第二章 おかえりのある部屋 第五十九話 帰りたい場所
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第五十九話 帰りたい場所
数日ぶりに会えたのは、金曜日の夜だった。
玲司が仕事を終えて駅を出ると、外は少し風が強かった。
疲れていた。
今週は、お互い忙しかった。
電話はしていた。
メッセージも送っていた。
でも。
やっぱり、会えない時間は長く感じた。
スマホが震える。
【着きました】
藤堂から。
玲司の胸が、小さく跳ねる。
急いで歩く。
駅前の人混みを抜ける。
その先。
コンビニの灯りの下に、見慣れた制服姿が立っていた。
藤堂。
玲司を見つけた瞬間、表情が柔らかくなる。
その顔を見るだけで。
一週間の疲れが、少し軽くなる気がした。
「……お疲れさま」
玲司が近づきながら言う。
藤堂は、小さく笑った。
「玲司さんも」
少し痩せた気がする。
疲れてる顔。
でも。
目だけは、ちゃんと優しかった。
数秒。
どちらも動かない。
でも。
その沈黙が、妙に落ち着く。
藤堂が、小さく息を吐く。
「……会いたかった」
玲司の胸が、じんわり熱くなる。
真っ直ぐだった。
疲れている時ほど、その言葉が沁みる。
玲司は、小さく笑った。
「俺も」
その瞬間。
藤堂が、少し安心したみたいに目を細めた。
それから。
自然に、玲司の手を握る。
もう確認はいらない。
繋いだ瞬間。
“帰ってきた”って思った。
玲司は、その感覚に少し驚く。
前は。
家へ帰るだけだった。
でも今は。
藤堂のいる場所が、“帰る”になっている。
二人でゆっくり歩き出す。
コンビニの白い灯り。
夜風。
繋いだ手。
藤堂が、ぽつりと呟く。
「……なんか、やっと呼吸できます」
玲司は少し笑った。
「そんな忙しかった?」
藤堂は頷く。
「でも、玲司さん見たら落ち着きました」
その言葉が、胸へ静かに落ちる。
玲司も同じだった。
会えない時間があったからこそ。
“ここにいる”が、ちゃんと嬉しい。
マンションへ向かう道。
藤堂が、小さく玲司の肩へ寄りかかる。
玲司は、その体温を感じながら思った。
好きな人がいるだけで。
帰る場所って、できるんだなって。




