第一章 再配達の夜 第八話 会える日
# 第一章
## 再配達の夜
### 第八話 会える日
それから。
玲司と藤堂は、毎日のように連絡を取るようになった。
おはよう。
仕事終わった。
今休憩。
お疲れさま。
たったそれだけのやり取り。
でも。
玲司にとっては、いつの間にか当たり前になっていた。
朝、通知を見る。
昼休みに返信する。
夜、少しだけ電話をする。
その流れが、静かに生活へ馴染んでいく。
金曜日。
玲司は、珍しく定時に近い時間で仕事を終えた。
外へ出ると、空が少し赤くなっている。
スマホが震えた。
【今日、早いですね】
藤堂だった。
どうしてわかったんだろうと思って、少し笑う。
【なんでわかるの】
既読。
【返信早いので】
玲司は吹き出した。
そんなところを見ているらしい。
そのあと。
少し間を空けて、また通知。
【今日、このあと予定ありますか】
玲司の指が止まる。
予定。
ない。
でも。
その質問の意味を考えてしまって、少し心臓がうるさくなる。
【ないけど】
送信。
既読。
数秒。
それから。
【もしよかったら、ご飯行きません?】
玲司は、ゆっくり息を止めた。
ご飯。
つまり。
仕事でも、配達でもない時間。
ちゃんと“会う約束”。
胸の奥が、静かに熱くなる。
玲司はスマホを見つめたまま、小さく笑った。
【行く】
送信。
既読。
すぐ返信。
【やった】
その短い一言が、妙に嬉しそうで。
玲司の胸も、少し軽くなる。
待ち合わせは、駅前の小さな定食屋だった。
玲司が着いた時、藤堂はもう来ていた。
私服姿。
黒いパーカーに、ラフなパンツ。
制服姿しか知らなかったから、少し新鮮だった。
藤堂は玲司を見ると、少しだけ照れたみたいに笑う。
「こんばんは」
「……こんばんは」
玲司は、自分でも少し緊張しているのがわかった。
なんだか、いつもと違う。
仕事のついでじゃない。
再配達でもない。
“会うために会った”。
その事実だけで、妙に落ち着かなかった。
店へ入る。
夜の定食屋は静かだった。
二人並んで座る。
水の入ったコップが置かれる。
藤堂が、小さく息を吐いた。
「なんか、不思議ですね」
「なにが?」
「普通にご飯食べてるの」
玲司は少し笑う。
「たしかに」
最初は、ただの配達員だった。
それなのに今は。
仕事終わりに、こうして隣でご飯を食べている。
人生って、わからない。
料理が届く。
湯気が立ちのぼる。
藤堂が「うまそう」と笑う。
その表情を見た瞬間。
玲司は、少しだけ安心した。
ちゃんと会えた。
今日、ここへ来てよかった。
その時。
藤堂が、ぽつりと言う。
「……玲司さんといると、落ち着きます」
玲司の胸が、静かに熱くなる。
定食屋のテレビの音が遠く聞こえる。
でも。
その言葉だけは、妙にはっきり耳へ残った。




