第二章 おかえりのある部屋 第五十七話 声だけでも
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第五十七話 声だけでも
呼び出し音。
一回。
二回。
『……もしもし』
藤堂の声は、少し疲れていた。
でも。
玲司の胸は、その声を聞いただけで少し軽くなる。
「お疲れ」
『玲司さんも』
電話越しに、小さく息を吐く音が聞こえる。
車のドアが閉まる音。
遠くを走る車。
たぶん、まだ外だった。
玲司はソファへ身体を預ける。
静かな部屋。
でも。
藤堂の声があるだけで、一人じゃない気がした。
『今日、ほんと疲れました……』
玲司は少し笑う。
「声死んでる」
『玲司さん不足です』
玲司は吹き出した。
疲れてるのに、そういうことは言う。
でも。
その一言で、胸がじんわり熱くなる。
玲司は小さく息を吐いた。
「今日、返信来ないからちょっと心配した」
言ってから。
少しだけ静かになる。
重かったかもしれない。
そう思った瞬間。
電話の向こうで、藤堂が小さく笑った。
『……嬉しい』
玲司は目を瞬かせる。
『心配してくれてたんだって思って』
その声が、妙に優しかった。
玲司の胸が静かに熱くなる。
藤堂は少し間を空けてから、小さく言った。
『俺も、今日ずっと会いたかったです』
玲司は、ゆっくり目を閉じる。
会えなくても。
忙しくても。
ちゃんとお互いを求めている。
その事実が、少し安心だった。
窓の外では、夜風がカーテンを揺らしている。
玲司は静かな声で言う。
「……無理しすぎないでね」
電話の向こうで、藤堂が少し笑った。
『玲司さんもです』
そのあと。
少し沈黙。
でも。
嫌じゃない。
疲れている時ほど、この静けさが落ち着く。
藤堂が、ぽつりと呟く。
『今、会いに行きたい』
玲司の心臓が、小さく跳ねる。
『でも、明日も早いので我慢します』
玲司は少し笑った。
「えらい」
『褒められた』
その声が、少しだけ嬉しそうだった。
玲司は、ソファへ深く身体を沈める。
会えない夜。
でも。
声だけで、こんなに安心する。
好きって、こういうことなのかもしれない。
玲司は小さく笑った。
「……帰ったら、ちゃんと寝なよ」
藤堂が、少し柔らかい声で返す。
『うん』
それから、小さく続けた。
『おやすみ言ってほしいです』
玲司の胸が、じんわり熱くなる。
静かな夜。
離れていても。
ちゃんと繋がっている気がした。




