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花屋は本日も通常営業です  作者: 花束 ねる


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第31話 内定は取り消されました


2022年8月。


仏花売場に、新しいケイトウが配属された。


赤い花冠に、鮮やかな黄色の模様。


久留米ケイトウ、品種名「コロナ」。


コロナを一本ずつ組み込んだ仏花が、5束作られていた。


「先輩、見てください! この色!」

「おう」

「赤と黄色のバイカラーですよ!」

「そうだな」

「今どき単色って、ちょっと古くないですか?」

「そうか?」

「個性の時代ですよ、個性!」

「おう」


隣に並ぶのは、真っ赤な久留米ケイトウ、サカタプライド。


同じ久留米ケイトウだが、こちらは赤一色だった。


「先輩って、ずっと赤一色なんですか?」

「そうだ」

「イメチェンとか考えないんですか?」

「考えたことないな」

「もったいないですよ!」

「そうか」

「俺なんて、生まれたときからバイカラーですから!」

「そうだな」

「天然のメッシュですよ!」

「知ってる」


仏花の中でもケイトウの赤は目を引いた。なかでも赤と黄色が入り交じるコロナの花冠は、ひときわ異彩を放っていた。


「俺、絶対売れると思うんですよね」

「そうか」

「だって目立つじゃないですか」

「目立つな」

「目立つってことは、需要があるってことですよ!」

「そうとは限らんぞ」

「先輩、考え方が古いです!」


そこへ、客が仏花売場に立ち寄った。


並んだ仏花を見比べ、コロナの入った束を手に取る。


「来た!」

「おう」

「見ました!?」

「見たぞ」

「俺、選ばれました!」

「まだ会計してないぞ」

「内定ですよ、内定!」


客はまだ、コロナの入った束を手にしていた。


「いやー、やっぱり個性って大事ですね!」

「そうだな」

「短い間でしたけど、お世話になりました!」

「まだ売れてないぞ」

「先輩も、もうちょっと自分をアップデートした方がいいですよ!」

「そうか」

「じゃ、先に行ってます!」

「どこへだ」

「新しい職場です!」


客は束を少し傾けた。


赤と黄色の花冠を近くで見た。


値札を確認した。


そして、元の場所へ戻した。


コロナは黙った。


「………先輩」

「なんだ」

「今、何が起きました?」

「戻されたな」

「え?」

「戻された」

「………内定は?」

「出てないぞ」

「でも、手に取られましたよね?」

「取られたな」

「それって、一次面接通過じゃないんですか?」

「知らん」


客は隣の仏花へ目を移した。


真っ赤なサカタプライドの入った束を手に取る。


そのまま会計台へ向かった。


「………先輩」

「おう」

「そちら、採用されたみたいです」

「そうだな」

「俺の方が二色あるのに」

「そうだな」

「先輩、一色ですよね?」

「そうだ」

「それって、個性としてどうなんですか?」

「俺は赤だ」

「………それだけですか?」

「それだけだ」


レジに商品が登録された。


【仏花 1点】


【会計を終了しました】


サカタプライドは店員に持ち上げられた。


「じゃあな」

「………お疲れさまでした」


真っ赤な花冠が、客とともに売場から去っていった。


コロナは、隣の仏花に入ったキクに声をかけた。


「………キクさん」

「おう」

「俺、何が駄目だったんですかね」

「知らん」

「キクさんまで!」

「客が何を考えたかは分からん」


「じゃあ、何か心当たりは?」

「おう。色だな」

「色!?」

「仏花は、色を控えたい客もいる」

「………控える?」

「亡くなって間もない人に供えるときは、白や淡い色を選ぶことがある」

「じゃあ、俺は?」

「派手だな」

「でも先輩、真っ赤でしたよ!?」

「おう」

「赤はいいんですか!?」

「赤を避ける客もいる」

「じゃあ、なんで先輩が売れたんですか!」

「その客が選んだからだ」

「………」

「供える相手も、選ぶ理由も客によって違う」

「じゃあ、俺が選ばれなかった理由は?」

「知らん」

「結局そこですか!」

「客に聞かなきゃ分からん」

「でも、俺の方が綺麗なのに!」

「それはお前の意見だ」

「………」


