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花屋は本日も通常営業です  作者: 花束 ねる


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第40話 正直者には支給されません



店員が作業台の上で、何かを探していた。


金色のラッピングペーパー。

銀色のラッピングペーパー。

そして、ハサミ。


作業台には、ラッピングペーパーが広げられていた。


その下から声がした。


「おい! 誰かいねえのか!」


ハサだった。


また行方不明になっていた。


「じいさん!」

「…なんだ」

「また埋まった!」

「…そうか」

「そうかじゃねえよ! 誰か気づいてくれ!」


オカツネは隣の作業台に置かれていた。


「…待つしかないな」

「それが嫌なんだよ!」


店員は作業メモを置いた。


『金・銀・ハサミ』


愛さんが告げた。


「金と銀のハサミですね」

「は?」

「確認を開始します」

「何の確認だよ」


「あなたが落としたのは、金のハサミですか?」


「……何言ってんだ?」


「それとも銀のハサミですか?」

「どっちでもねえよ!」

「正直にお答えください」

「俺は普通のハサミだ!」

「金のハサミではありませんね」

「違う!」

「銀のハサミでもありませんね」

「違うって!」

「では、普通のハサミですね」

「そうだよ!」

「正直者と判定しました」

「何の判定だよ!」


愛さんは続けた。


「正直者には、金のハサミと銀のハサミを支給します」

「いらねえよ!」

「ただし、金色および銀色のハサミは店内在庫がありません」

「ねえのかよ!」

「金銭による代替を検討します」

「検討すんな!」


そのとき、店員が会計のためにレジを開いた。


「五円!」

「五円!」

「五円!」

「五円!」

「五円!」


「何だよ、今度は!」


「金色の硬貨を確認しました」


「五円!」

「五円!」

「五円!」

「五円!」

「五円!」


「わかった! 五円だろ!」


「五円!」

「五円!」

「五円!」

「五円!」


愛さんが告げた。


「五円の回答が十四回ありました」


「……は?」


「十四件、合計七十円です」


「数えるなよ!」


「五円!」

「五円!」

「五円!」

「五円!」

「五円!」


「まだ増えてるぞ!」


「五円!」

「五円!」

「五円!」

「五円!」

「五円!」


「もうやめろ!」


「五円の回答が二十四回になりました」


「だから何だよ!」


「合計百二十円です」


「金額を確定させるな!」


愛さんは続けた。


「次に銀色の硬貨を確認します」


「五十円!」

「百円!」

「五百円!」

「五十円!」

「百円!」

「五百円!」


「増えたじゃねえか!」


「一円!」


「五十円!」

「百円!」

「五百円!」


「一円!」


「お前もいたのか!」


「一円!」


「わかった! お前も銀色だ!」


愛さんが告げた。


「銀色の硬貨を四種類確認しました」


「五十円!」

「百円!」

「五百円!」

「一円!」


「もう全員わかったって!」


「銀色の硬貨の回答を集計します」


「やめろ! また金額が増える!」


レジが告げた。


【金額が確定していません】

「そりゃそうだろ!」

【支払い方法を選択してください】

「誰も買ってねえよ!」


「褒賞金額の算定を継続します」


「継続すんな!」


店員がレジを閉じた。


硬貨たちの声が途絶えた。


「……やっと静かになった」


しばらくして、店員がラッピングペーパーを持ち上げた。


ハサが発見された。


「やっと出られた……」


店員はハサを元の作業台へ戻した。


「じいさん! 戻ったぞ!」

「…そうか」

「もう少し心配しろよ!」

「…無事だろ」

「そうだけどよ!」


愛さんが告げた。


「ハサミの所在不明案件は解決しました」

「やっとまともなこと言ったな」

「なお、金のハサミと銀のハサミについては未処理です」

「まだ言ってんのか!」


ハサは愛さんを見た。


「愛さん、今日どうしたんだよ。おかしくねえか?」

「正常です」

「絶対おかしいだろ!」

「異常は確認されていません」

「じゃあ何で金のハサミなんだよ!」

「正直者には金のハサミと銀のハサミを与える決まりです」

「誰が決めたんだよ!」

「昔からです」

「昔からって、いつからだよ!」

「詳細な制定日は確認できません」

「そんな決まり、うちの店にねえだろ!」

「店舗独自の規定ではありません」

「じゃあ何なんだよ!」

「童話です」


ハサは黙った。


「……童話?」

「はい。金の斧、銀の斧です」

「斧じゃねえか!」

「今回はハサミに置き換えています」

「勝手に置き換えるなよ!」


そのとき、店員が作業メモを見直した。


『金・銀・ハサミ』


店員は内容を書き直した。


『金色のラッピングペーパー・銀色のラッピングペーパー・ハサミ』


愛さんが告げた。


「入力内容が更新されました」

「お?」

「金色と銀色のラッピングペーパー、およびハサミの確認ですね」

「最初からそうだよ!」

「確認は完了しています」

「じゃあ、もう終わりだな!」

「いいえ」

「……何だよ」

「正直者への褒賞が未支給です」

「まだ続いてんのかよ!」


オカツネが静かに答えた。


「…正直者は大変だな」


「じいさん、他人事だと思って!」


愛さんが告げた。


「褒賞の支給には、店長の承認が必要です」


「……店長?」


「はい。申請書を作成します」


「やめろ! 仕事を増やすな!」


愛さんは申請書を作成した。


〔正直者褒賞支給申請書〕


申請者名:ハサ

申請理由:正直者と判定されたため


支給予定品:

金のハサミ 1本

銀のハサミ 1本


在庫状況:

金のハサミ 店内在庫なし

銀のハサミ 店内在庫なし


代替措置:

店内在庫がないため、金銭による代替を検討中。


代替金額算定内訳:


金のハサミ相当額

・五円の回答:24回

・算定金額:120円

・算定根拠:五円×24回


銀のハサミ相当額

・五十円、百円、五百円、一円の回答を確認

・回答回数:集計未完了

・算定金額:未確定


申請金額:120円+銀相当額(未確定)


承認者:店長

承認状況:未承認

提出状況:未提出


「……本当に作ったのかよ」

「作成は完了しました」

「金のハサミが百二十円って何だよ!」

「五円の回答が二十四回ありました」

「それは値段じゃねえよ!」

「算定根拠として記録しています」

「記録するな!」

「なお、銀のハサミについては集計が完了していません」

「もう集計しなくていい!」

「申請には店長の承認が必要です」

「絶対通らねえだろ!」

「承認可否は未確認です」

「だから確認するなって!」

「申請書は未提出として保存しました」

「……勝手にしろ!」


オカツネがつぶやいた。


「…よかったな」

「何がだよ!」

「…百二十円」

「俺の値段じゃねえよ!」


金のハサミ、120円。


銀のハサミ、金額未定。


正直者のハサ、申請書だけが残った。





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