↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花屋は本日も通常営業です  作者: 花束 ねる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/50

第32話 採用理由は開示されません


仏花売場には、コロナの入った仏花が4束残っていた。


赤と黄色のバイカラー。


久留米ケイトウ、品種名「コロナ」。


そのうちの一本が、隣の仏花に声をかけた。


「先輩、聞きました!?」

「何をだ」

「昨日、うちのコロナが採用されたんですよ!」

「売れたな」

「やっぱり個性って大事ですね!」

「そうか」

「同じ品種ですから、俺もいけますよね!」

「知らん」


隣の仏花には、真っ赤なサカタプライドが入っていた。


昨日売れたサカタプライドとは、別の一本だった。


「先輩も昨日、売れたらしいですね」

「俺じゃないぞ」

「同じサカタプライドじゃないですか!」

「別の一本だ」

「細かいですね!」

「大事なことだ」


コロナは、昨日の販売実績について話し続けた。


「つまり、うちの品種には実績があるんですよ!」

「そうだな」

「実績があるってことは、需要が証明されたってことです!」

「一束だぞ」

「最初の一束が大事なんです!」

「そうか」

「これからはバイカラーの時代ですよ!」

「昨日も聞いたな」

「昨日の俺じゃありません!」


そこへ、客が仏花売場に立ち寄った。


並んだ束を見比べる。


「来ました!」

「おう」

「昨日の実績がありますからね!」

「客は知らんぞ」

「実績は裏切りません!」


客は白い花の多い仏花を手に取った。


そのまま会計台へ向かった。


「………先輩」

「なんだ」

「今の客、俺を見ました?」

「見てないな」

「書類選考すらありませんでした!」

「書類はないぞ」


レジに商品が登録された。


【仏花 1点】


【会計を終了しました】


コロナの入った仏花は、売場に残っていた。


しばらくして、別の客が立ち寄った。


今度はコロナの入った束を手に取る。


「来た!」

「おう」

「今回は面接まで進みました!」

「まだ分からんぞ」

「昨日の先輩と同じ流れです!」

「そうだな」


客は赤と黄色の花冠を見た。


値札を確認した。


隣の仏花と見比べた。


そして、コロナの入った束を戻した。


「………先輩」

「なんだ」

「面接、終わりました?」

「終わったな」

「結果は?」

「戻されたぞ」

「不採用!?」

「そうだな」

「理由は!?」

「知らん」


コロナは、隣の仏花に入ったキクに声をかけた。


「キクさん!」

「おう」

「昨日は売れたんですよ!」

「おう」

「同じ品種なんですよ!」

「おう」

「なのに、今日は売れないんです!」

「そうだな」

「何が違うんですか!?」

「客だな」

「………客?」

「昨日と今日では、買いに来た客が違う」

「それだけですか?」

「おう」

「俺たちは同じコロナですよ!」

「客は同じじゃない」

「………」


コロナは、仏花売場の左前方にある鏡に声をかけた。


「鏡さん!」

「なんや」

「昨日のコロナと俺、何が違います?」

「昨日のはもうおらんで」

「同じ品種ですよ!」

「せやな」

「赤と黄色ですよ!」

「見えとる」

「天然のメッシュですよ!」

「それも昨日聞いたわ」

「じゃあ、なんで俺は売れないんですか!?」

「知らんがな!」


鏡には、赤と黄色の花冠が映っていた。


「………もしかして、昨日のコロナの方が綺麗だったんですか?」

「比べようがないやろ」

「俺だって綺麗ですよね?」

「派手やな」

「それ、褒めてます?」

「見たままや」

「俺、何か欠点あります?」

「脳みそに見えることか?」

「それは言わないでください!」


キクが口を挟んだ。


「おう。花は綺麗でも、客が必要とするとは限らん」

「でも、昨日は必要とされたんですよ!」

「昨日の客にはな」

「じゃあ、今日の客には?」

「分からん」

「明日の客には?」

「分からん」

「いつになったら分かるんですか!?」

「売れたときだ」

「売れる前に知りたいんですよ!」


サカタプライドが答えた。


「必要なときに選ばれる」

「先輩、それ昨日も言ってませんでした?」

「俺じゃないぞ」

「………そうでした」

「おう」

「じゃあ、その必要なときって、いつですか?」

「知らん」

「先輩まで!」


午後になった。


仏花売場では、何束かの商品が売れていった。


コロナの入った束は、まだ残っていた。


「先輩」

「なんだ」

「俺、昨日のコロナと同じなんですよね」

「同じ品種だ」

「同じように作られた仏花ですよね」

「そうだな」

「じゃあ、昨日の採用理由を教えてもらえませんか?」

「俺は知らん」

「キクさんは?」

「知らん」

「鏡さんは?」

「知るかい!」


コロナは黙った。


閉店時刻になった。


売場に残った仏花は、店員によって水を替えられた。


赤と黄色の花冠は、まだ鮮やかだった。


「………先輩」

「なんだ」

「明日も面接、ありますよね?」

「客が来ればな」

「明日は採用されますよね?」

「知らん」

「………そうですよね」


翌朝。


店員が仏花の状態を確認した。


昨日よりも、花冠の縁がわずかに乾いていた。


「………先輩」

「なんだ」

「俺、昨日より経験豊富になりましたよね?」

「そうだな」

「面接も受けましたし」

「受けたな」

「実績もありますし」

「売れてないぞ」

「………」


レジには、昨日の販売記録が残っていた。


【昨日の仏花販売明細】

3,500円 1点 3,500円

2,500円 1点 2,500円

1,800円 2点 3,600円

1,000円 5点 5,000円

800円 8点 6,400円

600円 10点 6,000円

500円 9点 4,500円

販売点数 36点

売上金額 31,500円


なお、上記36点に、このコロナは含まれていなかった。


採用理由も不採用理由も、開示されなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。