↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花屋は本日も通常営業です  作者: 花束 ねる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/52

第35話 滞在時間は売上に含まれません



一人の客が店に入ってきた。


仏花を見る。

造花を見る。

プリザーブドフラワーを見る。

ハーバリウムを見る。

アレンジメントを見る。

ミニブーケを見る。

鉢物を見る。

季節商品を見る。

お買い得品を見る。


そのまま店を出ていった。


「…………」

「…………」

「三分」

鏡が言った。

「速いな」

「全部回ったぞ」

「回ったな」

「何しに来たんだ」

「見に来たんちゃう?」

「見てたか?」

「前は通ったで」

「それは見たのか?」

鏡も少し考えた。

「探索やな」

「何の」

「店内の」

「花屋だぞ」

「三分で全部回ったんや。高速探索やろ」

「何を探してたんだ」

「知らん」


客が回った店内には、商品が変わらず並んでいた。


仏花。

造花。

プリザーブドフラワー。

ハーバリウム。

アレンジメント。

ミニブーケ。

鉢物。

季節商品。

お買い得品。


「…………ずいぶん回ったな」

「せやろ」

鏡が言った。

「まず、祈りの間」

「どこだ」

「仏花」

「勝手に名前つけるな」

「次に、枯れない森」

「造花か」

「時の止まった花園」

「プリザーブドフラワー」

「瓶詰めの回廊」

「ハーバリウム」

「お前、楽しんでるだろ」

「ちょっとな」

「続けるのか」

「花彩の広間」

「アレンジメントか」

「手のひらの花園」

「ミニブーケ」

「緑の砦」


鉢物売場には、観葉植物が並んでいた。


「…………まあ、そこはわかる」

「季節限定区域」

「急に業務用語みたいになったな」

「季節商品や」

「知ってる」


最後は、お買い得品売場だった。


「掘り出し物の谷」

「谷なのか」

「そういう場所や」

「どういう場所だ」

「掘り出し物がある場所」

「そのままだな」

「その隣が幸運の宝物庫」

「何だそれ」

「おつとめ品とお値下げ品」

「急に縁起がいいな」

「見つけたら得やで」

「客目線なんだな」


客はもう店内にいなかった。


「でも三分で全部回ったで」

「何も買ってないぞ」

「探索だけやったんやろ」

「じゃあ踏破してないな」

「せやな」

「何だったんだ」

「観光客ちゃう?」

「花屋だぞ」

「観光して帰ったやん」


キクは黙った。


否定しきれなかった。


次の客は、ゆっくりしていた。


商品を見る。

一つ見る。

隣を見る。

また戻る。

値札を見る。


店員の方へ顔を向ける。


店員が近づいた。

客は商品を指し、説明を聞く。

また商品を見る。


「今度は見てるな」

「ちゃんと探索しとるな」

「さっきと違うな」

「情報収集も始まったで」

「攻略するのか?」

「どうやろな」


客はさらにしばらく商品を見た。

店員にもう一度確認する。


そして、何も持たずに店を出ていった。


「帰ったぞ」

「帰ったな」

「踏破は?」

「してへん」

「結構長かったぞ」

「偵察やろ」

「偵察?」

「下見や」


入口には、もう客の姿はなかった。


「また来るのか」

「たぶんな」

「じゃあ今日は?」

「情報収集して撤退」

「撤退って言うな」

「次回攻略や」

「予定なのか」

「知らん」

「知らないのか」

「客の予定までは知らん」

「急にまともだな」


しばらくして。


今度は二人の客が店の前で立ち止まった。


「二人来たぞ」

「来たな」


二人は向かい合った。

そのまま話し始めた。


一分。


三分。


五分。


「入ってこないな」

「まだ入口や」


十分。


「長いな」

「長いな」


十五分。


まだ話している。


キクが言った。

「いつ入ってくるんだ」

「入ってくるんかな」

「十五分いるぞ」

「おるな」


やがて二人は話を終えた。


そのまま歩いていった。


「…………」

キクが言った。

「帰ったぞ」

「帰ったな」

「一回も入ってないぞ」

「入口でイベント終わったんやろ」

「入場前イベント十五分?」

「長いな」

「邪魔はしてないけどな」

「してへんな」

「花も見てない」

「見てへんな」

「客だったのか?」


鏡も少し考えた。


「…………通行人ちゃう?」

「十五分も店の前にいたのに?」

「通行してへんな」

「じゃあ何だ」

「知らん」

「分類できないのか」

「ダンジョンにも入ってへんからな」

「ダンジョンじゃない」


次の客は、店に入ると一か所で止まった。


バラの前だった。


「…………」


バラも黙っていた。


客も動かない。


「…………」


一分。


二分。


三分。


キクが言った。

「見られてるぞ」

「…………そうだな」


鏡には、その様子が映っていた。


「ずっとバラの前やな」

「…………ああ」


五分。


まだ動かない。


