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花屋は本日も通常営業です  作者: 花束 ねる


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43話 お盆前哨戦② 帰る場所がありません



 8月上旬。


 パキラは、今日も店内にいた。


「いやー、今日も暑そうだねえ」

「Hot day.(暑い日だね)」

「こういう日は、涼しい店内が一番だよねえ」

「I agree.(僕もそう思う)」


 そこへ店員がやってきた。


 パキラの鉢を持ち上げる。


「……ああ、やっぱり」


 パキラは、そのまま屋外の鉢物売場へ運ばれた。


「いやー、今日からまた外勤かあ」


 続いて、ベンジャミンも運ばれてきた。


「Again?(また?)」

「ベンジャミンもかあ」

「Not again……(またか……)」

「いやー、お互い大変だねえ」


 ベンジャミンは、店の中を見た。


「I'll be back tonight.(今夜には戻れるよね)」

「そうだねえ。いつもならねえ」


 店員が、二人のいた場所から鉢皿を片付けた。


 空いた売場に、台が組まれた。


 その上に、空のバケツが次々と並べられる。


「……あれ?」

「What's happening?(何が起きてるの?)」

「お盆の準備だねえ」

「Obon?(お盆?)」

「そうそう。売場の大改装だねえ」

「Why our spot?(どうして僕たちの場所なの?)」

「いやー、いい場所だからねえ」

「It's a good spot!(いい場所なんだ!)」

「そうそう」

「Then why are we outside?(じゃあ、どうして僕たちは外なの?)」

「……そこなんだよねえ」


 店員が、さらにバケツを並べた。


 ベンジャミンのいた場所は、空のバケツで埋まっていった。


「That's my spot!(そこ、僕の場所なんだけど!)」

「俺のもねえ」

「We should complain!(抗議しようよ!)」

「いいねえ。誰に?」

「The manager!(店長に!)」

「聞こえないからねえ」

「Then Ai!(じゃあ、愛に!)」

「聞こえるけど、決定権ないからねえ」

「Then who!?(じゃあ誰に!?)」


 パキラは少し考えた。


「……いないねえ」

「What!?(何だって!?)」

「いやー、組織って難しいねえ」


 ベンジャミンは、店内を見つめた。


「Does this happen often?(こういうこと、よくあるの?)」

「そうだねえ。大きい売場変更は年5回くらいかなあ」

「Five times!?(5回も!?)」

「まあ、俺は去年のお盆も経験してるからねえ」

「What happened?(どうなったの?)」

「こうなったねえ」

「And then?(それから?)」

「戻ったねえ」

「That's all?(それだけ?)」

「そうそう。俺たちには決定権がないからねえ」


 ベンジャミンは、しばらく黙った。


「Are we still for sale?(僕たちもまだ販売中なの?)」

「もちろん」

「Then where's our sales floor?(じゃあ、僕たちの売場は?)」

「……今いるところだねえ」


 ベンジャミンは、頭上の屋根を見た。


「Is this a sales floor?(ここ、売場なの?)」

「いやー、屋根だけある一等地だねえ」

「What about the walls?(壁は?)」

「ないねえ」

「Air conditioning?(冷房は?)」

「ないねえ」

「Customers?(お客さんは?)」

「……来てくれるといいねえ」

「…………」

「いやー、開放的な売場だねえ」


 ベンジャミンは、店内の空のバケツを見た。


「Then let's become funeral flowers.(じゃあ、僕たちも仏花になろうよ)」

「……仏花?」

「They get the best spot.(いい場所に置いてもらえるんでしょ)」

「いやー、転職かあ」

「Why not?(いいんじゃない?)」

「でもねえ。仏花は切り花なんだよねえ」

「So?(それで?)」

「俺たち、鉢植えだからねえ」

「We can change that.(それなら変えられるよ)」

「……切るの?」

