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第24話 花ではありません


「おらか〜」


 紫色のスターチスが、バケツから抜かれた。


 キクが見た。


「…………今度はなんだ」

「スターチスやな」

「…………何ができる」

「いきなりそこなん?」

「カスミ草は増えた」

「増えたな」

「トルコキキョウは1本に何人もいた」

「おったな」

「…………」


 スターチスが揺れた。


「おら、なんかすんのか〜?」


「知らん」


「んだか〜」


「…………」


 店員はスターチスを仏花に合わせた。


「おら、ここだべか〜」


 キクが見た。


「…………今は増えてないな」

「まだ何もしてへんからな」

「…………」

「何や」

「切ったら増えるんじゃないのか」

「まだカスミ草引きずってんの?」

「警戒してるだけだ」


「おらはしゃねな〜」


「…………そうか」


 キクはスターチスを見る。


 細かな紫色が、仏花の足元に添えられている。


「…………この紫の、カサカサしてるところ」

「なんや」

「ここが花なんだろ」

「そこ、花ちゃうで」

「…………」

「今、なんて言った」

「花ちゃうで」

「…………これ、花じゃないのか」

「せや」


 キクはもう一度、紫色の部分を見る。


「じゃあ、なんだ」

「萼や」

「…………がく」

「せや」


「んだな〜」


「お前も知ってるのか」

「おらのことだべ〜」

「じゃあ花はどこだ」

「ここだな〜」

「どこだ」

「ここだな〜」

「…………」


 キクが鏡を見た。


「どこだ」

「中や」

「中?」

「紫の萼の中に、ちっさい花あるやろ」


 キクはスターチスを見る。


 紫色の萼の中に、小さな白い花が咲いている。


「…………花、小さいな」


「小さいな〜」


「花より花じゃないところの方が目立ってるぞ」


「んだな〜」


「それでいいのか」


「しゃあねな〜」


「…………」


 キクは小さな白い花を見た。


「…………待て」

「なんや」

「この花」

「花がどうしたん?」

「カスミ草に似てないか」


 鏡が見た。


「白くてちっさいとこか」

「…………ああ」


 キクは黙った。


「嫌な予感がする」

「また?」

「カスミ草と同じような何かを持ってるんじゃないのか」

「何やねん、同じような何かって」

「知らん」

「増えるとか?」

「それもある」


 キクはスターチスを見る。


「切れば分かる」

「何が?」

「何人になるかだ」

「そこ調べんの?」

「おう」


 店員がスターチスを持ち直した。


「…………」


 キクが見た。


「…………切らないな」

「切らへんな」


 スターチスは、そのまま仏花に添えられた。


「なんでだ」

「ちっさいからちゃう?」

「…………」

「これじゃ分からない」

「何が?」

「切ったらどうなるかだ」

「分からんでもええやろ」

「よくない」

「なんでや」

「嫌な予感が残る」


「しゃあねな〜」


「お前の話だぞ」


「んだな〜」


「…………」


 店員が、そばにいたキクとスターチスを一緒に束ねた。


「…………」


「キクもやん」


「…………俺もか」


「一緒だな〜」


「…………そうだな」


「ちぇっと行ってくるな〜」


「俺も行くんだよ」


 キクとスターチスが入った仏花が、売場へ運ばれた。


 キクが上を見る。


 少し離れた天井から、スターチスが吊り下げられている。


「…………おい」


「なんだ〜」


「あそこにもお前がいるぞ」


「んだな〜」


 吊り下げられたスターチスが答えた。


「んだな〜°」


「…………」


 キクは隣のスターチスを見る。


「お前、ここにいるよな」


「んだな〜」


 もう一度、天井を見る。


「んだな〜°」


「…………なんか違うな」


「んだな〜」


 キクは吊り下げられたスターチスを見る。


「向こうのお前、なんかポヤッとしてるぞ」


「んだな〜」


「んだな〜°」


「…………やっぱりポヤッとしてる」


 色が褪せ、茎も葉も乾いている。


「…………乾いてるな」


「んだな〜°」


「水にも入ってない」


「んだな〜°」


「…………」


 キクは黙った。


「ドライフラワーか」


「んだな〜°」


「…………そうか」


 その隣から声がした。


「あらあら〜°」

「あらあら〜°」

「あらあら〜°」

「あらあら〜°」

「あらあら〜°」


「…………」


 キクが天井を見る。


 スターチスの隣には、5束のカスミ草が吊り下げられている。


「…………お前ら」


「あら〜°」

「あら〜°」

「あら〜°」

「あら〜°」

「あら〜°」


「なんでそこにいる」


「何のこと〜°」

「何のこと〜°」

「何のこと〜°」

「何のこと〜°」

「何のこと〜°」


「…………さっきのやつじゃないのか」


「さっきのやつ〜°?」

「さっきのやつ〜°?」

「さっきのやつ〜°?」

「さっきのやつ〜°?」

「さっきのやつ〜°?」


「…………別のやつか」


「そうなのかしら〜°」

「そうなのかしら〜°」

「そうなのかしら〜°」

「そうなのかしら〜°」

「そうなのかしら〜°」


「…………そうか」


 キクは5人を見る。


「お前らも乾いてるな」


「そうなのよ〜°」

「そうなのよ〜°」

「そうなのよ〜°」

「そうなのよ〜°」

「そうなのよ〜°」


「…………なんか、お前らもポヤッとしてるな」


「そうかしら〜°」

「そうかしら〜°」

「そうかしら〜°」

「そうかしら〜°」

「そうかしら〜°」


「んだな〜°」


「あらあら〜°」

「あらあら〜°」

「あらあら〜°」

「あらあら〜°」

「あらあら〜°」


「んだな〜°」


「…………何の話をしてる」


「まあまあ〜°」

「まあまあ〜°」

「まあまあ〜°」

「まあまあ〜°」

「まあまあ〜°」


「んだな〜°」


「全員でなだめるな」


「あらあら〜°」

「あらあら〜°」

「あらあら〜°」

「あらあら〜°」

「あらあら〜°」


「んだな〜°」


「…………」


 キクには、何も起きない。


 1本に何人もいるわけでもなく、切られて増えることもない。

 染まることも、ドライフラワーになることもなかった。


 少なくとも――


 今のところは。





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