第二章 おかえりのある部屋 第五十四話 雨音の中で
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第五十四話 雨音の中で
窓の外では、雨が静かに降り続いていた。
部屋の中は、少し暗い。
テーブルの上の灯りだけが、柔らかく二人を照らしている。
藤堂は、ソファへ座りながら髪を拭いていた。
濡れた前髪が少し下りていて、いつもより幼く見える。
玲司は、その姿をぼんやり見てしまう。
「……なに見てるんですか」
藤堂が少し笑う。
玲司は視線を逸らした。
「別に」
「絶対なんか思ってた」
玲司は小さく息を吐く。
それから、少し照れながら言った。
「……かわいいなって」
その瞬間。
藤堂が完全に固まった。
玲司も、言ってから顔が熱くなる。
静かな部屋。
雨音。
でも。
胸の奥だけが、やたらうるさい。
数秒後。
藤堂が、片手で顔を覆った。
「……無理」
玲司は吹き出した。
「何が」
「急にそういうの言われると、ほんと無理です」
耳まで赤い。
その反応が可愛くて、玲司はまた笑ってしまう。
少し前までは。
こういう言葉を口にするのも苦手だった。
でも今は。
思ったことを、ちゃんと伝えたくなる。
好きだから。
藤堂は、まだ少し照れたまま玲司の隣へ座る。
肩が触れる。
外では、雨音が静かに響いている。
藤堂が、小さな声で呟く。
「……玲司さんって、最近ちょっとずるいですよね」
「なんで」
「前より、ちゃんと好きって伝わるので」
玲司の胸が、じんわり熱くなる。
藤堂は、玲司の肩へ軽く頭を預けた。
「嬉しいです」
その声が、あまりにも優しくて。
玲司は自然に藤堂の髪へ触れていた。
濡れた髪が、少し冷たい。
でも。
隣の体温は温かかった。
静かな夜。
雨の音。
好きな人の重み。
こんな時間が、“幸せ”なんだと。
玲司は、少しずつ知っていった。




