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花屋は本日も通常営業です  作者: 花束 ねる


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第11話 りんどうは夏を譲りたい

 黄色いひまわりの隣に、赤いケイトウがいる。


「ケイトウ!」

「なんだ」

「夏といえば!」

「暑い」

「眩い太陽!」

「必要だな」

「ひまわり!」

「お前だな」

「青い空!」

「外にあるな」

「ここにはない!」

「店だからな」

「それだ!」

「何がだ」

「青が足りない!」

「そうか」

「俺を輝かせる青が足りない!」

「知らん」


 作業台に、新聞紙で包まれた花が置かれた。

 店員が新聞紙を外す。

 青い花がまとまって出てきた。


「ケイトウ!」

「なんだ」

「青だ!」

「りんどうだ」

「俺を輝かせる青が来た!」

「偶然だ」


 店員が茎を切り戻し、りんどうを水に入れた。

 りんどうのバケツを、ひまわりの隣に並べた。


「来た!」

「りんどうだ」

「青!」

「りんどうだ」

「俺の隣に来た!」

「店員が置いただけだ」

「よし!」

「何がだ」

「今日から俺を引き立てろ!」



「お断りするでござる」



 ひまわりの声が止まった。


「ケイトウ」

「なんだ」

「今、誰か断った?」

「りんどうだ」

「喋るのか!」

「当たり前でござろう」


 青いりんどうが、ひまわりの隣にいる。


「武士だ!」

「りんどうだ」

「何者だ!」

「拙者はりんどう。安代の夏でござる」

「夏!」

「品種名でござる」

「青くて夏!」

「りんどうでござる」

「完璧だ!」

「何がでござる」

「俺を輝かせる青だ!」

「お断りするでござる」

「また断った!」

「仕官はせぬでござる」

「仕官?」

「左様でござる」

「誰が?」

「拙者が、でござる」

「誰に?」

「おぬしに、でござる」

「仕官しろなんて言ってない!」

「俺を引き立てろ、と申したでござろう」

「色の話だ!」

「紛らわしいでござる」


 店員がひまわりを抜いた。

 続けてケイトウとりんどうも抜き、一緒に運んでいく。


「どこ行くんだ!」

「作業台であろう」

「分かるのか!」

「見れば分かるであろう」

「りんどう! 話は終わってないぞ!」

「営業中でござる」


 3種類の花が作業台に並んだ。


「ほら!」

「何がだ」

「俺たちは仲間だ!」

「俺たち?」


 ケイトウはひまわりの隣にいる。


「俺とケイトウとりんどう!」

「初めて聞いた」

「ケイトウ!」

「なんだ」

「昨日から一緒にいるだろ!」

「隣にいただけだ」

「仲間じゃないのか!」

「違う」


 今度は、りんどうの名が呼ばれた。


「りんどう!」

「拙者も違うでござる」

「なんで誰も入ってないんだ!」

「知らん」


 店員が同じ花をさらに作業台へ運んできた。


「増えた!」

「花束を作るんだろ」

「赤と黄と青!」

「色だな」

「愛さん!」

「はい」

「赤と黄と青!」

「伝統的な色の三原色です。現在の標準とは異なります」


 ひまわりの声が止まった。


「三原色?」

「色を混ぜ合わせる際の基本となる3つの色です」

「青も?」

「はい」

「やっぱり必要じゃないか!」

「伝統的な色の三原色には、です」


 ひまわりは、りんどうの名を呼んだ。


「聞いたか、りんどう!」

「聞いたでござる」

「青は必要なんだ!」

「三原色には、でござろう」

「俺にも必要だ!」

「知らぬでござる」

「じゃあ今日から仲間だ!」

「なぜそうなるでござる」

「青だから!」

「色で決めるなでござる」

「じゃありんどうだから!」

「もっと分からぬでござる」


 ひまわりは、今度はケイトウの名を呼んだ。


「ケイトウ!」

「なんだ」

「何とか言え!」

「無理だろ」

「まだ何も始まってない!」

「花束は始まったぞ」

「そっちじゃない!」


 店員が花を束ね始めた。

 ひまわりの茎に、ケイトウとりんどうの茎が寄せられる。


「近い!」

「花束だからな」


 りんどうの名が呼ばれた。


「りんどう!」

「何用でござる」

「お前も近い!」

「拙者に申されても困るでござる」

「俺を引き立てろとは言ったけど!」


 りんどうが、ひまわりの隣で束ねられていく。


「りんどう?」

「不本意でござる」

「引き立ててるぞ!」

「不本意でござる!」

「でも引き立ててる!」

「仕官ではないでござる!!」


 店員が茎を揃え、花を束ねていく。


「ほら、結局一緒じゃないか!」

「花束だ」

「仲間だ!」

「花束だ」


 ケイトウの答えは変わらない。


「りんどう!」

「何用でござる」

「これでも仲間じゃないのか!」

「仕官はせぬでござる」

「仲間の話だ!」

「同じことでござる」

「違う!」

「拙者には同じでござる」


 店員はそのまま花を束ねていく。


「とにかく、りんどう!」

「何用でござる」

「青は必要なんだ!」

「拙者は必要ないでござる」

「なんでそこまで嫌なんだ!」

「拙者には、すでに主がおるでござる」

「主?」

「左様でござる」

「誰だ?」

「申せぬでござる」

「なんでだ!」

「主が自ら名乗る前に、拙者が御名を明かすわけには参らぬのでござる」

「名前も言えないのか!」

「左様でござる」

「じゃあ何なら言えるんだ!」

「お会いすれば分かるでござる」

「何も分からないじゃないか!」

「まだお会いしておらぬでござろう」


 店員が束ね終えた花を持ち上げた。


「待て!」

「何用でござる」

「どこ行くんだ!」

「店頭でござろう」

「分かるのか!」

「束ね終わったでござる」

「また話の途中だぞ!」

「営業中でござる」


 束ねられた花が店頭に並べられた。


「結局ずっと一緒じゃないか!」

「花束だからな」

「仲間だ!」

「違う」


 りんどうの名が呼ばれた。


「りんどう!」

「何用でござる」

「仲間だよな!」

「仕官はせぬでござる」

「まだ言ってない!」


 店内では、そのまま営業が続いた。


 店員が花を補充し、空いたバケツを片づける。

 作業台には、次の花が運ばれてきた。


 しばらくして、別の店員が新しく入荷した花を運んできた。


 長い茎が、何本も揃っている。

 その先には、固く閉じた緑の蕾。

 ひとつの茎に、いくつもの蕾が連なっている。


 まだ、ひとつも開いていない。




「…………殿」



 通常営業に支障はなかった。





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