第28話 (-灬-)✂
作業台の上に、花バサミが置かれていた。
黒い柄。
長く使われた刃には、何度も研がれた跡が残っている。
花バサミのオカツネ。
店にある道具の中でも、かなり古い。
「(-灬-)✂」
隣に置かれたハサが声をかけた。
「じいさん」
「…なんだ」
「いつからいるんだ」
「…知らん」
「覚えてねえのかよ」
「(-灬-)✂」
ハサが言った。
「俺が来た時には、もういたもんな」
「…そうだな」
「何年いるんだよ」
「…知らん」
ドライフラワーのアレンジメントコーナーから声がした。
カスミ草、スターチス、染めカスミ草、バラで作られたアレンジメントだ。
「あら〜、そんなに長いのね〜゜」
「あらあら〜゜」
「知らなかったわ〜♪゜」
「んだな〜゜」
「じいさま、すげえな〜゜」
「俺らとは桁が違うな゜」
ハサが言った。
「ほんと興味ねえな」
「…ないな」
店員が作業台へ来た。
花バサミを手に取る。
入荷した花の茎を刃に挟む。
ガッ。
刃が途中で止まった。
もう一度、力が入る。
ガッ。
茎が切れた。
ハサが言った。
「じいさん」
「…なんだ」
「鈍ってんぞ」
「…切れた」
「二回かかってんだろ」
次の一本。
ガッ。
やはり一度では切れない。
もう一度。
ガッ。
切れた。
「…まだいける」
「どこまでいく気だよ」
「(-灬-)✂」
次の一本。
ガッ。
ハサが言った。
「じいさん」
「…なんだ」
「そろそろ研ぎだろ」
「…まだ切れる」
「二回でな」
「…切れてる」
「そこ譲らねえな」
店員が花バサミの刃を確認した。
ドライフラワーのアレンジメントコーナーから声がした。
「あら、おじいさま、今日は切りにくそうね〜゜」
「あらあら〜゜」
「ちょっと大変そうね〜♪゜」
「んだな〜゜」
「じいさまも年だからな〜゜」
「まだやるつもりか゜」
「…まだいける」
ハサが言った。
「まだ言ってんのかよ」
愛さんが告げた。
「研ぎに出します」
ハサが言った。
「じいさん、研ぎか」
「…ああ」
「久しぶりだな」
「…そうだな」
店員が花バサミを手に持ち、作業台を離れた。
ドライフラワーのアレンジメントコーナーから声がした。
「あら、おじいさま行っちゃったわね〜゜」
「あらあら〜゜」
「どこ行くのかしら〜♪゜」
「んだな〜゜」
「じいさま、帰ってくんのけ〜゜」
「そのうち戻るだろ゜」
一時間ほどして。
花バサミが作業台へ戻ってきた。
黒い柄。
長く使われた跡も、そのまま残っている。
刃だけが研ぎ直されていた。
店員が花バサミを手に取る。
キクの茎を刃に挟む。
スパッ。
一度で切れた。
「(°灬°)✂」
キクが切り口を見る。
「研ぐと違うな」
次の一本。
スパッ。
その次も。
スパッ。
ドライフラワーのアレンジメントコーナーから声がした。
「あら〜゜」
「あらあら〜゜」
「よく切れるわね〜♪゜」
「んだな〜゜」
「じいさま、すごいな〜゜」
「さっきとは別物だな゜」
店員が次のキクを手に取った。
刃が茎に入る。
スパッ。
「あ」
キクが声を上げた。
店員の手が止まった。
切る予定だった位置より、少し上だった。
キクが切り口を見る。
「じいさん」
「…なんだ」
「そこまで切れとは言ってねえぞ」
「…切れた」
「切れたじゃねえよ」
「(°灬°)✂」
ドライフラワーのアレンジメントコーナーから声がした。
「あら〜゜」
「あらあら〜゜」
「切れすぎちゃったわね〜♪゜」
「んだな〜゜」
「じいさま、元気になったな〜゜」
「元気で済むのか゜」
店員が切り口を確認する。
少し短くなったキクは、そのまま別の束へ回された。
作業はそのまま続いた。
スパッ。
スパッ。
スパッ。
やがて、切る花がなくなった。
店員が花バサミを作業台へ戻す。
刃が閉じる。
ハサが隣に置かれた。
「じいさん」
「…なんだ」
「もう終わりだぞ」
「(°灬°)✂」
少し間があいた。
「まだ切りたいのか」
「…………そうだな」
「もう切るもんねえぞ」
「(´灬`)✂」




