第23話 減っていますが増えています
店員が花束を作っていた。
バラを束ね、カーネーションを加える。
少し隙間が残った。
店員は作業台の横に置かれたバケツへ手を伸ばした。
白いカスミ草が10本入っている。
「今日はここなのね〜」
「そうみたいね〜」
「今日は何になるのかしら〜」
キクが見た。
「カスミ草か」
「せやな」
店員が1本取った。
「あら、私ね〜」
作業台に置き、茎を見ながら長めに3つに切り分ける。
「3つになったわね〜」
「3つになったわね〜」
「3つになったわね〜」
「…………今、3人になったか」
「…………なったな」
「…………さっきまで1人だった」
「……1本やったからな」
「…………どれがさっきのやつだ」
「私よ〜」
「私よ〜」
「私よ〜」
「…………どれだ」
「私よ〜」
「私よ〜」
「私よ〜」
「…………全部か」
「そうよ〜」
「そうよ〜」
「そうよ〜」
鏡が言った。
「…………全部本人みたいやな」
「1人だっただろ」
「……切ったからやな」
「切ると増えるのか」
「そうみたいね〜」
「そうみたいね〜」
「そうみたいね〜」
「…………お前らが言うな」
3人に分かれたカスミ草は、それぞれ花束に入った。
「私は花束よ〜」
「私は花束よ〜」
「私は花束よ〜」
店員が次の1本を取った。
「あら、次は私ね〜」
今度は茎を短く切り分けていく。
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「………………」
鏡が数えた。
「…………10人やな」
「さっきは3人だった」
「さっきは花束や。長めに取ったから、大きく分けたんやろ」
「今度は」
「アレンジやな。短う使うから増えた」
「…………同じ1本だろ」
「…………同じ1本や」
「人間の作り方で人数が変わるのか」
「そうなるわね〜」
「そうなるわね〜」
「そうなるわね〜」
「そうなるわね〜」
「そうなるわね〜」
「そうなるわね〜」
「そうなるわね〜」
「そうなるわね〜」
「そうなるわね〜」
「そうなるわね〜」
「…………」
キクが10人に分かれたカスミ草を見た。
「お前ら、全部同じやつか」
「私よ〜」
「私よ〜」
「私よ〜」
「私よ〜」
「私よ〜」
「私よ〜」
「私よ〜」
「私よ〜」
「私よ〜」
「私よ〜」
「最初の3人とは違うのか」
「違うわよ〜」
「違うわよ〜」
「違うわよ〜」
「違うわよ〜」
「違うわよ〜」
「違うわよ〜」
「違うわよ〜」
「違うわよ〜」
「違うわよ〜」
「違うわよ〜」
花束から声がした。
「そうよ〜」
「そうよ〜」
「そうよ〜」
「…………」
鏡が言った。
「あっちの3人は最初の1本。こっちの10人は次の1本や」
「元は2人か」
「せや」
「今は13人」
「…………せやな」
キクはバケツを見た。
白いカスミ草が8本残っている。
「…………あと8人おる」
「…………おるな」
「…………全部切るのか」
「…………商品作るなら使うやろな」
店員は10人に分けたカスミ草を、いくつかのアレンジに挿していった。
「ここなのね〜」
「ここなのね〜」
「ここなのね〜」
「ここなのね〜」
「ここなのね〜」
「ここなのね〜」
「ここなのね〜」
「ここなのね〜」
「ここなのね〜」
「ここなのね〜」
花束から声がした。
「私は花束よ〜」
「私は花束よ〜」
「私は花束よ〜」
キクが鏡を見た。
「…………今、何人いる」
「知らん」
「…………数えろ」
「いやいや」
「…………」
キクは愛さんを呼んだ。
「カスミ草は何人いる」
「カスミ草は10本です」
「人数を聞いてる」
「在庫は8本です」
「減ってるだろ」
「2本使用しました」
「増えてる」
「在庫は8本です」
「…………」
鏡が言った。
「人間側では減ってんねん」
「こっちでは増えてる」
「せやな」
「何人いる」
「だから分からん」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
アレンジからも声がした。
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「全員でなだめるな」
キクは別のバケツを見た。
ピンクに染めたカスミ草が10本入っている。
「今日はここなのね〜♪」
「…………」
その隣には、青く染めたカスミ草が10本入っている。
「そっちもきれいね〜♪」