「Yes.(うん)」

「……どこを?」

「…………」


 ベンジャミンは、パキラの葉を見た。


 幹を見た。


 鉢の土を見た。


 もう一度、葉を見た。


 幹を見た。


 今度は、自分の幹を見た。


「…………」

「……決まった?」

「Maybe the roots?(根っこかな?)」

「いやー、正解だねえ」

「Really?(本当に?)」

「ただ、根っこを切ったら寿命も短くなるねえ」

「How short?(どのくらい?)」

「まあ、1週間、10日くらいかなあ」

「…………」

「挿し木なら、また根が出ることもあるけどねえ」

「Then let's do that!(じゃあ、そうしようよ!)」

「仏花になったら、土には戻れないよねえ」

「…………」

「……決まった?」

「…………Maybe not.(…………やっぱりやめようか)」

「いやー、転職の条件が厳しいねえ」

「Let's stay here.(ここにいよう)」

「そうだねえ」


 昼過ぎ。


 雨が降り始めた。


「It's raining.(雨が降ってきたね)」

「そうだねえ。今年は雨が多いねえ」

「Better than the sun.(日差しよりはましだよ)」

「まあ、葉焼けはしないけどねえ」


 パキラは、店内を見た。


 空のバケツが、きれいに並んでいる。


「How long is Obon?(お盆って、どのくらい続くの?)」

「準備も入れると、だいたい1週間くらいかなあ」

「A whole week?(丸々1週間?)」

「そうだねえ」

「Can we go back if it gets too hot?(暑くなったら戻れる?)」

「店員さん次第だねえ」

「Can we ask?(お願いできる?)」

「聞こえないからねえ」

「…………」

「いやー、植物って不便だねえ」


 夕方。


 店員が屋外の鉢物を店内へ運び始めた。


「いやー、ようやく帰れるねえ」


 パキラが持ち上げられた。


 しかし、運ばれた先は元の売場ではなかった。


 店内の隅だった。


「……ああ、やっぱり」


 続いて、ベンジャミンも運ばれてきた。


「This isn't my spot.(ここ、僕の場所じゃない)」

「そうだねえ」

「Where's my home?(僕の家はどこ?)」

「あそこだねえ」


 パキラは、元の売場を見た。


 そこには、空のバケツがずらりと並んでいた。


「They're still empty.(まだ空っぽだね)」

「そうだねえ」

「Where are the flowers?(花はどこにいるの?)」

「まだ裏で準備してるんじゃないかなあ」

「So nobody's there yet?(じゃあ、まだ誰もいないんだね?)」

「そうそう」

「Then why can't we go back?(じゃあ、どうして戻れないの?)」

「……バケツがいるからねえ」

「But they're empty!(でも、空っぽだよ!)」

「そうだねえ」


 そこへ愛がやってきた。


「観葉植物の売場は、お盆期間中、縮小します」

「愛さん、いつ戻れるのかなあ」

「8月16日から順次、通常配置へ戻します」

「……あと1週間かあ」


 ベンジャミンが言った。


「I want my home back.(僕の家を返してほしい)」

「現在、仏花売場として準備中です」

「But there are no flowers!(でも、花がいないよ!)」

「バケツの設置は完了しています」

「…………」


 愛は、売場を確認した。


「準備は予定どおり進行しています」


 パキラは、元の売場を眺めた。


「いやー、帰ってきたのに、帰る場所がないねえ」

「We're homeless.(僕たち、家なき子だね)」

「屋根はあるんだけどねえ」


 ベンジャミンは、もう一度、空のバケツを見た。


「Did we lose to buckets?(僕たち、バケツに負けたの?)」

「そうだねえ」

「Empty buckets?(空っぽのバケツに?)」

「そうそう」

「…………」

「……まあ、仕方ないよねえ」


 ベンジャミンは、黙って自分の鉢を見た。


 パキラも、空のバケツを見た。


 店内では、翌日のお盆準備が続いていた。





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