第48話 お盆本番② お気持ちを受け取ってください
花屋では、朝から仏花の制作が続いていた。
菊を切る。
葉っぱを取る。
組み合わせる。
束ねる。
そして、また菊を切る。
鏡が言った。
「……昨日から、ずっと同じことしとるな」
キクが答えた。
「仕事だ」
「そら仕事やけどな」
作業台の下では、ゴミ箱が忙しかった。
ぱらぱら。
ばさばさ。
どさっ。
葉っぱと茎が積み重なっていく。
やがて、ゴミが縁まで達した。
♪ テッテレテーテッテッテー!
鏡が言った。
「……また昇格しとるな」
「おう」
「……昨日から何回目やろな」
だが、店員はゴミ袋を交換しなかった。
次の菊を切る。
下葉を取る。
束を作る。
切り落とされた茎が、ゴミ箱の上に積まれた。
さらに葉っぱが落ちる。
ゴミは縁を越え、山になっていった。
♪ タターター、タターター⤵!
鏡が言った。
「……限界突破、始まったで」
リンドウが言った。
「己の限界に挑む姿、見事でござる」
鏡が答えた。
「……挑まされとるだけや!」
白い大菊が言った。
「限界を超えた先に、本当の成長がある」
黄色い大菊が言った。
「苦しいときこそ、踏ん張りどころだ」
赤い大菊が言った。
「信じているぞ!」
鏡が言った。
「……アンタら、何を応援しとるん?」
白い大菊が答えた。
「仲間の挑戦だ」
「……仲間なん?」
「同じ職場で働いている」
「……まあ、そうやけど」
店員が白い大菊の下葉を取った。
ばさっ。
ゴミ箱の上に葉っぱが積まれた。
白い大菊が言った。
「俺の思いを受け取れ!」
鏡が答えた。
「……ゴミを押し付けとるだけや!」
次に黄色い大菊の下葉が取られた。
ばさばさっ。
黄色い大菊が言った。
「俺も力を貸そう!」
「……貸すんやなくて、負担増やしとるんや!」
赤い大菊の茎が切られた。
どさっ。
赤い大菊が言った。
「これが俺の愛だ!」
「……重たい愛やな!」
ゴミ箱から、勇ましい音楽が流れ続けていた。
♪ タターター、タターター⤵!
リンドウが言った。
「皆の思いを背負い、戦っているのでござるな」
鏡が答えた。
「……背負わされとるんや!」
キクが言った。
「立派だ」
「……お前もやで!」
店員は次の菊を手に取った。
葉っぱを取る。
茎を切る。
そして、ゴミ箱へ。
どさっ。
ゴミの山が、ぐらりと傾いた。
鏡が言った。
「……おい、危ないで」
白い大菊が言った。
「ここが正念場だ!」
黄色い大菊が続けた。
「諦めるな!」
赤い大菊が叫んだ。
「お前ならできる!」
鏡が言った。
「……いや、もう無理やろ!」
ぐらり。
ゴミの山が、さらに傾いた。
リンドウが言った。
「耐えるのでござる!」
白い大菊が言った。
「己を信じろ!」
黄色い大菊が言った。
「限界は超えるためにある!」
赤い大菊が言った。
「愛は勝つ!」
鏡が言った。
「……誰かゴミ袋交換したれや!」
しかし、店員は仏花を束ねていた。
次の菊を手に取る。
下葉を取る。
ばさっ。
白い大菊が言った。
「最後のひと押しだ!」
鏡が叫んだ。
「……押すな!」
ぐらぐら。
ぐらぐらぐら。
そして。
ばさばさばさっ!
ゴミの山が崩れた。
葉っぱと茎が、作業台の下に散らばった。
勇ましい音楽が止まった。
「…………」
白い大菊が言った。
「……力及ばずか」
黄色い大菊が言った。
「……よく戦った」
赤い大菊が言った。
「……君の勇姿は忘れない」
リンドウが言った。
「無念でござる」
鏡が言った。
「……アンタらがやったんや!」
キクが言った。
「惜しかったな」
「……お前も反省せえ!」
店員が作業を止めた。
床に散らばった葉っぱを拾い集める。
落ちた茎を集める。
ゴミ袋の口を押さえ、詰め直す。
白い大菊が言った。
「……戦いの後始末か」
鏡が答えた。
「……アンタらの後始末や!」
店員がいっぱいになったゴミ袋を引き抜いた。
静かになった。
キクが言った。
「死んだな」
白い大菊が言った。
「……英雄の最期だ」
黄色い大菊が言った。
「……立派な生き様だった」
赤い大菊が言った。
「……愛は永遠だ」
鏡が言った。
「……ゴミ袋交換しとるだけや!」
店員が新しいゴミ袋をセットした。
♪ タリラリ、ターン、ターーン、ターーーン!
リンドウが言った。
「復活でござる!」
白い大菊が言った。
「帰ってきたか!」
黄色い大菊が言った。
「次こそ限界を超えよう!」
赤い大菊が言った。
「俺たちがついている!」
鏡が言った。
「……ついてくんな!」
愛さんが告げた。
「仏花の制作は、まだ終了しておりません」
作業台には、まだ大量の菊が並んでいた。
葉っぱを取る。
茎を切る。
束を作る。
そして、ゴミ箱へ。
ぱらぱら。
白い大菊が言った。
「新たな戦いの始まりだ」
黄色い大菊が言った。
「今度こそ勝とう!」
赤い大菊が言った。
「俺たちの愛を受け止めてくれ!」
鏡が言った。
「……まずゴミ減らせや!」
ゴミ箱は何も答えなかった。
花屋のお盆、二日目。
ゴミ箱は限界を超えることができなかった。
なお、限界突破を要求していた菊たちは、全員その原因を作っていた。
反省の様子は、特に見られなかった。




