


 美津代が自分の袖を広げた。


「あらまあ。私までお祭りに参加してるねえ」


 なつは自分の浴衣を眺めた。


「わし、何かの祭りに参加しとるんかのう」

「今、目の前で始まっただろう!」


 美津代が叫んだ。


 源蔵は大喜びだった。


「おお! 全員お祭り仕様だ!」

「誰も着替えたいなんて言ってないよ!」


 富美子のそばでは、女の子が浴衣姿になっていた。


 男の子も法被姿で、相変わらずぐるぐる歩いている。


 少し離れたところでは、青年も法被を着て、ぶつぶつと何かをつぶやいていた。


「あらあら。みんなお揃いねえ」


 富美子は嬉しそうに笑った。


 キクは、周囲の騒ぎを聞いていた。


「……俺は?」


 富美子がキクを見た。


「あら、キクちゃんは変わらないのねえ」

「……おう」

「生きてるからかしら」

「……たぶんな」


 富美子は少し考えた。


「あら、キクちゃんにも法被を着せたいけど、お花が潰れちゃうわねえ」

「……おう」

「じゃあ、小さなねじりハチマキはどうかしら」


 富美子がキクの花を見つめた。


 ふわり。


 花びらを潰さない大きさの、小さなねじりハチマキが現れた。


「あら、似合うわねえ」

「……何がだ」

「ハチマキよ」

「……ハチマキ?」

「ええ。キクちゃんもお祭りねえ」


 キクには何も見えなかった。


 重さも、感触もない。


「……俺にも乗ってるのか」

「ええ。とっても似合ってるわよ」

「……おう」


 キクは少し考えた。


「……俺も参加か」


 美津代が叫んだ。


「結局、花まで巻き込むのかい!」


 ♪ ドンドン、ドンドン。


 ♪ ドン、ドン、ドン!


 源蔵が踊り始めた。


「よし! 決めたぞ!」

「また何だい」

「墓地案内所に芸能部を新設する!」

「案内所に芸能部なんか必要ないだろう!」

「必要だ! 墓地を明るくするためだ!」

「だからってねえ……」

「部長は富美子だ!」

「あら、私?」

「そうだ! 頼んだぞ!」

「じゃあ、明日も踊らなくちゃねえ」


 富美子は嬉しそうに笑った。


 やがて、踊りを終えた。


 ピタッ。


 音楽が止まった。


 全員の祭り衣装が、一斉に消えた。


 キクの小さなねじりハチマキも消えていた。


「おい! もう終わりか!」

「あら、源ちゃん。まだ踊りたいの?」

「当然だ! 芸能部の活動は始まったばかりだぞ!」

「部長は富美子なんだから、あんたが決めるんじゃないよ!」


 美津代が呆れた。


「それにしても、衣装だけじゃなくて音楽まで出るなんてねえ」


 なつが富美子の墓石を見た。


「あら、私のお墓も頑張ってくれたのねえ」

「墓石が頑張るって何だい!」

「わしの墓も何かできるかのう」

「茂吉まで何を言い出すんだい!」


 富美子は楽しそうに笑っている。


 女の子は、富美子の後ろに立っていた。


 男の子は、相変わらず富美子の周りをぐるぐる歩いている。


 青年も少し離れたところで、ぶつぶつと何かをつぶやいていた。


 墓地案内所には、建物も給料もない。


 だが、芸能部ができた。


 しかも、部長が踊れば衣装が出る。


 音楽まで勝手に流れる。


 キクは、富美子の墓石を見つめた。


「……おう」


 そういえば、花屋にも似たようなものがあった。


 作業台の下にいるゴミ箱だ。


 あいつも、花屋にいた5日間で、何度か勝手に音楽を流していた。


「……ここにもいるのか」


 キクは少し考えた。


 どうやら、墓地にもBGM担当がいるらしい。





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