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第50話 お盆本番④ 補充が追いつきません



 8月12日。


 花屋のお盆、3日目。


 売場には、仏花がずらりと並んでいた。


 白い大菊が言った。

「壮観だな!」

 黄色い大菊が言った。

「これだけあれば安心だ!」

 赤い大菊が言った。

「愛が満ちている!」

 鏡が答えた。

「……せやな。今はな」


 店員が売場の仏花を確認した。


 十分に並んでいる。


 そのままレジへ戻った。


 客が2束を手に取った。


 別の客が5束。


 さらに別の客が10束。


 鏡が言った。

「……10束まとめて持ってったで」

 キクが答えた。

「おう」

 白い大菊が言った。

「大部隊の出陣だ!」

 黄色い大菊が言った。

「我々の人気は絶大だ!」

 赤い大菊が言った。

「愛が10倍だ!」

 鏡が答えた。

「……1束ずつ売れると思っとったら大間違いやな!」


 売場の奥には、作業台があった。


 その周囲は、大量の花と商品で埋まっている。


 客が入らないように区切られた一角には、補充用の仏花が並んでいた。


 10束、20束とまとめられた仏花が、次々と補充を待っている。


 補充担当の店員が10数束を抱えた。


 売場へ運ぶ。


 空いた場所に、まとめて並べる。


 どさっ。


 鏡が言った。

「……補充完了やな」


 その横から、客が3束を手に取った。


 別の客が5束。


 さらに2束。


 鏡が言った。

「……今、補充したとこやで?」

 白い大菊が言った。

「早速出陣だ!」

 黄色い大菊が言った。

「待機時間が短い!」

 赤い大菊が言った。

「愛は待たせない!」

 鏡が答えた。

「……補充する方は待ってほしいやろな!」


 店員は商品置場へ戻った。


 次の仏花を抱える。


 また10数束。


 売場へ運ぶ。


 どさっ。


 空いた場所が埋まった。


 その直後、別の場所から仏花が減っていく。


 鏡が言った。

「……埋めたそばから減っとる!」

 キクが答えた。

「おう」


 作業台では、別の店員が仏花を作っていた。


 菊を切る。


 葉っぱを取る。


 組み合わせる。


 じゅうろくちゃんが言った。

「はいっ! ぎゅーっ!」


 キュッ。


 ゴムデラックスが言った。

「次! どんどん縛るわよ!」

 じゅうろくちゃんが答えた。

「うん! いっぱい縛れるよ!」

 鏡が言った。

「……あんたらだけ楽しそうやな!」


 完成した仏花が、補充用の置場へ追加された。


 その横には、すでに大量の仏花が並んでいる。


 店員が新しい仏花を置いた。


 別の店員が、補充用の仏花を抱えて出ていった。


 鏡が言った。

「……作ったそばから持っていかれとる!」

 キクが答えた。

「おう」


 レジでは、会計が続いていた。


 2束。


 5束。


 3束。


 10束。


 客が仏花を抱えて並んでいる。


 レジ担当の店員は、その場を離れなかった。


 白い大菊が言った。

「次々と出陣している!」

 黄色い大菊が言った。

「途切れる気配がない!」

 赤い大菊が言った。

「愛の大行列だ!」

 鏡が答えた。

「……レジの行列や!」


 補充担当の店員が戻ってきた。


 次の仏花を抱える。


 売場へ運ぶ。


 戻ってくる。


 また抱える。


 売場へ運ぶ。


 戻ってくる。


 鏡が言った。

「……何往復目や?」


 30分ほどで、50束以上が補充された。


 それでも、売場には次々と空きができていた。


 白い大菊が言った。

「50束の援軍だ!」

 黄色い大菊が言った。

「これで戦線を維持できる!」

 赤い大菊が言った。

「愛の補給は万全だ!」

 鏡が答えた。

「……30分後には、また50束必要なんちゃう?」


 店員が再び仏花を抱えた。


 売場へ向かう。


 通路で客とすれ違う。


 客が、店員の抱えた仏花を見た。


 足を止める。


 そのうちの1束を指さした。


 鏡が言った。

「……あ、見つかった」


 店員が1束を取り出す。


 客に渡す。


 客はそれを持ってレジへ向かった。


 白い大菊が言った。

「売場到着前に出陣!」

 黄色い大菊が言った。

「最短記録ではないか!」

 赤い大菊が言った。

「愛に距離は関係ない!」

 鏡が答えた。

「……補充する前に減っとるだけや!」


 店員は残りの仏花を売場へ運んだ。


 並べ終える。


 商品置場へ戻る。


 その隣では、事前予約品の制作が進んでいた。


 注文書が置かれている。


 店員が花を組み合わせる。


 じゅうろくちゃんが言った。

「はいっ! ぎゅーっ!」


 キュッ。


 完成した仏花は、予約品の置場へ運ばれた。


 鏡が言った。

「……こっちは売場に出したらあかんやつやな」

 キクが答えた。

「おう」


 そのとき、売場から客が店員に声をかけた。


