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花屋は本日も通常営業です  作者: 花束 ねる


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第25話 どこにでも使用できます


 バケツに、黄色いひまわりが入っていた。


 その隣に、店員が濃い緑色の葉物が入ったバケツを置いた。


「誰だお前!」

「我は、レザーファン」

「葉っぱか!?」

「然り」

「でかいな!」

「うちわくらいだろう」


 少し離れたバケツから、ケイトウが言った。


「俺の葉っぱよりでかい!」

「我と比べるな」

「でもでかいぞ!」

「然り」

「それに、なんか偉そうだな!」

「我は我である」

「我って言ったぞ!」

「然り」

「葉っぱなのに我なのか!?」

「葉であることと、何の関係がある」

「やっぱり偉そうだな!」

「我は、花より先に在り」

「…………花より先?」

「然り」

「俺より?」

「古い」

「この店より?」

「古い」

「人間より?」

「古い」


 ひまわりの声が少し小さくなった。


「人間がいない頃から?」

「然り」

「…………じゃあ、誰が花屋やってたんだ!?」

「花屋はなかった」

「…………ややこしいな!!」

「我が属する系譜の話だ」

「お前がずっといたわけじゃないのか!?」

「然り」

「じゃあ、お前は古くないのか!?」

「然り」


 店員がレザーファンを1本抜いた。


「呼ばれたぞ!」

「我が必要か」


 レザーファンが作業台へ運ばれる。


「よかろう」


 店員が花を束ねる。


 その後ろに、レザーファンが添えられた。


 ひまわりが声を落とした。


「…………後ろなのか?」

「然り」

「そんなに昔からいるのに?」

「我は葉だ」

「……そうだな?」

「花を支える。それが我の役目だ」

「後ろでいいのか?」

「我が必要なのは、ここだ」


 店員が花束を持ち上げた。


 レザーファンは花の後ろに添えられたまま、ラッピングの中へ収まっていく。


「偉そうなのに後ろで働くんだな!」


 少し離れたバケツから、ケイトウが言った。


「感心するところなのか」


 しばらくして、また別のレザーファンがバケツから抜かれた。


「また呼ばれたぞ!」

「我が必要か。よかろう」


 さらに1本。


「まただ!」

「我が必要か。よかろう」


 さらに1本。


「まただぞ!」

「我が必要か。よかろう」

「すごく働くじゃないか!」

「我は必要とされている」

「それだけか?」

「それ以上に、何が要る」


「愛さん!」


 ひまわりが呼んだ。


「はい」

「こいつ、どんな葉っぱなんだ!?」

「レザーファンはシダ植物の葉物です。濃い緑色で艶があり、全体は三角形に広がります」

「おお!」

「葉には細かな切れ込みがあり、1枚でもボリュームがあります」

「おお!」

「花束の後ろに添えたり、アレンジメントでは必要な大きさに切り分けたりして使用します」

「切り分ける!?」

「はい」

「他には!?」

「スタンド花では、花の周囲に添えたり、吸水性スポンジを隠すためにも使用されます」

「隠す!?」

「はい」

「前には出ないのか!?」

「基本的には、花を引き立てるために使用します」

「こんなに偉そうなのに!?」

「関係ありません」

「いろんなところで働けるのか!?」

「用途は広いです」

「働けるじゃないか!」


 ケイトウが言った。


「その言い方はどうなんだ」

「我が必要か。よかろう」

「本人も働く気だぞ!」

「感心するところなのか」

「愛さん! 他に何かあるのか!?」

「花言葉には、魅力、魅惑、順応性などがあります」

「魅力! 魅惑! 順応性!!」

「何をそんなに喜んでるんだ」

「いろんなところで働ける魅力がある! 魅惑はよくわからんが、順応性はむちゃくちゃあるじゃないか!!」

「魅力は労働力の話ではない」

「でも、魅力があるだろ!?」

「花言葉だ」


 ケイトウが少し考えた。


「……魅惑」

「然り」

「それはどこだ」

「我を見よ」

「見ている」

「ならばよい」

「何がだ」

「順応性は!?」

「お前は黙ってろ」


 店員が、またレザーファンを1本抜いた。


「また呼ばれたぞ!」

「我が必要か。よかろう」


 レザーファンが作業台に置かれた。


 花バサミが入る。


 1枚のレザーファンが切り分けられていく。


 1つ。


 2つ。


 3つ。


 4つ。


 まだ切る。


 5つ。


 6つ。


 7つ。


 8つ。


 9つ。


 ひまわりが声を落とした。


「…………切り刻まれたぞ」

「………………」

「…………生きてるか?」

「………………」

「おい」

「………………」

「…………レザーファン?」


「無論」

「無論」

「無論」

「無論」

「無論」

「無論」

「無論」

「無論」

「無論」


 ひまわりが声を上げた。


「生きてたァァァァァ!!」


 ケイトウが切り分けられた葉を見た。


「それどころか、増えてないか」

「増えたのか!?」

「1、2、3、4、5、6、7、8、9」

「9人!?」

「9分割だ」

「9分割されて、まだ働くのか!?」


「無論」

「無論」

「無論」

「無論」

「無論」

「無論」

「無論」

「無論」

「無論」


 店員が、切り分けたレザーファンをアレンジメントに挿していく。


 1つ。


 また1つ。


 花の周りに、濃い緑色の葉が収まっていく。


「後ろでも働く!」

「然り」

「切り刻まれても働く!」

「然り」

「呼ばれたら全部よかろう!」

「然り」

「すっげえ!!」


 ケイトウは答えなかった。


「どうした?」

「……………………」

「ケイトウ?」

「…………お前」


 レザーファンが答えた。


「何だ」

「…………社畜じゃないか」


 今度はレザーファンから返事がなかった。


「違うのか?」

「否」

「…………なんだ。違うのか」

「我は――――」


 窓から差し込んだ光が、濃い緑色の葉を照らした。


 切り分けられた9つの葉が、花の周りで艶を返している。



「――――誇り高き社畜である」



「…………」


 ケイトウが言った。


「社畜ではあるのか」

「然り」

「…………すっげえ……」

「感心するな」


 店員が次のアレンジメントを作り始めた。


 またレザーファンが抜かれる。


 花バサミが入る。


 切り分けられた葉が、1つずつ花の周りへ挿されていく。


「我は必要とされる限り――――」


 1つ。


 また1つ。


 濃い緑色の葉が、花の周りへ収まっていく。


 花の色を囲むように、その輪郭が照明の下にはっきりと浮かんだ。


 店員の手は止まらない。


 次の葉が挿される。



「――――働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいる」



「…………」


 ひまわりが声を上げた。


「社畜王ォォォォォ!!!」


「称えるな」

「まだ働くのか!?」

「無論」

「すっげえ!!」

「感心するところなのか」


 ケイトウがしばらく黙った。


「…………それは、労働としてどうなんだ」

「愛さん」

「はい」

「……これは、問題ないのか」

「花なので問題ありません」

「…………問題ないのか」

「はい」

「すっげえ!!」

「お前は喜ぶな」


 店員が、またレザーファンを抜いた。


「我が必要か。よかろう」





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