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花屋は本日も通常営業です  作者: 花束 ねる


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第49話 お盆本番③ 回復をお願いします

 


 お盆二日目から、仏花の制作は続いていた。


 菊を切る。


 葉っぱを取る。


 組み合わせる。


 束ねる。


 売場へ運ぶ。


 そして、また菊を切る。


 鏡が言った。


「……昨日より忙しなっとるな」

 キクが答えた。

「おう」

「……返事まで短なっとるやん」


 作業台の下には、ゴミ箱が置かれていた。


 昨日、新しい袋に交換されたばかりである。


 店員が菊の茎を切った。


 ざくっ。


 切り落とされた茎が、ゴミ箱へ入れられた。


 どさっ。


 鏡が言った。


「……長ない?」


 普段なら、捨てる茎は十センチほどに切りそろえる。


 だが、今日は違った。


 三十センチほどの茎が、そのまま投入されていた。


 斜めに引っかかる。


 別の茎が、その上に乗る。


 さらに葉っぱが積もる。


 ゴミ袋の中には、大きな隙間ができていた。


 鏡が言った。


「……まだ全然入るはずやのに、もう詰まっとる!」


 白い大菊が言った。


「敵の陣形が変わったな」


 黄色い大菊が言った。


「昨日とは違う戦いだ」


 赤い大菊が言った。


「愛で乗り越えよう」


 鏡が答えた。


「……まず茎を短く切ってくれへん?」


 店員が次の菊を手に取った。


 ざくっ。


 どさっ。


 また長い茎が入った。


 ♪ ドドドドドド……


 鏡が言った。


「……今度はボス戦かいな」


 リンドウが言った。


「敵襲でござるか!」


 鏡が答えた。


「……敵は茎や!」


 ゴミ袋の内側で、一本の茎が突っ張っていた。


 さらに上から、別の茎が落ちてくる。


 ぐぐぐっ。


 袋が引っ張られた。


 白い大菊が言った。


「防御を固めろ!」


 黄色い大菊が言った。


「ここが踏ん張りどころだ!」


 赤い大菊が言った。


「信じているぞ!」


 鏡が叫んだ。


「……昨日も聞いたわ、その応援!」


 そのとき。


 ぷつっ。


 ゴミ袋に、小さな穴が開いた。


 鏡が言った。


「……あ」


 さらに茎が押し込まれた。


 びりっ。


「……穴、広がった!」


 ♪ ドドドドドドドド!


 リンドウが言った。


「大ダメージでござる!」


 白い大菊が言った。


「耐えろ!」


 黄色い大菊が言った。


「まだ戦える!」


 赤い大菊が言った。


「愛は破れない!」


 鏡が答えた。


「……袋は破れとる!」


 作業台の上では、仏花の制作が続いていた。


 店員が花を組み合わせる。


 じゅうろくちゃんが元気よく言った。


「はいっ! ぎゅーっ!」


 キュッ。


 仏花が束ねられた。


 ゴムデラックスが言った。


「もっとしっかり縛るわよ!」


 じゅうろくちゃんが答えた。


「うんっ! 頑張るっ!」


 鏡が言った。


「……こっちは元気やな」


 店員が完成した仏花を横に置いた。


 次の菊を手に取る。


 ざくっ。


 どさっ。


 また長い茎がゴミ箱へ入った。


 びりびりっ。


 鏡が叫んだ。


「……もうやめたって!」


 リンドウが言った。


「防衛線が突破されたでござる!」


 白い大菊が言った。


「救援を呼べ!」


 黄色い大菊が言った。


「回復役はどこだ!」


 赤い大菊が言った。


「愛ならここにある!」


 鏡が答えた。


「……愛で穴は塞がらん!」


 ようやく店員がゴミ箱に気づいた。


 袋の横から、茎が突き出している。


 店員はゴミ袋を持ち上げた。


 鏡が言った。


「……やっと交換してもらえるんか」


 だが、店員は袋を交換しなかった。


 作業台の下から、ガムテープを取り出した。


「…………」


 鏡が言った。


「……まさか」


 ベリベリベリッ。


 店員がガムテープを切った。


 破れた部分に貼り付ける。


 ぺたっ。


 ♪ テレレレレーン!