「気に入られたんじゃないか」

「…………別に」

「五分だぞ」

「…………そうだな」

「買われるかもしれないぞ」

「…………知らん」

「ちょっと期待してるだろ」

「…………してない」


そこへ店員が近づいた。


客の顔が上がった。

すぐに店員の方を向いた。


「…………」


キクが言った。

「お前じゃなかったな」

「…………そうだな」

鏡が言った。

「NPC待ちやったんやな」

「店員をNPCにするな」

「…………」

「残念だったな」

「…………別に」

「五分も見られてたのに」

「…………見られてなかった」

「そうだな」

「…………」

「かなり残念そうだな」

「…………うるさい」


次の客は速かった。


店に入る。

迷わず目的の商品へ向かう。

手に取る。

そのままレジへ向かう。

会計が終わる。

店を出る。


「…………」

「一分もかかってないぞ」

鏡が言った。

「踏破したな」

「したな」

「最短踏破や」

「三分の客より短いぞ」

「でも買ったで」


少し間があった。


「探索は?」

「ほぼなし」

「寄り道は?」

「なし」

「目的の商品へ直行」

「会計して終了」

「…………きれいだな」

「きれいな攻略や」

「熟練者か」

「たぶんな」

「何の熟練者だ」

「花屋の」

「そんなものがあるのか」

「今おったやろ」

「いたな」


客はすでに店を出ていた。


「滞在時間、一分以下」

「最短踏破やな」

「強いな」

「強いな」


次の客は、最短とは程遠かった。


商品を見る。

店員に声をかける。

また商品を見る。

店員が商品を用意する。

さらに別の商品も見る。


しばらくして会計が終わった。


「踏破したな」

「したで」

「結構買ったな」

「ええ攻略や」


キクは、これで終わりだと思った。


ところが。


客は帰らなかった。


店員の前にいる。


十分。


「まだいるぞ」

「クリア後イベントやろ」


二十分。


「まだいる」

「イベント長めやな」


三十分。


「長すぎないか」

「大型イベントなんちゃう?」

「ずっと話してるだけだぞ」


四十分。


店員は、まだ話を聞いている。


「店員、ずっと捕まってないか」

「クリア後イベント中やからな」

「店員側のイベントなのか?」

「知らん」


五十分。


「まだ終わらないぞ」

「長編やな」

「本編より長いだろ」


一時間。


ようやく客が店を出ていった。


「…………」

「一時間」

「長かったな」

「でも買った」

「買ったな」

「踏破はしてる」

「しとる」


少し間があった。


「じゃあ、まあいいのか」

「クリア後イベント込みやな」

「一時間あるけどな」

「大作やったな」

「店員は大変そうだったぞ」

「せやな」


そして。


さらに別の客が店に入ってきた。


商品を少し見る。

店員の方を見る。

店員が近づいた。


客が店員と話し始めた。


「また探索か」

「始まったな」


五分。


まだ話している。


十分。


まだ話している。


二十分。


キクが言った。

「商品見てないぞ」

「見てへんな」


三十分。


「ずっと店員と話してるぞ」

「話しとるな」

「攻略は?」

「進んでへんな」


四十分。


商品は動かない。

レジにも向かわない。

店員だけが動けない。


「…………」

キクが言った。

「これ、何を攻略してるんだ」

「花ちゃうな」

「だよな」


やがて客は話を終えた。


何も買わずに、そのまま店を出ていった。


「…………」


店内が静かになった。


キクが言った。

「帰った」

「帰ったな」

「踏破は?」

「してへん」

「会計は?」

「してへん」

「商品は?」

「減ってへん」

「じゃあ今の四十分は何だったんだ」


ようやく解放された店員が、その場を離れた。


「…………店員か」

「四十分、店員だけ捕まっとったな」

「店員は商品じゃないぞ」

「せやな。持って帰れへん」

「当たり前だ」


少し間があった。


店内には、変わらず商品が並んでいた。


祈りの間。

枯れない森。

時の止まった花園。

瓶詰めの回廊。

花彩の広間。

手のひらの花園。

緑の砦。

季節限定区域。

掘り出し物の谷。

幸運の宝物庫。


キクが言った。

「こんなに持って帰れるものがあるのにな」

「いっぱいあるな」

「なんで店員のところで四十分止まるんだ」


鏡は少し考えた。


「隠しルートやと思ったんちゃう?」

「何の」

「NPCも持って帰れるルート」

「ない」

「四十分粘っとったで」

「ないものはない」


店員は、次の作業へ戻っていった。


「店員を攻略するな」

「攻略対象外やな」

「最初からそう言ってる」


鏡が店内を映した。


今日も祈りの間には仏花があり、枯れない森には造花があり、時の止まった花園にはプリザーブドフラワーが並んでいる。


そして。


店員は、本日も非売品だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。