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壁殴り聖女は世界地図を描く  作者: 見早
5章 人魔の洗濯川 ―ヴァリナ―
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Interlude 万里とお兄ちゃん ピンクビーチ紀行

 まだ、私が“ミュウル”ではなかった頃――




 コンクリートしか見えない窓辺に、せめてもの花を飾ったあと。

 病棟の裏庭にある、いつものベンチへと向かった。


「おはよう。今月の『彩紀行(いろどりきこう)』、海だって」

「えっ! お兄ちゃん、どこの海!?」


 見開きのページに広がるのは、弾ける青空と淡紅の砂浜――透明な海の水が、きめの細かいピンクの砂をさらっている。


「でも、ふつう砂浜って黄色じゃないの?」

「えーと……赤い珊瑚のカケラが、白い砂と混ざっているんだったかな」

「へぇ、さすが高校生。くわしいねぇ」


 お兄ちゃんは何でも知っている。

 でも、私の病気がいつ治るかは、お兄ちゃんどころか先生にも分からないみたいだった。


「万里が元気になったら、いつか一緒に行こう」

「……うん、いつかね」


 目を閉じて、紙面の海をなぞってみると——遠くから波音が寄せ、指先をさらう砂の感触がした。

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