 リンドウが言った。


「回復魔法でござる!」


 白い大菊が言った。


「傷が塞がった!」


 黄色い大菊が言った。


「戦線復帰だ!」


 赤い大菊が言った。


「愛の力だ!」


 鏡が叫んだ。


「……ガムテープの力や!」


 店員は補修したゴミ袋を、再びゴミ箱にセットした。


 長い茎が、まだ斜めに突っ張っている。


 鏡が言った。


「……中身はそのままなんやな」


 キクが答えた。


「おう」


 店員は作業を再開した。


 ざくっ。


 どさっ。


 また三十センチほどの茎が入った。


 ♪ ドドドドドド……


 鏡が言った。


「……もう第二戦始まっとる!」


 リンドウが言った。


「回復直後の連戦でござるか!」


 白い大菊が言った。


「今度こそ耐え抜こう!」


 黄色い大菊が言った。


「補強されたのだ。前より強い!」


 赤い大菊が言った。


「愛も深まった!」


 鏡が答えた。


「……穴にテープ貼っただけや!」


 そのとき、店員が新しい仏花を束ねた。


 じゅうろくちゃんが言った。


「ぎゅーっ! できたっ!」


 ゴムデラックスが言った。


「いいわね! 次も縛るわよ!」


 鏡が言った。


「……あんたら、あっちは縛らんでええからな」


 ゴムデラックスが答えた。


「何よ。縛れば何とかなるわよ」


「……ならへん!」


 ゴミ箱では、長い茎がさらに積み重なっていた。


 ぐぐぐっ。


 補修した部分が引っ張られる。


 ガムテープは剥がれなかった。


 白い大菊が言った。


「耐えている!」


 黄色い大菊が言った。


「回復魔法の効果だ!」


 赤い大菊が言った。


「愛は勝つ!」


 鏡が言った。


「……せやからガムテープやって!」


 ぷつっ。


「…………」


 補修した場所の、すぐ隣だった。


 びりっ。


 新しい穴が開いた。


 ♪ ドドドドドドドド!


 リンドウが叫んだ。


「別の場所に大ダメージでござる!」


 白い大菊が言った。


「回復が追いつかない!」


 黄色い大菊が言った。


「回復役を呼べ!」


 赤い大菊が言った。


「愛を追加しよう!」


 鏡が叫んだ。


「……ガムテープ追加する気か!」


 店員が再び作業を止めた。


 ゴミ袋を持ち上げる。


 新しい穴を確認する。


 そして、ガムテープを手に取った。


 ベリベリベリッ。


 ぺたっ。


 ♪ テレレレレーン!


 リンドウが言った。


「再び回復でござる!」


 白い大菊が言った。


「不死身だ!」


 黄色い大菊が言った。


「何度でも立ち上がれる!」


 赤い大菊が言った。


「愛は永遠だ!」


 鏡が言った。


「……もう新しい袋にしたれや!」


 愛さんが告げた。


「仏花の制作は、まだ終了しておりません」


 店員は補修したゴミ袋を、再びゴミ箱にセットした。


 そして、次の菊を手に取った。


 ざくっ。


 どさっ。


 ♪ ドドドドドド……


 リンドウが言った。


「第三戦でござる!」


 白い大菊が言った。


「今度こそ勝とう!」


 黄色い大菊が言った。


「回復役がいる限り、負けはしない!」


 赤い大菊が言った。


「愛がある!」


 鏡が言った。


「……せめて茎を短く切ったれや!」


 そのとき、ゴミ箱から重々しい音楽が流れた。


 ♪ ジャジャジャジャーン!


 鏡が言った。


「……とうとうベートーヴェンの『運命』まで流れ始めたで」


 リンドウが言った。


「決戦の刻でござる!」


 鏡が答えた。


「……ちゃう。これ、ゴミ袋の運命や!」


 花屋のお盆、三日目。 


 ゴミ袋は二度の大ダメージを受け、二度の回復に成功した。


 なお、回復のたびに防御力は上がっていたが、耐久力が上がったかどうかは確認されていない。


 敵の攻撃方法は、最後まで変わらなかった。





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