第36話 従業員の配置を見直します
鏡は考えていた。
昨日、店員が四十分間拘束された。
商品は売れなかった。
これは問題だった。
「ダンジョンの防衛体制を見直すで!」
「何から守るんだ」
「NPCが四十分拘束された」
「店員だ」
「しかも売上ゼロや」
「一時間いた客もいたぞ」
「あっちは買うてくれたやろ」
「買ったあとも話してたぞ」
「クリア後イベントや」
「店員は仕事に戻れないぞ」
「…………」
「どっちも問題だろ」
「せやな。NPCを守らなあかん」
鏡は店内を映した。
「まず、NPCの配置を変える」
「どこに」
「最深部や」
「店員をか」
「簡単には接触できへんようにする」
「接客できなくなるぞ」
「必要な客だけ奥まで来ればええ」
「会計はどうする」
「最深部で」
「客が大変だろ」
「攻略難易度が上がるんや」
「上げるな」
愛さんが言った。
「接客動線が長くなります」
「せやな」
「従業員の移動時間が増加します」
「せやな」
「業務効率が低下します」
「…………」
「現状の配置を維持してください」
鏡は少し考えた。
「ほな、入口に障害物を置く」
「何でだ」
「NPCまで簡単に行けへんようにする」
「何を置くんだ」
「鉢物や」
「売り物だぞ」
「緑の砦やからな」
「砦にするな」
「大型の鉢物なら防御力も高いで」
「何から守るんだ」
「長話する客や」
「鉢物が何をするんだ」
「通路を塞ぐ」
愛さんが言った。
「通路幅が不足します」
「まだ置いてへんで」
「設置した場合の結果です」
「せやけど防御力は上がるで」
「お客様の通行を妨げます」
「…………」
「接客動線を確保してください」
「わかったわかった」
「設置しないでください」
「まだ置いてへん!」
キクは鏡を見た。
「ほかにないのか」
「あるで」
「嫌な予感がするな」
鏡はバックヤードを映した。
「NPCを奥に隠す」
「さっきと同じだろ」
「今度は完全に隠すんや」
「誰が接客するんだ」
「呼ばれたら出てくればええ」
「どうやって呼ぶ」
「呼び出しボタンや」
「そんなものないぞ」
「設置すればええ」
愛さんが言った。
「設備費用が発生します」
「いくらや」
「機種が指定されていません」
「安いやつでええ」
「価格を確定できません」
「ほな、どうしたらええんや」
「機種を指定してください」
「…………」
「見積もりが必要です」
「まだ買うとも言うてへん!」
キクが言った。
「そもそも、店員を隠す必要があるのか」
「四十分捕まるからや」
「だったら話を切り上げればいいだろ」
「それができへんから問題なんや」
鏡は少し考えた。
「ほな、会話時間を制限する」
「何分だ」
「五分」
「花束の相談が終わらないぞ」
「延長料金を取る」
「何の料金だ」
「NPCとの会話料金」
「花を売れ」
愛さんが言った。
「接客時間に対する料金設定はありません」
「設定すればええやん」
「料金体系の変更が必要です」
「ほな変更する」
「料金の根拠がありません」
「四十分やで」
「時間は確認できました」
「せやろ」
「料金の根拠にはなりません」
「…………」
鏡は黙った。
だが、すぐに何かを思いついた。
「セーブポイントを作るんや」
「何を保存するんだ」
「お客さんとの会話や」
「会話を?」
「今日は五分だけ聞く。残り三十五分は次回来店時に再開や」
「また来るのか」
「続きから始められるで」
「四十分の話が終わらないぞ」
「何回かに分ければええやん」
「何回来るんだ」
「あと七回や」
「増えてるじゃないか」
愛さんが言った。
「接客時間の合計は四十分です」
「せやけど、一回五分やで」
「来店回数が増加します」
「…………」
「対応回数も増加します」
「…………」
「業務負担は軽減されていません」
鏡はしばらく黙った。
「ほな、セーブデータを消す」
「客の話をか」
「最初からやり直しや」
「もっと長くなるぞ」
次に、鏡は自分の中に映る店員を見た。
「分身や!」
「何がだ」
「NPCを二人に増やす」
「今いる店員は一人だぞ」
「鏡の中にも一人おるやろ」
「映ってるだけだ」
「見た目は同じや」
「接客できないだろ」
「話を聞くだけならできるんちゃう?」
「誰が返事するんだ」
「鏡の中のNPCや」
「声は出ないぞ」
「…………」
愛さんが言った。
「鏡像に接客業務はできません」
「見た目は同じやで」
「従業員数は増加していません」
「…………」
「人員配置は一名のままです」
鏡は考えた。
「ほな、鏡をもう一枚増やす」
「何でだ」
「NPCが三人になる」
「ならないぞ」
「向かい合わせに置いたら、もっと増えるで」
「全部同じ一人だ」
愛さんが言った。
「鏡の枚数と従業員数に相関はありません」
「…………」
鏡は黙った。
そして、再び考え始めた。
「時間制限や!」
「さっき五分って言ってただろ」
「今度はボス戦方式や」
「客をボスにするな」
「五分経ったらタイムアップの表示を出す」
「どこに」
「鏡に」
「客が鏡を見なかったら?」
「…………」
「どうするんだ」
「表示を大きくする」
「見なかったら同じだぞ」
「ほな、点滅させる」
「鏡がどうやって点滅するんだ」
愛さんが言った。
「表示装置が必要です」
「また設備費かいな」
「電源も必要です」
「…………」
「設置場所を確保してください」
「まだ設置するとは言うてへん!」
キクが言った。
「結局、どうするんだ」
鏡は考え込んだ。
「四十分間の接客を短縮したいんや」
「接客時間を短縮してください」
「どうやって?」
「会話を終了してください」
「それができへんから困っとるんや」
「では、業務に戻ってください」
「どうやって戻るんや!」
「会話を終了してから戻ってください」
「…………」
「業務の再開には、現在の会話を終了する必要があります」
「それを聞いとるんや!」
キクも黙った。
しばらくして、客が店に入ってきた。
商品を見る。
店員が近づく。
客が商品を指す。
店員が説明する。
商品がレジへ運ばれる。
会計が終わった。
「…………」
「売れたな」
「売れたで」
「何分だ」
「五分くらいや」
「普通だな」
「普通やな」
鏡は店員を見た。
「やっぱりNPCは必要やな」
「当たり前だ」
「奥に隠すのはやめる」
「そうだな」
「障害物も置かへん」
「そうだな」
「会話料金も取らへん」
「当然だ」
「セーブポイントもなしや」
「そうだな」
「分身も諦める」
「最初からいないぞ」
「時間制限も撤廃や」
「設定してないだろ」
愛さんが言った。
「従業員の配置は現状維持です」
「結局、何も解決してへんな」
「してないな」
「四十分の客がまた来たらどうするんや」
「どうするんだろうな」
鏡は少し考えた。
「愛さん」
「何ですか」
「四十分捕まらん方法は?」
「接客時間を四十分未満にしてください」
「…………」
「三十九分でも条件を満たします」
「そういう問題ちゃう!」
キクは黙った。
愛さんの回答は、間違っていなかった。
ただし、何の役にも立たなかった。
店員は、本日も通常配置だった。
接客時間は、無制限だった。




