第42話 お盆前哨戦① 通常営業は本日までです
8月上旬。
ヒマワリは、今日も元気だった。
「夏だ!」
「…………」
「暑い!」
「……外はな」
「俺の季節だ!」
「……そうか」
隣のバラは、元気がなかった。
夏のバラは、春や秋に比べて花が小さく、花弁の巻きも少なくなる。
「お前、ちょっと小さくなった?」
「……夏だからな」
「痩せたのか?」
「……巻きが減った」
「夏バテか!」
「……そうとも言う」
ヒマワリは、自分の花を見た。
「俺は絶好調だぞ!」
「……見ればわかる」
「やっぱり夏は俺だな!」
「……そうだな」
「お前も元気出せよ!」
「……無理だ」
「気合いだ!」
「……花弁を増やせ」
ヒマワリには、できなかった。
「……なあ、バラ」
「……何だ」
「春はもっと大きかったよな?」
「……ああ」
「秋も大きくなるのか?」
「……ああ」
「じゃあ、秋まで待てばいいじゃないか!」
「…………」
「秋になったら本気出せよ!」
「……俺は切り花だ」
「知ってるぞ!」
「……秋まで持たん」
「…………」
ヒマワリは、しばらく考えた。
「……じゃあ、秋のバラは?」
「……別のバラだ」
「……お前じゃないのか?」
「……ああ」
「……そっか」
ヒマワリは、少し黙った。
しかし、すぐに立ち直った。
「じゃあ、今が勝負だな!」
「……そうだな」
「俺と一緒に夏を盛り上げようぜ!」
「……無理だ」
「なんでだよ!」
「……巻きが足りん」
そのとき、店員がヒマワリを持ち上げた。
「おっ! 早速売れたか!」
売場の端に置かれた。
「……あれ?」
続いて、バラも持ち上げられた。
通路から見える別の場所だったが、以前ほど目立たない。
「…………」
「お前もか!」
「……ああ」
店員は、カジュアルコーナーの花束を次々と移動させた。
空いた場所に、仏花用のバケツを並べる。
「……なあ、バラ」
「……何だ」
「俺たち、何か悪いことしたか?」
「……知らん」
「俺は絶好調なのに!」
「……俺は不調だ」
「なのに同じ扱いか!」
「……そうだな」
片方は絶好調。
もう片方は夏バテ。
待遇は同じだった。
店員が、カジュアルコーナーの表示を外した。
代わりに、お盆用の仏花売場の表示を取り付ける。
「……お盆?」
「……ああ」
「まだ8月だぞ!」
「……お盆も8月だ」
「…………」
ヒマワリは、初めて黙った。
しかし、すぐに立ち直った。
「でも、まだ夏だ!」
「……ああ」
「俺の季節は終わってない!」
「……そうだな」
「よし!」
「……俺は終わってほしい」
「なんでだよ!」
「……秋の方が花がいい」
「さっき秋まで持たないって言っただろ!」
「……そうだった」
バラは黙った。
秋になっても、自分の出番はなかった。
そこへ愛がやってきた。
店内の売場変更を確認する。
「明日から、お盆特別勤務体制に移行します」
「……特別勤務?」
「仏花を優先した売場配置となります」
「俺は?」
「販売を継続します」
「よし!」
「ただし、売場の優先順位は下がります」
「……変更?」
「はい」
「俺、夏の花だぞ!」
「承知しています」
「今、8月だぞ!」
「承知しています」
「……何で俺が端なんだ?」
「お盆だからです」
ヒマワリは、空のバケツが並ぶ売場を見た。
「……まだ誰も来てないぞ」
「準備です」
「来る前から場所取るのか!」
「はい」
バラが言った。
「……予約席か」
ヒマワリは振り返った。
「俺たち、立ち見か!?」
バラは少し考えた。
「……俺は座りたい」
店員は、さらに空のバケツを並べていた。
「……なあ、バラ」
「……何だ」
「お前、春はもっと立派だったんだよな?」
「……ああ」
「秋も立派なんだよな?」
「……別のバラがな」
「……今は?」
「……小さい」
「……売場も?」
「……小さい」
ヒマワリは、しばらく黙った。
「……お前、散々だな」
「……ああ」
閉店間際。
ヒマワリは、すっかり変わった売場を見ていた。
「……なあ、バラ」
「……何だ」
「俺、明日も夏の花だよな?」
「……ああ」
「売場は?」
「……知らん」
「……お前は?」
「……巻きが少ない」
愛が最後に報告した。
「通常営業は、本日までです」
「……俺の夏は?」
「継続中です」
「よし!」
「売場は縮小します」
「……夏なのに?」
バラが言った。
「……俺はもう縮んでる」
ヒマワリは、バラを見た。
「……お前、ほんとに大丈夫か?」
「…………」
バラは、しばらく考えた。
「……秋になれば」
「おう!」
「……別のバラが頑張る」
ヒマワリは、何も言えなかった。




