第二章 おかえりのある部屋 第五十八話 会えない時間
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第五十八話 会えない時間
「……おやすみ言ってほしいです」
その声は、少し眠そうだった。
疲れているのがわかる。
玲司はソファへ身体を預けたまま、小さく笑った。
「子どもみたい」
電話の向こうで、藤堂が少し笑う。
『玲司さん相手だとそうなります』
その返事が、胸へ静かに沁みる。
玲司は、窓の外をぼんやり見た。
街の灯り。
遅い時間の車。
静かな夜。
今日は会えなかった。
でも。
不思議と、寂しいだけじゃない。
“ちゃんと好きでいてくれてる”ってわかるから。
玲司は、小さく息を吐いた。
「……おやすみ」
数秒。
電話の向こうが静かになる。
それから。
『やばい、落ち着く』
玲司は吹き出した。
「そればっか」
『でも本当なので』
藤堂の声が、少し柔らかくなる。
『玲司さんの声聞くと、“帰ってきた”って感じするんですよね』
その言葉に。
玲司の胸が、じんわり熱くなる。
帰ってきた。
前は。
“帰る場所”なんて、そこまで意識したことなかった。
でも今は。
声を聞くだけで安心する相手がいる。
疲れた日に会いたくなる相手がいる。
それが、少し嬉しかった。
電話の向こうで、小さな欠伸が聞こえる。
玲司は少し笑う。
「ほんと限界じゃん」
『今日ずっと動いてたので……』
「帰ったらすぐ寝ること」
『はい』
素直な返事。
でも。
そのあと、小さく続ける。
『……会いたい』
玲司は、ゆっくり目を閉じた。
その言葉が、痛いくらい優しい。
会えない時間があるから。
“会いたい”が、ちゃんと大事になる。
玲司は静かな声で言った。
「……次会ったら、いっぱい甘やかしてあげる」
その瞬間。
電話の向こうが完全に止まった。
玲司は吹き出しそうになる。
数秒後。
『……玲司さん最近ほんとずるい』
声が少し掠れていた。
玲司の胸が、また静かに熱くなる。
前より素直になれた。
前より、ちゃんと伝えられる。
好きだって。
大事だって。
藤堂が、小さな声で言う。
『次会うの楽しみにしてます』
玲司は、小さく笑った。
「……俺も」
静かな夜。
会えない時間。
でも。
その距離すら、今は愛しく感じていた。




