第二章 おかえりのある部屋 第六十一話 合鍵の話
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第六十一話 合鍵の話
夜は、静かに更けていった。
ソファ。
冷房の音。
テーブルの上には、飲みかけの缶コーヒー。
藤堂は、玲司の肩へ寄りかかったまま、小さく息を吐く。
「……眠い」
玲司は少し笑った。
「今週ずっと忙しかったもんね」
「玲司さん不足でした」
玲司は吹き出した。
「またそれ」
「本当なので」
その声が、半分眠そうで。
玲司の胸がじんわり温かくなる。
少し沈黙。
でも。
その静けさが心地いい。
藤堂が、ふいにぽつりと言った。
「……合鍵とか、欲しくなりますね」
玲司の心臓が、小さく跳ねる。
静かな部屋。
その一言だけが、妙にはっきり聞こえた。
藤堂は、少し照れたみたいに笑う。
「いや、今すぐとかじゃないです」
玲司は視線を落とす。
合鍵。
その言葉には、“これから”が混ざっていた。
ただ会うだけじゃない。
もっと生活へ入っていく感じ。
でも。
不思議と嫌じゃなかった。
むしろ。
少し嬉しいと思ってしまった。
藤堂が、小さな声で続ける。
「帰ってきた時、玲司さんいたら安心するだろうなって」
その言葉が、胸へ静かに落ちる。
玲司は、小さく息を吐いた。
前は。
誰かが自分の生活へ入り込むことを、少し怖いと思っていた。
一人の方が楽だって。
そう思っていた。
でも今は。
“帰ってくる人”がいることが、こんなに温かい。
玲司は、小さく笑った。
「……そのうちね」
藤堂が、少し目を見開く。
数秒。
それから。
どうしようもなく嬉しそうに笑った。
「やばい」
玲司は吹き出した。
「またそれ?」
「だって嬉しいので」
その声が、あまりにも幸せそうで。
玲司の胸まで温かくなる。
藤堂は、玲司の肩へ額を押しつけるみたいに寄りかかった。
「……ちゃんと未来の話してる」
玲司は、ゆっくり目を閉じる。
未来。
少し前まで、自分一人のものだった。
でも今は。
その先へ、自然に藤堂がいる。
玲司は、そっと藤堂の髪を撫でた。
静かな夜。
好きな人の体温。
そして。
少しずつ増えていく、“これから”の約束。
その全部が、優しく胸へ積もっていった。




