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花屋は本日も通常営業です  作者: 花束 ねる


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3/52

第3話 カーネーションは掛け持ちです

 朝。


「おはようございます。本日の配置を伝達します」

「キク。仏花」

「おう」

「ガーベラ。カジュアルフラワー」

「はーい」

「バラ。アレンジメント」

「了解」

「カーネーション。仏花」

「はーい」

「パキラ。配置変更なし」

「固定配置」

「はい」

「以上です」

「……あれ?」

 バケツから、カーネーションが声を上げた。

「愛さん」

「はい」

「今日、私たち仏花だけ?」

「はい」

「掛け持ちなし?」

「はい」

「やった!」

 カーネーションがガーベラを見る。

「聞いた? 仏花だけ!」

「よかったねー」

「今日は一か所!」

「そんなに嬉しい?」

「仏花だよ?」

「そうだけど」

 カーネーションがキクを見る。

「キクさん見てよ。朝から仏花一本。迷いなし」

「おう」

「いいなあ」

「おう」

「配置は随時変更されます」

「聞かなかったことにする」

「はい」



 店が開いた。

 しばらくして、カジュアルフラワーがいくつか売れた。

「いってきまーす!」

「いってらっしゃーい!」

 客が商品を手に店を離れた。

 カーネーションが売場を見る。

「ガーベラ、人気だね」

「でしょー」

「カーネーション」

「はい」

「配置変更です」

「……早くない?」

「カジュアルフラワーへ追加配置します」

「愛さん」

「はい」

「さっき掛け持ちなしって言ったよね?」

「はい」

「仏花は?」

「継続です」

「変更じゃないじゃん!」

「変更です」

「増えてるじゃん!」

「配置先が一か所から二か所に変更されています」

「それを掛け持ちって言うの!」

「はい」

「知ってるじゃん!」

「はい」

「なんか腹立つ!」



 店員がバケツから、何本かのカーネーションを抜いた。

「カジュアル行ってくるねー」

「頑張ってー!」

 抜かれたカーネーションは、ガーベラとともにカジュアルフラワーに使用された。

「いらっしゃーい」

 ガーベラが声をかけた。

 バケツのカーネーションが売場を見る。

「楽しそう」

「こっちも来る?」

「私は仏花!」

「掛け持ちでしょ」

「そうだった!」



 昼前。


「カーネーション」

「はい」

「予約が入りました」

「予約?」

「はい」

「3,000円のアレンジメント一つ、1,500円のアレンジメント二つです」

「へえ」

「カーネーションを使用します」

「私たち!?」

「はい」

「やった!」

「予約アレンジメントへ追加配置します」

「また増えるの?」

「はい」

「仏花は?」

「継続です」

「カジュアルは?」

「継続です」

「…………」

「配置先は三か所です」

「掛け持ち増えてるじゃん!」

「はい」

「使われるのは嬉しいけど!」

「はい」

「掛け持ち増やせとは言ってないの!」

「はい」

「なんか腹立つ!」

「正確に応答しています」

「それ!」

「それで、今日の私たち、どこ所属なの?」

「仏花、カジュアルフラワー、予約アレンジメントです」

「全部じゃん!」

「カーネーションには、ほかにも使用先があります」

「……まだあるの?」

「はい」

「じゃあ聞く」

「ミニブーケ」

「うん」

「花束」

「うん」

「スタンド花」

「……うん」

「お供えアレンジメント」

「まだあるの?」

「洋風のお供えアレンジメント」

「戻ってきた!?」

「その他――」

「もういい!」

「説明を終了します」

「そうして!」



 店員がバケツから、何本かのカーネーションを抜いた。

「予約アレンジ行ってくるねー」

「頑張ってー!」

 抜かれたカーネーションは、バラとともに予約アレンジメントに使用された。

 バケツのカーネーションが周りを見る。

「また行った」

「はい」

「順調、順調」

「はい」

「……愛さん、ずっと聞いてるね」

「はい」



 午後。


 パキラが葉を揺らした。

「忙しいね」

「ほんとよ!」

「大変だね」

「そっちはいいよね」

「俺、鉢物だから」

「今日一回も動いてないじゃん!」

「固定配置」

「黙れ在庫!」

「在庫です」

 愛さんが言った。

「ほら!」

「固定配置」

「売れ残りでしょ」

「固定配置」

「長期在庫」

「固定配置」

 カーネーションがパキラを見る。

「……廃棄?」

「おい」

「商品状態は、廃棄対象ではありません」

 愛さんが言った。

「ほら、違う」

 パキラが言った。

 カーネーションが笑った。

「今は、ね」

「おい」

「大丈夫、大丈夫。明日は売れるかもしれないから」

「お前もまだいるだろ」

「私たちは忙しいの!」

「お前は?」

「私もカーネーション!」

「そこじゃない」



 しばらくして、仏花が売れた。

「いってきます」

「おう」

「いってらっしゃーい!」

 客が仏花を手に店を離れた。

 バケツのカーネーションが売場を見る。

「いいなあ」

