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花屋は本日も通常営業です  作者: 花束 ねる


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第47話 お盆本番① 何か聞こえました



 世間のお盆は、まだ始まっていない。


 だが、花屋のお盆は、すでに始まっていた。


 昨日入荷した菊1,800本に加え、新たに500本が到着した。


 合計2,300本。


 店に以前からあった52本の菊も含め、作業場には大量の菊が並んでいた。


 鏡が言った。


「……また増えたな」

「新入りだ」

「お前、ずいぶん先輩風吹かせとるな」

「先輩だからな」

「……まあ、そうやけど」


 キクは、以前から店にいる52本のうちの一本だった。


 今日届いた500本のうちの一本が、作業場を見回した。


「……ここが新しい職場か」

「おう」

「仕事は何をするんだ?」

「売れる」

「……それだけか?」

「おう」


 鏡が言った。


「……売れる前に、いろいろあるけどな」


 作業台では、店員が菊の下葉を取り始めていた。


 葉っぱを取る。


 茎を切る。


 束を作る。


 切り落とした葉っぱと茎は、作業台の下のゴミ箱へ。


 普段なら、ゴミが溜まったところで袋を交換する。


 だが、今日は違った。


 次の菊が待っている。


 その次も待っている。


 さらに、その次も待っている。


 ゴミ箱の中には、葉っぱと茎が積み重なっていった。


 やがて、ゴミが縁まで達した。


 ♪ テッテレテーテッテッテー!


「…………」


 今日届いた菊が言った。


「……今の音は何だ?」


 鏡が答えた。


「ゴミ箱や」

「ゴミ箱?」

「せや」

「……ゴミ箱が鳴るのか?」

「昔から鳴るで」

「初めて聞いたぞ」

「普段は鳴るほど溜まらへんからな」

「……何と言っているんだ?」

「知らん」

「知らんのか?」

「音楽でしか返事せえへんねん」


 キクが言った。


「昇格だ」


 鏡が聞いた。


「……何が?」

「ゴミ箱だ」

「何に昇格したん?」

「知らん」

「知らんのかい!」


 今日届いた菊が言った。


「……昇格したということは、仕事ぶりが認められたのか?」


 キクが答えた。


「おう」


 鏡が言った。


「……ゴミ溜めただけやで」


 店員は次の菊を取り出している。


 葉っぱを取る。


 茎を切る。


 束を作る。


 切り落とされた葉っぱは、ゴミ箱の上に積まれていった。


 今日届いた菊が言った。


「……昇格したのに、仕事が増えているぞ」


 キクが答えた。


「責任が増えたんだ」

「なるほど」

「納得すな!」


 鏡がツッコんだ。


 ようやく店員がゴミ箱に手を伸ばした。


 積み上がった葉っぱを押さえ、ゴミ袋を引き抜く。


 ゴミ箱は空になった。


 今日届いた菊が言った。


「……あれ?」


 キクが言った。


「死んだな」


 鏡が言った。


「……何でやねん!」


 店員が新しいゴミ袋をセットした。


 ♪ タリラリ、ターン、ターーン、ターーーン!


「…………」


 今日届いた菊が言った。


「……今度は何だ?」


 キクが答えた。


「復活だ」


 鏡が言った。


「……生き返るんかい!」


 今日届いた菊が言った。


「……昇格したばかりなのに、死んだのか?」

「おう」

「……そして、すぐ生き返った?」

「おう」

「……休みは?」

「ない」


 鏡が言った。


「……そもそもゴミ箱やからな!」


 作業台には、まだ大量の菊が残っていた。


 葉っぱを取る。


 茎を切る。


 束を作る。


 また、ゴミ箱に捨てる。


 今日届いた菊が言った。


「……生き返ったばかりなのに、もう働いているぞ」


 キクが答えた。


「職場復帰だ」

「……早くないか?」

「人手不足だ」

「……ゴミ箱不足やろ!」


 鏡がツッコんだ。


 しばらくして、再びゴミが縁まで達した。


 ♪ テッテレテーテッテッテー!


 今日届いた菊が言った。


「……また昇格したぞ!」


 キクが答えた。


「順調だな」


 鏡が言った。


「……何が順調なんや!」


 キクが答えた。


「出世だ」


 今日届いた菊が言った。


「……でも、また死ぬんじゃないか?」


 キクが答えた。


「おう」


 鏡が言った。


「……出世したら死ぬって、どんな職場やねん!」


 店員は、まだゴミ袋を交換できない。


 さらに葉っぱが積み重なっていく。


 今日届いた菊が言った。


「……昇格したのに、仕事を減らしてもらえないのか?」


 キクが答えた。


「昇格したからな」

「……昇格すると仕事が増えるのか?」

「おう」

「……そして死ぬ?」

「おう」


 鏡が言った。


「……誰も出世したがらへんわ!」


 ようやく店員がゴミ袋を引き抜いた。


 今日届いた菊が言った。


「……死んだ」


 店員が新しい袋をセットした。


 ♪ タリラリ、ターン、ターーン、ターーーン!


「……生き返った!」


 キクが答えた。


「おう」


 鏡が言った。


「……忙しい人生やな!」


 愛さんが告げた。


「本日の作業は、まだ終了しておりません」


 今日届いた菊が言った。


「……復活したばかりなのに?」


 キクが答えた。


「おう」


 鏡が言った。


「……せめて復活祝いくらいしたれや!」


 キクが言った。


「次の昇格が祝いだ」


 鏡が答えた。


「……また死ぬやないか!」


 作業台には、まだ菊が並んでいた。


 葉っぱを取る。


 茎を切る。


 束を作る。


 ゴミ箱に捨てる。


 しばらくして、また満杯になった。


 ♪ テッテレテーテッテッテー!


「…………」


 今日届いた菊が言った。


「……三度目の昇格だ!」


 キクが答えた。


「おう」


 鏡が言った。


「……この調子やと、お盆終わる頃には社長になっとるで!」


 今日届いた菊が言った。


「……社長になる前に死ぬのでは?」


 キクが答えた。


「もう二度死んでいる」


 鏡が言った。


「……社長になるより先に死んどるやないか!」


 愛さんが告げた。


「当店にゴミ箱の昇進制度はありません」


 キクが答えた。


「自主昇格だ」


 鏡が言った。


「……会社に認められてへんのかい!」


 ゴミ箱は、満杯のまま次のゴミを待っていた。


 花屋のお盆、一日目。


 ゴミ箱は三度昇格し、二度死亡し、二度復活したことになっていた。


 なお、本人の意思は確認できていない。





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