第二章 おかえりのある部屋 第六十話 ただいまの意味
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第六十話 ただいまの意味
マンションへ着く頃には、風が少し冷たくなっていた。
夜の住宅街。
静かな道。
遠くの車の音。
繋いだままの手。
藤堂は、玲司の隣を歩きながら小さく息を吐く。
「……ほんと落ち着く」
玲司は少し笑う。
「今日それ何回目?」
「だって本当にそうなので」
その声が、疲れているのに柔らかい。
玲司の胸も、じんわり温かくなる。
エレベーターへ乗る。
鏡へ映る二人。
少し疲れた顔。
でも、自然に近い距離。
その光景が、妙に愛しかった。
玄関。
ドアを開ける。
静かな部屋。
藤堂が靴を脱ぎながら、小さく笑う。
「……ただいま」
玲司は、その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が静かに熱くなる。
最初は、少し照れくさかった。
でも今は。
この言葉が、自分の生活の一部になり始めていた。
玲司は、小さく笑う。
「おかえり」
その瞬間。
藤堂が、安心したみたいに目を閉じる。
まるで、本当に帰ってきたみたいに。
ソファへ座る。
藤堂はすぐ玲司の隣へ寄ってきた。
肩が触れる。
その距離だけで、疲れが少し抜けていく。
玲司は小さく息を吐いた。
「……今週長かった」
藤堂が頷く。
「会えなかったですしね」
その言い方が、少し寂しそうで。
玲司の胸が、じんわり締め付けられる。
会えないだけで、こんなに寂しくなるなんて。
前の自分なら、想像していなかった。
藤堂が、ぽつりと言う。
「……玲司さん」
「ん?」
「俺、ここ帰ってくるの好きです」
玲司は少し目を瞬かせる。
藤堂は、照れたみたいに笑った。
「部屋っていうより、玲司さんのとこ帰ってくる感じ」
その言葉が、静かに胸へ沁みる。
帰る場所。
それは、部屋じゃなくて。
“誰か”なんだと、少しずつわかっていく。
玲司は、小さく笑った。
それから。
自然に藤堂の髪を撫でる。
「……お疲れさま」
藤堂が、少しだけ目を細める。
嬉しそうに。
安心したみたいに。
静かな夜。
ソファの近い距離。
“ただいま”と“おかえり”。
その繰り返しが。
二人の恋を、少しずつ“生活”へ変えていっていた。