「何が?」

 パキラが言った。

「次、私かな」

「お前、行きたいの?」

「当たり前でしょ」

「そう」

 カーネーションが仏花売場を見る。

「キクさん、朝からどんどん行ってるじゃん」

「そうだね」

「しかも仏花」

「うん」

「私もすぐじゃん」

「順番だからね」

「そう! 順番だから!」



 少しして、カジュアルフラワーが売れた。

「いってきまーす!」

「いってらっしゃーい!」

 客が商品を手に店を離れた。

「また行った」

「嬉しそうだね」

「そりゃそうでしょ」

 カーネーションが売場を見る。

「カーネーション、大人気」

「まだ結構いる」

「商品になってるの!」

「店にはいる」

「仕事してるの!」

「お前も?」

「私もこれから!」

「朝から言ってるね」

「黙れ在庫!」



 夕方。


 予約アレンジメントの一つを、客が受け取りに来た。

「いってきまーす!」

「いってらっしゃーい!」

 客がアレンジメントを手に店を離れた。

 カーネーションがその様子を見る。

「……行った」

「行ったね」

 パキラが言った。

「作られて、すぐ行った」

「予約だからね」

「……」

「何?」

「仏花は?」

「売れるまでいるね」

「カジュアルは?」

「売れるまでいるね」

「予約は?」

「取りに来るね」

「…………」

「何?」

「それ、指名じゃん」

「そうとも言うね」

「…………」

「何?」

 パキラが言った。

「予約、いいじゃん!!」

「さっきまで知らなかったじゃん」

「今知った!!」

「そう」

「私も予約がいい!!」

「もう好きになったの?」

「だって指名でしょ?」

「そうだね」

「作られたら迎えに来るんでしょ?」

「そうだね」

「…………」

「何?」

「最高じゃん」

「そう」

「次、私かな」

「どうだろうね」

「来るでしょ!」

「そう」

「その反応やめて!」



 残りの予約分の製作も終わった。

「カーネーション」

「はい! 予約!?」

「配置変更です」

「予約!?」

「予約分の製作が完了したため、予約アレンジメントへの配置を終了します」

「…………」

「終わったって」

 パキラが言った。

「……予約?」

「終了です」

「私、まだ行ってないんだけど」

「はい」

「予約、もうないの?」

「現在はありません」

「…………」

「仏花は継続です」

「うん」

「カジュアルフラワーも継続です」

「うん」

「配置先は二か所です」

「掛け持ち減った」

「はい」

「…………」

「よかったね」

 パキラが言った。

「よくない」

「朝は一か所がいいって言ってたじゃん」

「予約は別!」

「掛け持ちでしょ」

「予約は指名なの!」

「今日知ったくせに」

「知ったから言ってんの!」

「そう」

「で、私の指名は?」

「ないね」

「なんで!?」

「知らない」

「愛さん!」

「はい」

「なんで私には指名が来ないの!?」

「回答できません」

「役に立たない!」

「はい」

「そこは否定して!」

「カーネーション」

「何!?」

「仏花が不足しています」

「……!」

「追加でカーネーションを使用します」

「ほら! 出番きた!」

「複数本使用します」

「よし!」

「今度こそ私!」

「そう」

 パキラが言った。

「何その反応!」

 


仏花の補充が一段落した。

「結局、今日ずっと掛け持ちだったね、私たち」

「そうだね」

「人気者だからね」

「自分で言うんだ」

「まあね」

「嬉しそう」

「今日ずっと呼ばれてるからね」

「そう」

「パキラには分かんないよ」

「俺、鉢物だから」

「便利だね、その言葉」



 閉店時刻になった。


「本日の営業を終了します」

 カーネーションが売場を見る。

 仏花にも、カジュアルフラワーにも、カーネーションが使用されていた。

「愛さん」

「はい」

「今日、何人使われた?」

「本日のカーネーション使用本数は五十九本です」

「五十九人!?」

「……何人いたの?」

「入荷数は六十本です」

「六十人!?」

「はい」

「ほぼ全員じゃん!」

「はい」

「やっぱり人気者」

「お前は?」

 パキラが言った。

「……」

「お前は?」

「……愛さん」

「はい」

「私の予定は?」

「本日の予定は終了しました」

「……」

「今日?」

「はい」

「もう閉店?」

「はい」

「…………」

「ぷっ」

 パキラが笑った。

「笑った!?」

「笑ってない」

「今ぷって言った!」

「言ってない」

「言った!」

「在庫」

「言うな!」

「売れ残り」

「それ私が言ったやつ!」

「長期在庫」

「まだ一日!」

「……廃棄?」

「それも私が言ったやつ!」

「商品状態は、廃棄対象ではありません」

 愛さんが言った。

「ほら」

 パキラが言った。

「今は、ね」

「おい」

「大丈夫、大丈夫。明日は売れるかもしれないから」

「…………」

「誰かさんが言ってた」

「忘れて」

「無理」



 今日、カーネーションたちは忙しかった。



 ――この一本を除いて。





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