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花屋は本日も通常営業です  作者: 花束 ねる


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18/51

第18話 本日の受付は終了しました

 王子(バラ)を持った男性客が、店を出ていった。


「………あれ?」

「なんじゃ」

「王子、姫連れていかなかった」

「姫?」

「殿」

「わしは姫ではない!」


 じゅうろくちゃんは、店の出口を見た。


「王子、別の人のところ行った」

「客じゃ」

「プロポーズしに行った」

「そうらしいのう」

「殿じゃない人に」

「わしにする予定はない!」

「………王子、浮気したの?」

「わしに聞くでない!」

「………浮気した」

「勝手に決めるでない!」


 お方様が口を挟んだ。


「まあ、王子も二人おったからのう」

「増えたのはそなたらの中だけじゃ!」

「殿、かわいそう」

「かわいそうではない!」

「じゃあ殿も、別の人にする?」

「せぬ!」


 店員が、空いた作業台に次の注文の花を並べ始めた。


 大菊が三本。


 一本を高く置き、その下に二本を左右へ開く。


 さらに低い位置へ、スプレー菊を二本。


 五本のキクで、ひし形の土台ができた。


「キクいっぱい」

「そうだな」

「一人」

「一本だ」

「二人」

「二本だ」

「三人」

「三本だ」

「なんで本なの?」

「男の数に入れるな」

「でも男だよね」

「キクだ」


 じゅうろくちゃんは、そのまま数え続けた。


「四人」

「四本だ」

「五人」

「五本だ」

「全部直すの?」

「直す」


 店員が、ひし形に組んだキクの上へ鉄砲ユリを入れた。


「………殿」

「なんじゃ」

「五人に囲まれてる」

「五本じゃ!」

「愛ちゃん」

「はい」

「殿、囲まれてるよね」

「配置上は、囲まれています」

「ほら!」

「ほらではない!」

「男の人、五人に囲まれてる!」

「キクじゃ!」

「殿、もう次の人見つけた?」

「見つけておらぬ!」

「王子、浮気したから?」

「対抗しておらぬ!」


 店員が全体の高さを見ながら、ケイトウを加えた。


「六人!」

「何を数えている」

「殿を囲んでる人」

「囲んでおらぬ!」

「愛ちゃんが囲まれてるって言ったよ」

「配置上の話じゃ!」

「ケイトウも入った」

「勝手に入れるな」


 反対側に、リンドウが加わった。


「七人!」

「何が七人でござる?」

「殿の男の人」

「拙者も入っているのでござるか」

「入るでない!」

「七人目だよ」

「何の七人目でござる?」

「殿を囲んでる人」

「そのような役目を仰せつかった覚えはござらぬ」

「じゃあ、お供?」

「お供でござるか?」


 リンドウが鉄砲ユリを見た。


「拙者、お供いたすでござる」

「どこへじゃ!」

「お供えでござろう?」

「供えられる方じゃ!」

「………お供が七人」

「違う!」


 作業台の端から、ハサの声がした。


「七人もいたら、七人の小人みてぇだな」


 じゅうろくちゃんが止まった。


 ハサも黙った。


「ハサ」

「忘れろ」

「七人の小人?」

「忘れろっつってんだろ」


 じゅうろくちゃんは、もう一度数えた。


「キクが五人」

「五本だ」

「ケイトウ」

「なんだ」

「リンドウ」

「拙者でござる」

「七人!」

「だから何だ」


 じゅうろくちゃんが、中央の鉄砲ユリを見た。


「殿」

「なんじゃ」

「白雪姫?」

「なぜじゃ!」

「七人の小人に囲まれてる!」

「小人ではない!」

「拙者も小人なのでござるか」

「確認せんでよい!」


 キクが言った。


「俺は小人ではない」

「じゃあ何?」

「キクだ」

「五人とも?」

「五本ともだ」

「白雪姫と、キク五人と、ケイトウと、リンドウ」

「白雪姫がおらぬ!」

「殿だよ」

「わしではない!」


 店員が全体を見て、空いたところへカーネーションを一本加えた。