 店員が対応する。


 客は売場の仏花を見ながら、何かを伝えていた。


 店員が作業台へ戻った。


 新しい注文書が追加された。


 当日中の受け取りを希望する注文だった。


 鏡が言った。

「……今から作る注文まで増えたで」

 ゴムデラックスが言った。

「いいじゃない! どんどん縛るわよ!」

 じゅうろくちゃんが答えた。

「うん! いっぱい縛れるよ!」

 鏡が言った。

「……あんたら、仕事増えて喜んどる場合か?」

 ゴムデラックスが答えた。

「私たちの出番が増えるんだから、当然でしょ!」

 じゅうろくちゃんが言った。

「いっぱい縛れるよ!」

 鏡が答えた。

「……前向きすぎるわ!」


 店員が次の花を手に取った。


 ざくっ。


 葉っぱを取る。


 ぱらぱらっ。


 組み合わせる。


 じゅうろくちゃんが言った。

「はいっ! ぎゅーっ!」


 キュッ。


 完成。


 そのとき、また客が店員に声をかけた。


 別の当日注文だった。


 店員が注文書を追加する。


 ゴムデラックスが言った。

「次ね!」

 じゅうろくちゃんが答えた。

「うん! いっぱい縛れるよ!」


 店員が次の花を手に取った。


 ざくっ。


 ぱらぱらっ。


 組み合わせる。


 キュッ。


 完成。


 さらに客が来た。


 また当日注文。


 注文書が増えた。


 白い大菊が言った。

「増援要請だ!」

 黄色い大菊が言った。

「制作部隊が必要だ!」

 赤い大菊が言った。

「愛の注文が止まらない!」

 鏡が答えた。

「……今すぐ作れ言われても、手ぇ2本しかないねん!」


 店員が次の花を切った。


 ざくっ。


 葉っぱが足元へ落ちる。


 ぱらぱらっ。


 茎も落ちる。


 ころん。


 作業台の下には、昨日のゴミ箱があった。


 2か所にガムテープが貼られたゴミ袋が、まだ入っている。


 しかし、今日は茎が入ってこなかった。


 ♪ ポロン……


 鏡が言った。

「……あれ? 今日は静かやな」

 リンドウが言った。

「昨日の荘厳な音楽が聞こえぬでござる!」

 鏡が答えた。

「……そら、今日は何も入ってへんからな」


 床には、葉っぱと茎が散らばっていた。


 ゴミ箱のすぐそばにも落ちている。


 だが、店員はそれを拾わなかった。


 次の当日注文を仕上げていた。


 白い大菊が言った。

「ついに平和が訪れたか!」

 黄色い大菊が言った。

「敵の攻撃が止まった!」

 赤い大菊が言った。

「愛の勝利だ!」

 鏡が答えた。

「……その敵、あんたらの葉っぱやで!」


 ♪ ポロン……ポロン……


 リンドウが言った。

「待機中でござるか?」

 鏡が答えた。

「……目の前にゴミ山積みやで!」


 店員が次の花を切った。


 ざくっ。


 ぱらぱらっ。


 ころん。


 ゴミ箱の周囲に、さらに葉っぱが増えた。


 ♪ ポロン……


 リンドウが言った。

「敵は目前におるというのに、出陣できぬとは!」

 鏡が答えた。

「……そもそもゴミ箱は動かれへんからな!」


 そのとき、補充担当の店員が戻ってきた。


 仏花を10数束抱える。


 再び売場へ向かった。


 レジでは、会計が続いている。


 作業台では、当日注文の制作が続いている。


 補充担当は、売場と商品置場を往復し続けている。


 鏡が言った。

「……3人とも止まらへんな」

 キクが答えた。

「おう」


 白い大菊が言った。

「我々は大人気だ!」

 黄色い大菊が言った。

「作っても作っても売れていく!」

 赤い大菊が言った。

「愛があふれている!」

 鏡が答えた。

「……あふれとるんは、こっちの葉っぱや!」


 愛さんが告げた。


「売場の清掃は維持されています」


 売場の通路には、ゴミが落ちていなかった。


 補充担当の店員が、通路に落ちた葉っぱを拾い、売場を整える。


 そして、また仏花を運んだ。


 一方、作業台の周囲では。


 ぱらぱらっ。


 ころん。


 ざくっ。


 ぱらぱらっ。


 葉っぱと茎が増えていた。


 ♪ ポロン……ポロン……


 鏡が言った。

「……あんた、昨日まであんなに戦っとったのにな」

 リンドウが言った。

「本日は出番なしでござるか!」

 鏡が答えた。

「……仕事は増えとるんや。ゴミがゴミ箱んとこまで来ーへんだけや」


 花屋のお盆、3日目。


 売場の補充は、ぎりぎり追いついていた。


 事前予約品も、予定どおり仕上がっていた。


 しかし、次々と入る当日注文が、制作担当を圧迫していた。


 売場はきれいだった。


 作業場は、片づける暇がなかった。


 なお、ゴミ箱にはまだ余裕があった。


 昨日は、激しい攻防が繰り広げられた。


 今日は、敵が目の前にいるにもかかわらず、戦線にすら参加できなかった。


 ♪ ポロン……。





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