69/87
Interlude 万里とお兄ちゃん ピンクビーチ紀行
まだ、私が“ミュウル”ではなかった頃――
コンクリートしか見えない窓辺に、せめてもの花を飾ったあと。
病棟の裏庭にある、いつものベンチへと向かった。
「おはよう。今月の『彩紀行』、海だって」
「えっ! お兄ちゃん、どこの海!?」
見開きのページに広がるのは、弾ける青空と淡紅の砂浜――透明な海の水が、きめの細かいピンクの砂をさらっている。
「でも、ふつう砂浜って黄色じゃないの?」
「えーと……赤い珊瑚のカケラが、白い砂と混ざっているんだったかな」
「へぇ、さすが高校生。くわしいねぇ」
お兄ちゃんは何でも知っている。
でも、私の病気がいつ治るかは、お兄ちゃんどころか先生にも分からないみたいだった。
「万里が元気になったら、いつか一緒に行こう」
「……うん、いつかね」
目を閉じて、紙面の海をなぞってみると——遠くから波音が寄せ、指先をさらう砂の感触がした。