コロナは黙った。


しばらくして、コロナは仏花売場の左前方にある鏡に声をかけた。


「鏡さん!」

「なんや」

「ちょっと自己分析に付き合ってください!」

「なんでやねん」

「俺、さっき不採用になったんですよ」

「見とったで」

「原因を分析したいんです!」

「自分でやり」

「客観的なフィードバックが欲しいんです!」

「俺は鏡やで」

「だから客観的じゃないですか!」

「映しとるだけや!」


「まず、俺の見た目どうですか?」

「派手やな」

「おしゃれですよね?」

「派手や」

「天然のメッシュですよ!」

「見えとる」

「赤と黄色ですよ!」

「知っとる」

「先輩より目立ちますよね?」

「目立つな」

「なのに、先輩が採用されたんです!」

「そういうこともあるやろ」

「納得できません!」


鏡には、コロナの赤と黄色の花冠が映っていた。


「………もしかして、黄色が多すぎます?」

「知らんがな」

「赤だけの方がいいんでしょうか」

「人によるやろ」

「じゃあ、形ですか?」

「形?」

「俺、ちょっと丸すぎます?」

「ケイトウやろ」

「………脳みそみたいですか?」

「誰が言うたんや」

「生産者さんが言ってました」

「作った本人が言うたんかい!」


コロナは黙った。


鏡には、先ほどと同じ花冠が映っていた。


「………先輩は、脳みそに見えませんでしたか?」

「同じ久留米ケイトウやろ」

「でも、先輩は真っ赤でした」

「せやな」

「赤い脳みそなら、いいんですか?」

「何の話になっとるんや!」


キクが口を挟んだ。


「おう。鶏のトサカだろ」

「………トサカ?」

「ケイトウだからな」

「そうですよね!」

「おう」

「脳みそじゃないですよね!」

「おう」

「よかった!」


キクは、それ以上何も言わなかった。


「俺はトサカです!」

「おう」

「赤と黄色のおしゃれなトサカです!」

「そうだな」


鏡が、ぼそりと言った。


「………でも、脳みそ言われたら、そうも見えるな」

「鏡さん!」

「自分で言い出したんやろ!」


しばらく、会話が途切れた。


「………俺、名前も悪いんでしょうか」

「名前?」

「コロナです」


キクが黙った。


鏡も黙った。


「………あれ?」

「おう」

「何ですか、その沈黙」

「………おう」

「名前まで駄目ですか!?」

「いや、別に」

「俺は花ですよ!」

「おう」

「久留米ケイトウです!」

「おう」

「ちゃんとした品種名なんですよ!」


売場の値札には、品種名の記載はなかった。


「名前も色も、俺が決めたわけじゃありません!」


鏡は少し考えた。


「………せやな」

「そうでしょう!」

「そもそも客は名前なんか知らんやろ」

「………え?」

「品種名、売場に書いてへんやん」


コロナは黙った。


「じゃあ、名前は関係ない?」

「たぶんな」

「じゃあ、やっぱり脳みそですか?」

「なんでそこに戻るねん!」


そのとき、別の客が仏花売場に立ち寄った。


並んだ束を見比べる。


コロナの入った仏花の前で足を止めた。


「………来ました」

「来たな」

「今度は余計なこと言いません」

「それがええ」

「ありのままの自分で勝負します」

「さっきからそうやろ」


客は束を手に取った。


赤と黄色の花冠を見た。


値札を確認した。


そのまま会計台へ向かった。


レジに商品が登録された。


【仏花 1点】


代金が支払われた。


【会計を終了しました】


「採用だ!!」

「おう」

「見ましたか!」

「見たで」

「やっぱり俺の個性は評価されたんです!」

「そうか」

「メッシュの時代ですよ!」

「せやな」

「先輩にも教えてあげないと!」

「もう売られていったで」

「そうでした!」


会計台には、コロナの入った仏花が置かれていた。


「俺は、赤と黄色のコロナです!」


店員が仏花を持ち上げる。


コロナは、最後に売場へ向かって叫んだ。


「先輩に伝えてください! 俺も採用されました!」


鏡が答えた。


「分かったから、静かに売られていき!」


仏花売場には、コロナの入った仏花が、まだ4束残っていた。


なお、購入した客は最後まで品種名を知らなかった。





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