第2話 キクは今日もいる
朝。
「おはようございます。本日の配置を伝達します」
「キク。仏花」
「おう」
「おう」
「おう」
並んだキクたちから、返事がした。
「パキラ。鉢物売場」
「はーい」
パキラが葉を揺らした。
「今日も多いね、キクさん」
「……」
「何人いるの?」
「知らん」
「自分たちのことなのに?」
「おう」
「愛さん」
「はい」
「今日、キクさん何人いるの?」
「本日の入荷は150本です」
「150!?」
「はい」
パキラが仏花売場を見る。
「……そんなにいるの?」
「おう」
「おう」
「おう」
「おう」
「全員返事しなくていいよ!」
店が開いた。
しばらくして、客が仏花を三束まとめて手に取った。
「俺たちだ」
「私も」
カーネーションが言った。
「いってらっしゃーい!」
作業台から輪ゴムが声を上げた。
「おう」
「おう」
「おう」
「おう」
「おう」
何本ものキクが、カーネーションやほかの花たちと一緒に店を出ていった。
パキラが仏花売場を見る。
「一気にいったね」
「おう」
「……まだいる」
「おう」
昼前。
店員が仏花を補充した。
「増えた」
「おう」
「さっき減ったのに」
「おう」
「また増えたね?」
「おう」
「減ってるの?」
「減ってる」
「増えてるの?」
「増えてる」
「どっち?」
「両方だ」
「……そう」
パキラが新しく並んだキクを見る。
「あれ?」
「おう」
「キクさん、なんか変わった?」
「何が」
「……痩せた?」
「痩せてない」
「朝よりちっちゃくない?」
「知らん」
「愛さん」
「はい」
「キクさん、痩せた?」
「別の個体です」
「……別人?」
「はい」
パキラがキクを見る。
「じゃあ、朝そこにいたキクさんは?」
「知らん」
「愛さん」
「午前10時21分に販売されています」
「そんな正確に分かるの?」
「はい」
「もういないの?」
「はい」
パキラが目の前のキクを見る。
「キクさん」
「おう」
「朝のキクさん、もういないって」
「おう」
「じゃあ、キクさんは?」
「いる」
「……いるね」
午後。
また客が仏花を手に取った
「俺たちだ」
「いってらっしゃーい!」
作業台から輪ゴムが声を上げた。
「おう」
「おう」
何本かのキクが、ほかの花たちと一緒に店を出ていった。
しばらくして、店員が仏花を補充した。
「おう」
「おう」
「おう」
パキラが仏花売場を見る。
「……あれ?」
「おう」
「今、結構いったよね?」
「いったな」
「朝から何回もいったよね?」
「……」
「なのに、朝とあんまり変わってなくない?」
「知らん」
「愛さん」
「はい」
「今日、仏花売れてる?」
「売れています」
「ちゃんと?」
「はい」
「でも、キクさん全然減ってないんだけど」
「補充されています」
「それは見てた」
「はい」
「……じゃあ、ずっと入れ替わってるの?」
「はい」
パキラがキクを見る。
「キクさん」
「おう」
「さっきいた?」
「いない」
「……また別人?」
「おう」
パキラが仏花売場を見渡した。
「こんなに売れてるのに」
「おう」
「……まだいる」
「おう」
パキラが葉を揺らした。
「キクさんって、いついなくなるの?」
「俺はそのうちいなくなる」
「そうじゃなくて」
「おう」
「朝からずっと、そのうちいなくなってるじゃん」
「……」
「なのに、ずっといるじゃん」
「……」
「……何なの?」
「キクだ」
「それは知ってる」
閉店時刻になった。
パキラは朝と同じ場所にいた。
仏花売場にも、キクがいた。
「キクさん」
「おう」
「……まだいるね」
「おう」
――キクは今日もいる。