「………あ」

「なに?」

「女の人来た」

「私?」

「白雪姫に出てくる女の人」

「誰?」

「お母さん?」


 ハサが口を挟んだ。


「継母だろ」

「………継母?」


 ハサが黙った。


「ハサ」

「忘れろ」


 じゅうろくちゃんが、カーネーションを見た。


「カーネーション、継母?」

「嫌」

「王妃だよ」

「………王妃?」

「うん」

「私、ご指名?」

「たぶん」

「たぶん?」

「でも王妃」

「………じゃあ、やる」


 作業台の端から、ハサの声がした。


「受けるのかよ」


 カーネーションが少し機嫌を直した。


「王妃でご指名なら、まあいいかな」

「継母でもあるよ」

「それは聞いてない」

「白雪姫を森に追い出す」

「え?」

「狩人にお願いする」

「何を?」

「白雪姫を殺してって」

「ちょっと待って」

「そのあと老婆に化ける」

「誰が?」

「カーネーション」

「ならないけど」

「毒りんごも持っていく」

「待って待って。王妃は?」

「カーネーション」

「継母は?」

「カーネーション」

「老婆は?」

「カーネーション」

「………全部?」

「同じ人」

「掛け持ちだね!」

「多すぎる!」

「カーネーション、掛け持ち得意だよね」

「仏花と花束の話!」

「王妃と継母と老婆」

「役が多すぎる!」

「でも同じ人」

「そんなの聞いてない!」

「王妃はやるって言ったよ?」

「王妃しか聞いてない!」

「全部セットみたい」

「いらない!」

「ご指名なのに?」

「指名でも選ぶ!」

「売れ残るよ?」


 少し間が空いた。


「………王妃だけなら」

「全部ついてくるよ」


 カーネーションの中で、シャッターが下りた。


「本日の受付は終了しました」


 カーネーションが言った。


「………閉店した」

「お前のせいだろ」

「カーネーション?」

「………」

「王妃は?」

「受付終了です」

「老婆は?」

「終了しました」


 じゅうろくちゃんが、ハサを見た。


「ハサ」

「なんだよ」

「ママがいないよ」

「最初からお前のママじゃねぇ」

「白雪姫のママ」

「継母だ」

「閉店しちゃった」

「お前のせいだろ」

「どうしよう」

「知らねぇよ」

「白雪姫、ママなし?」

「勝手に家庭環境変えんな」


 店員は構わず、仏花の形を整えていく。


 中央の鉄砲ユリを少し高くし、大菊とスプレー菊の向きを揃える。


 ケイトウとリンドウの位置を直し、カーネーションを正面へ向けた。


「………ママいる」

「いるだろ」

「でも閉店してる」

「そこは知らねぇよ」


 店員が仏花を持ち上げ、茎元の長さを揃えた。


 花ばさみで、茎元を切り揃える。


「………狩人」

「今度はなんだ」

「白雪姫って、狩人いるよね」

「いるな」

「狩人、仕事してる」

「仏花作ってんだよ」

「白雪姫は?」

「どこにもいねぇ!」

「殿」

「わしを見るでない!」

「狩人、白雪姫逃がしてくれるよ」

「何からじゃ!」

「ママ」


 閉店したカーネーションが口を開いた。


「受付終了してます」

「ママ喋った!」

「苦情です」

「そこだけ開いてる!」

「苦情窓口も閉めます」

「全部閉まった!」

「お前のせいだろ」


 店員が、切り揃えた花をじゅうろくちゃんでまとめた。


「………一緒になった」

「何がだよ」

「白雪姫と七人の小人とママ」

「仏花だ」

「狩人は?」

「俺は入ってねぇ!」


 店員が、出来上がった仏花を持って売り場へ向かった。


 売り場を通ったとき、仏花が鏡に映った。


「………あ」

「今度はなんだ」

「鏡」

「だから何だ」

「昨日、ハサが言ってた」

「何をだ」

「鏡に聞けって」

「忘れろ!」


「鏡よ鏡」

「………」

「鏡よ鏡!」

「………」



 返事を待つ間もなく、仏花は鏡からフレームアウトした。





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