「あなたもきれいよ〜♪」
「………………」
鏡が言った。
「染めカスミやな」
「なんで楽しそうなんだ」
「染まってるからとちゃう?」
「染まると楽しくなるのか」
「知らん」
「それでええんやったら、キクも染まってみたらええやん」
「なんでだ」
「楽しそうでええやん」
「………………」
「………………」
「断る」
白いカスミ草から声がした。
「今日は何になるのかしら〜」
ピンクに染めたカスミ草からも声がした。
「今日は何になるのかしら〜♪」
「…………」
「やっぱり楽しそうだな」
「染まってるからやろ」
「それでいいのか」
「知らん」
店員がピンクに染めたカスミ草を1本取った。
「あら、私ね〜♪」
「待て」
作業台に置かれ、茎が5つに切り分けられた。
「増えたわね〜♪」
「増えたわね〜♪」
「増えたわね〜♪」
「増えたわね〜♪」
「増えたわね〜♪」
「…………」
鏡が言った。
「楽しそうな5人やな」
「数えるな」
「お前が数えろ言うたんやろ」
「もういい」
「まあまあ〜♪」
「まあまあ〜♪」
「まあまあ〜♪」
「まあまあ〜♪」
「まあまあ〜♪」
「楽しそうになだめるな」
青く染めたカスミ草がバケツから言った。
「次は私かしら〜♪」
「増える気でいるぞ」
「切ったら増えるからな」
「…………」
キクは店内を見た。
花束に3人。
アレンジに10人。
ピンクに染めたカスミ草が5人。
バケツには白が8人、ピンクに染めたカスミ草が9人、青く染めたカスミ草が10人。
「…………45人か」
「数えたんか」
「今ならまだ分かる」
店員が白いカスミ草を1本取った。
「私ね〜」
茎が7つに切り分けられた。
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「増えたわね〜」
「52人やな」
「51人だ」
「7人増えたやろ」
「元から1人いた」
「…………」
「6人増えた」
「…………」
「愛さん」
「はい」
「45人のうち1人が7人になった。何人だ」
「51人です」
「ほら」
「なんでや」
「45人から1人を引いて44人。7人を加えると51人です」
「…………」
「算数講座始まったで」
「お前が間違えるからだ」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「まあまあ〜」
「…………」
店員は切り分けたカスミ草をアレンジに挿していった。
先に10人に分かれた白いカスミ草も、それぞれアレンジに入っている。
「できたみたいね〜」
「できたみたいね〜」
「できたみたいね〜」
「できたみたいね〜」
「できたみたいね〜」
「できたみたいね〜」
「できたみたいね〜」
「できたみたいね〜」
「できたみたいね〜」
「できたみたいね〜」
最初に3人に分かれた白いカスミ草は、花束の中にいる。
「きれいにできたわね〜」
「きれいにできたわね〜」
「きれいにできたわね〜」
ピンクに染めた5人も、別の花束に入っていた。
「こっちもきれいよ〜♪」
「こっちもきれいよ〜♪」
「こっちもきれいよ〜♪」
「こっちもきれいよ〜♪」
「こっちもきれいよ〜♪」
青く染めたカスミ草がバケツから言った。
「私はまだかしら〜♪」
「…………」
キクは白いカスミ草を見た。
「1本だったんだよな」
「せやで」
「切ったら増えた」
「増えたな」
「…………」
「俺も切ったら増えるのか」
「試してみる?」
「………………」
「………………」
「断る」
キクは花束を見た。
白いカスミ草が、バラとカーネーションの隙間に広がっている。
「増えるだけじゃないのか」
「カスミ草やからな」
「そうか」
店員が完成した花束を作業台から移した。
「行くみたいね〜」
「行くみたいね〜」
「行くみたいね〜」
「…………」
キクは3人を見送った。
店員が次のバケツを作業台の横へ置いた。
細かな花が密集したスターチスが入っている。
「おらもここだべか〜」
「…………」
キクがスターチスを見た。
「…………今度はなんだ」
「スターチスやな」
「…………何ができる」
「何がって?」
「こいつは増えた」
「カスミ草やからな」
「トルコキキョウは1本に何人もいた」
「おったな」
「…………」
スターチスが揺れた。
「おら、なんかすんのか〜?」
キクが答えた。
「知らん」
「しゃねのが〜」
店員がスターチスへ手を伸ばした。




